若返り薬を使ってあなたを手に入れたい

若葉結実(わかば ゆいみ)

文字の大きさ
5 / 47

狂気

しおりを挟む
 その日の夜。

 ほとんど生活必需品しかないと言ってもよいほど、シンプルな部屋で、晴美は一人で頭を抱えて、ベージュのカーペットの上に座っていた。

「確かに沙織さんは年齢の割には可愛い。でも私はそれに加え、若さがある。なのに、どうして?」

「誠君を思う気持ちだって上のはず。こんなにも好きなのに、どうして伝わらないの? 納得できない……」

 晴美は呟くと、スッと立ち上がった。
 台所の方へ行き、冷蔵庫を開ける。

 350mlのペットボトルのお茶を一本取り出すと、冷蔵庫を閉めた。

 ※※※

 次の日の昼過ぎ。

 誠はアルバイトに出かけ、沙織はダイニングの奥にある居間で、ソファーに座りながら、テレビを見ていた。

 ピンポーンと、チャイムの音が聞こえる。

「はーい」

 沙織は立ち上がると、テレビを消し、玄関に向かった。

 ドアを開けると、そこには350mlのペットボトルを2本持った晴美が立っていた。

 天気が曇り始めたせいか、表情がどこ暗いようにも見える。
 
「晴美ちゃん……息子ならアルバイトだよ」
「いえ、今日は誠君に用事があって、来たんじゃないんです」

「じゃあ私に?」
「はい」

「そう。じゃあ上がって」
「お邪魔します」

 二人は廊下を進み、ダイニングに入る。

「適当に座って。いま、お菓子を用意するから」
「はい、ありがとうございます」

 晴美は返事をすると、手前の椅子に座った。
 ペットボトルの蓋を開け、自分の所と、向かい側に置く。

「沙織さん。お茶を買ってきたので、置いておきますね」
「ありがとう。頂くわ」

 沙織はチョコレートとスナック菓子を用意すると、向かいの椅子に座った。
 
「どうぞ。こんなものしかなくて、ごめんね」
「いえ、ありがとうございます」
「今日も暑いわね。蒸してるわ……」

 沙織はそう言うと、よほど喉が渇いていたのか、晴美が用意してくれたお茶をゴクゴクと飲み始めた。

 3分1程度、残した所で、机に置く。

「でも天気が荒れるみたいね。雷もあるみたい」
「そうみたいですね」

「ところで用って何?」
「実は……誠君に振られちゃいました」
「あら、そう……どうして?」

 無神経に質問してくる沙織に腹が立ったのか、晴美の表情が急に険しくなる。

 パラパラと雨が降り始めた音が室内にまで聞こえ、ゴロゴロと雷の音も聞こえ始めた。

「どうして? 他に気になる人がいるみたいです」

 晴美は感情を抑えるかのように、低い声で答える。

「あら、そんなこと言っていなかったわよ」
「そりゃ、そうよ。――だって相手は、あなたなんだから」

 晴美の険しい顔は沙織を恨み、睨んでいるかのようにも見える。

「え……どういうこと?」
「応援するって言っていたのに……裏で誠を誘惑していたんでしょ?」

「ちょっと待って、落ち着いて」

 八つ当たりとも取れる発言に、沙織は慌てて、冷静に話をする方向へと持ち込もうとする。

「まぁいいわ。どうせあなたは、この世から居なくなるんだから」

 稲光が一瞬、晴美の顔を照らしたかと思えば、爆発音が轟く。

 狂気さえ感じる晴美の表情と発言に、沙織は体を硬直させ、驚きを隠せない様子だった。

「それって……どういう事よ?」

 晴美は灰色のスカートのポケットから、薄ピンクの液体が少し残った小さい透明の小瓶を取り出し、沙織に見せた。
 
「あなたが飲んだお茶に、若返り薬を混ぜたの。誰もが憧れる若返り薬……でも大量に飲めば、どうなると思う?」

 いつも温かみがある晴美の表情は、こんな表情も持っているのかと驚くほど、冷たい表情へと変わっていた。

 沙織はゾッとしたような顔で、勢いよく立ち上がる。

「吐き出しても無駄よ。これは一度、飲んでしまえば、効果は出てくる」
「うっ……」

 沙織が急に顔を歪め、胸を押さえ出す。

「ほらね」

 沙織は苦しみながらも、ズボンから携帯を取り出し、119番をした。

「あとね、医者に診てもらっても無駄、何も見つからないわ」

 晴美はスッと立ち上がると、スカートのポケットに薬を戻した。

 テーブルにあるペットボトルを2本、回収すると、台所に向かった。

 ドボドボとペットボトルの中身をシンクに流していく。

「証拠なんて見つからないだろうけど、念のためね」

 ペットボトルが空になる。

「はい、これでおしまい」

 ハートでも最後につきそうな言い方で晴美は言うと、水で更に流した。

 空になったペットボトルを回収し、ダイニングに戻った瞬間、沙織がドタッと倒れこむ。

 晴美は冷やかな目で沙織を見下ろすと、部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

処理中です...