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拘る理由
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「好きな人に拘るのは、おかしい?」
「おかしくはない。おかしくはないけど、あなたのはちょっと……」
沙織はそれ以上言うと、晴美を怒らせると思ったのか、言葉を詰まらせる。
「異常と言いたいの? ――まぁ確かに異常かもね」
晴美はそう答え、髪を耳に掛けた。
「なぜ拘るのか? 私を見てくれたのは、誠君だけだったからよ」
何か思惑があるのか晴美は、すんなりと答える。
「あなた、おっとりしたような性格に見えるけど、勘は鋭そうだから気付いているかもしれないけど、私も若返り薬を飲んでいるの。本当はあなたと同じぐらいよ」
晴美は空を見上げ、透き通るような青い空を見つめながら、悲しそうな表情で過去を語り出した。
「まだ薬を飲む前、私はドメスティックバイオレンスの夫と別れた」
「子供嫌いの夫だったから、子供は居なかったけど、結婚した時に仕事を辞めていたから、仕事を探し、ファーストフード店で働き始めた」
「右も左も分からないバツイチのオバサンに、みんなの対応は冷たかったわ」
「軽蔑され、何も教えてもらえず、ただ怒られだけする毎日。若い子だけがチヤホヤされ、丁寧に教えて貰える中、当時、高校生で私より前に働いていた誠君だけは違った。あの子は年齢に限らず優しく教えてくれた」
「恋に落ちるのは、そう遠くはなかった。でも私はオバサン……きっと見向きもされないだろうと諦めていた。そんなとき、若返り薬に出会った」
晴美は空を見上げるのをやめ、スッと立ちあがる。
「自分で言うのは何だけど、若い頃はアイドルを目指そうかと思うぐらい、何人も告白され、モテていた。だから若返りさえすれば、きっと成功する。そう思っていた」
沙織の方を向き、睨みつけるかのような目をしながら、見下ろす。
「でも現実は甘くなかったようね……若返り薬は何があろうと止められない。諦めなさい」
晴美は沙織の逃げ道を塞ぐかのように、そう言い残すと、去って行った。
沙織は呼び止める事も出来なかったのか、ただ悲しい顔だけ浮かべて見送っていた。
※※※
沙織は家に帰ると、浮かない顔で食材を冷蔵庫にしまい始める。
「あ、いけない。これ冷凍だった」
よほど集中して考え事をしていたのか、冷凍食品の唐揚げを冷蔵室に入れていた。
慌てて取り出し、冷凍室にしまう。
買い物した袋から、鮭の切り身と挽き肉のパックを取り出すと、動きが止まる。
少しして、挽き肉をワークトップに置くと、鮭の切り身を冷凍庫にしまった。
全てしまい終わると、二階にある自分の寝室へと向かう
沙織の部屋は、余計な小物などはなく、小奇麗にしてある。
窓際にある机の方に行くと、椅子を引いて座った。
机の上にある写真立てを手に取り、ジッと眺め始める。
その写真には若い頃の沙織と旦那が写っていた。
写真の二人はとても幸せそうで、ピースをしながら写っている。
「今の私はこれぐらいかしら?」
そう呟くと、写真立てを机に置く。
腕を伸ばし、机の上に置いてある黒くて丸いフレームの手鏡を手に取る。
顔の前に持って来ると、自分の顔を見つめ始めた。
「はぁ……」
大きく溜め息をつくと、これ以上、自分の姿を見たくないのか、フレームの方を上にして、手鏡を机の上に置く。
スッと腕を伸ばし、手鏡を元の位置に戻すと、また写真立てを手に取った。
「誠君の顔が、お父さんにソックリという事は、私が愛したあなたにも、ソックリという事……うぅん、顔だけじゃない。声や仕草、性格までも、あなたを感じる時があるの」
「もし本当に誠君が告白してきたら、私……どうなってしまうのかしら? ――ねぇ、もしそうなったら、どうやって応えたら良いと思う?」
窓から少し強い風が入りこみ、まるで沙織の気持ちを表しているかのように、白いレースのカーテンが、ユラユラと揺れていた。
※※※
誠はバイトを終え、床屋に来ていた。
何か覚悟を決めたかのように、いままでにないショートヘアで、店から出てくる。
「ちょっと短過ぎたかな? まぁいいか」
と、呟くと自転車に乗った。
誠が自転車を走らせ、家に着く頃には18時30になっていた。
自転車を玄関脇に停めると、家に入る。
玄関で靴を脱ぐと、ダイニングへと向かった。
「ただいま、沙織さん」
「お帰りなさい」
夕飯を作っていた沙織が、タオルで手を拭くと、台所から出てくる。
誠は口をポカーンと開け、黙って沙織が近づいてくるのを待っていた。
「沙織さん、また若くなってる?」
沙織は誠の言うとおり、肌に艶が戻り、顔のラインがスッキリしていて、若返っているように見えた。
身長などは変わっていないので、20代後半ぐらいだろうか。
「うん、そうね。でも仕方ないわよ」
「仕方ないってなんだよ。諦めたみたいに言うなよ」
「じゃあ、どうすればいいの? お互い散々調べたけど、何も手掛かりなんてないじゃない」
「それは、そうだけど……」
沙織の怒りをぶつけるかのような、少し強い口調に誠は、たじろぐ。
「ごめん。言い方、強かったね。ご飯にする?」
「うん」
「じゃあ、手を洗ってきなさい」
「うん」
誠は洗面所に向かって歩いていった。
沙織はまた台所に向かい、夕食の準備を始めた。
「おかしくはない。おかしくはないけど、あなたのはちょっと……」
沙織はそれ以上言うと、晴美を怒らせると思ったのか、言葉を詰まらせる。
「異常と言いたいの? ――まぁ確かに異常かもね」
晴美はそう答え、髪を耳に掛けた。
「なぜ拘るのか? 私を見てくれたのは、誠君だけだったからよ」
何か思惑があるのか晴美は、すんなりと答える。
「あなた、おっとりしたような性格に見えるけど、勘は鋭そうだから気付いているかもしれないけど、私も若返り薬を飲んでいるの。本当はあなたと同じぐらいよ」
晴美は空を見上げ、透き通るような青い空を見つめながら、悲しそうな表情で過去を語り出した。
「まだ薬を飲む前、私はドメスティックバイオレンスの夫と別れた」
「子供嫌いの夫だったから、子供は居なかったけど、結婚した時に仕事を辞めていたから、仕事を探し、ファーストフード店で働き始めた」
「右も左も分からないバツイチのオバサンに、みんなの対応は冷たかったわ」
「軽蔑され、何も教えてもらえず、ただ怒られだけする毎日。若い子だけがチヤホヤされ、丁寧に教えて貰える中、当時、高校生で私より前に働いていた誠君だけは違った。あの子は年齢に限らず優しく教えてくれた」
「恋に落ちるのは、そう遠くはなかった。でも私はオバサン……きっと見向きもされないだろうと諦めていた。そんなとき、若返り薬に出会った」
晴美は空を見上げるのをやめ、スッと立ちあがる。
「自分で言うのは何だけど、若い頃はアイドルを目指そうかと思うぐらい、何人も告白され、モテていた。だから若返りさえすれば、きっと成功する。そう思っていた」
沙織の方を向き、睨みつけるかのような目をしながら、見下ろす。
「でも現実は甘くなかったようね……若返り薬は何があろうと止められない。諦めなさい」
晴美は沙織の逃げ道を塞ぐかのように、そう言い残すと、去って行った。
沙織は呼び止める事も出来なかったのか、ただ悲しい顔だけ浮かべて見送っていた。
※※※
沙織は家に帰ると、浮かない顔で食材を冷蔵庫にしまい始める。
「あ、いけない。これ冷凍だった」
よほど集中して考え事をしていたのか、冷凍食品の唐揚げを冷蔵室に入れていた。
慌てて取り出し、冷凍室にしまう。
買い物した袋から、鮭の切り身と挽き肉のパックを取り出すと、動きが止まる。
少しして、挽き肉をワークトップに置くと、鮭の切り身を冷凍庫にしまった。
全てしまい終わると、二階にある自分の寝室へと向かう
沙織の部屋は、余計な小物などはなく、小奇麗にしてある。
窓際にある机の方に行くと、椅子を引いて座った。
机の上にある写真立てを手に取り、ジッと眺め始める。
その写真には若い頃の沙織と旦那が写っていた。
写真の二人はとても幸せそうで、ピースをしながら写っている。
「今の私はこれぐらいかしら?」
そう呟くと、写真立てを机に置く。
腕を伸ばし、机の上に置いてある黒くて丸いフレームの手鏡を手に取る。
顔の前に持って来ると、自分の顔を見つめ始めた。
「はぁ……」
大きく溜め息をつくと、これ以上、自分の姿を見たくないのか、フレームの方を上にして、手鏡を机の上に置く。
スッと腕を伸ばし、手鏡を元の位置に戻すと、また写真立てを手に取った。
「誠君の顔が、お父さんにソックリという事は、私が愛したあなたにも、ソックリという事……うぅん、顔だけじゃない。声や仕草、性格までも、あなたを感じる時があるの」
「もし本当に誠君が告白してきたら、私……どうなってしまうのかしら? ――ねぇ、もしそうなったら、どうやって応えたら良いと思う?」
窓から少し強い風が入りこみ、まるで沙織の気持ちを表しているかのように、白いレースのカーテンが、ユラユラと揺れていた。
※※※
誠はバイトを終え、床屋に来ていた。
何か覚悟を決めたかのように、いままでにないショートヘアで、店から出てくる。
「ちょっと短過ぎたかな? まぁいいか」
と、呟くと自転車に乗った。
誠が自転車を走らせ、家に着く頃には18時30になっていた。
自転車を玄関脇に停めると、家に入る。
玄関で靴を脱ぐと、ダイニングへと向かった。
「ただいま、沙織さん」
「お帰りなさい」
夕飯を作っていた沙織が、タオルで手を拭くと、台所から出てくる。
誠は口をポカーンと開け、黙って沙織が近づいてくるのを待っていた。
「沙織さん、また若くなってる?」
沙織は誠の言うとおり、肌に艶が戻り、顔のラインがスッキリしていて、若返っているように見えた。
身長などは変わっていないので、20代後半ぐらいだろうか。
「うん、そうね。でも仕方ないわよ」
「仕方ないってなんだよ。諦めたみたいに言うなよ」
「じゃあ、どうすればいいの? お互い散々調べたけど、何も手掛かりなんてないじゃない」
「それは、そうだけど……」
沙織の怒りをぶつけるかのような、少し強い口調に誠は、たじろぐ。
「ごめん。言い方、強かったね。ご飯にする?」
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「じゃあ、手を洗ってきなさい」
「うん」
誠は洗面所に向かって歩いていった。
沙織はまた台所に向かい、夕食の準備を始めた。
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