桃の花をあなたに〜花言葉をキミに贈ろう〜

トン之助

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第3話 出逢

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「ど、どーしたの鬼神おくん? 体調悪い? 保健室行く?」


 彼の頬を雫が通り過ぎた所を見た担任の白石ハルカ先生が慌てて声をかけた。彼は自分の顔を手で撫でると泣いている事に気づいたみたいで少し赤くなる。


「失礼しました。大丈夫です。何でもありません」


 涙声になりながら口にした言の葉には何か含まれていそう。けれど私は少し勘違いをしてしまった。


「ちょっとかおる。あの子あんたの顔を見て泣いてるわよ? 何かしたんじゃ無いでしょうね?」


 そう言って話しかけた相手は、私の前席に座る幼馴染の1人、犬飼かおる。


「ねーってば? 聞いてるの?」


 肩を叩いても返事がない。

 まるで時間が止まっているようだ。


「ねぇソラ! かおるがフリーズしてるんだけ……ど」


 隣の席のソラを見て言葉が途中で止まってしまった。普段は無口で無愛想で、よく何を考えているかわからない彼女。

 その彼女が目と口を最大限に開いて彼の事を凝視していたから。


 私の頭の中は混乱していた。もしかして知り合いなのかな? そう思って咲葉の方を見てみると、彼女もまた特別な感情を抱いているような顔をする。


 嬉しそうな悲しいそうな……普段の腹黒は何処へいったというような複雑な表情。


 ごちゃごちゃした事を考えるのが苦手な私は、彼の自己紹介を素直に聞くことに。


「先程は失礼しました。改めましてご挨拶させて頂きます。名前は鬼神千姫といいます」


 そう言って彼は黒板に自分の名前を書き始めた。


「「やっぱり」」


 かおるとソラが小声で何かを言った気がしたが、私には聞き取れなかった。


「えーっと……家庭の事情で入学が遅れました。千姫って女の子みたいな名前だと良く言われますけど、男ですので! これからよろしくお願いします」


 今度は全員に向かって頭を下げた。

 クラスメイトは少し複雑な感情を抱いているような反応だった。


「けっこう可愛いよね」
「神秘的な雰囲気がいいかも」

「俺が立派な男にしてやるぜ」
「やめとけって。そっちの趣味だと思われる」

「僕がこの学校を隅々まで案内しようかな。その後はぐふふふっ……」

「マジでやめろ」


 女子も男子も転校生……ではないか。遅れてきた男の子に興味津々。いつまでも止まない言葉に小言を言おうと身を乗り出すと、それより早くハルカ先生が声に出す。


「は~い皆静かに~! 今日から一緒のクラスになるんだから仲良くしなきなゃ……ダ・メ・だ・ぞ!」


「「「「はい、センセー!」」」」


 ハルカ先生の間延びした声と仕草に今回は助けられた。主に男子達の声がやたらデカいのは気のせいだと思っておこう。


「それじゃあ席は~。あそこにお願いね?」


 先生の指示で彼は私の左隣の席になった。
 窓際の一番後ろの席。

 おずおずと歩いてくる彼を見てると少し胸がムズムズする。緊張してるのはわかるけど、もっとシャキッとして欲しい。
 なんでこんな事を思うんだろう。
 だから私は片手をあげて初対面の印象を良くしようと考えた。


「鬼神くんよろしくー」


 初対面の挨拶にしては軽かったかな? そんな感じでテキトーに、早く学校に慣れるように、そのニュアンスを言の葉に含んで。


 うん、この時はしっかり失礼のないようにしていたよ? 

 だけど、その後の事は流石に予想外だよね?

 いくら私でもそりゃぁ怒りますよ?


 じぃ―っ


 隣に来た彼がずっと私を見ている。
 そう私を。
 いや正確にはワタシの水平線の彼方まで真っ直ぐなある一部を。


 とりあえず事実確認が必要だよね?


「あのさ鬼神くん、どこ見てんの?」
「えっ? どこって……胸を」

「っ!?」


 その瞬間、私の瞬間湯沸かし器みたいな感情が爆発した。




 ビコンッ!


 


 後から咲葉達に聞いた話ではこう言っていた。


「あれはビンタの音じゃ無かったわね」
「もうちょっと優しくしろよな。いくら私でもアレは引くぞ?」
「雪音は世界を狙える……フフッ」


 だってしょうがないじゃん。
 初対面の人に自分のコンプレックスをバカにされたんだから!


 これが彼と私の出逢い。

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