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惑わすような言葉
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次の日の朝。
「マコちゃーん。今日はバイトでしょ? 時間、大丈夫?」
沙織が一階の階段から、誠を起こしている。
誠は昨夜から眠れない様子で、朝方ようやく眠りにつき、11時になっても、まだ寝ていた。
「マコちゃーん?」
二回目の呼びかけに、ようやく目を覚ます。
「ヤベッ」
誠は慌てて飛び起きると、そのままの恰好で部屋を出た。
階段を見下ろすと、安堵の表情を浮かべる。
沙織はまだ、30代ぐらいの姿だった。
沙織がクスッと笑う。
「なに、その恰好? ズボンぐらい履きなさい」
誠は暑かったのか、白いTシャツとパンツ姿のまま寝ていたのだ。
「あ、あぁ」
誠は若くなった沙織に、パンツ姿を見られたのが恥ずかしかったのか、すぐに部屋に入って行った。
床に落ちていたデニムのジーパンを履くと、また部屋を出る。
階段を降りて、ダイニングへ向った。
「沙織さん、おはよう」
「おはよう。ご飯、食べるでしょ?」
誠は時計を見て「うん」
「出掛けるのは何時?」
「13時前には出ていくかな」
「分かった。お昼は?」
「これがお昼みたいなもんだから」
「そうね」
誠は遅い朝食を食べ終え、12時を過ぎると、いつものように沙織に見送られ、外に出た。
自転車に乗り、アルバイト先へと向かう。
30分ほど走らせ、カラオケ店に着くと、駐輪場に停めた。
店内に入り、従業員の休憩室へと向かう。
狭くてタバコ臭い休憩室に入ると、パイプ椅子に座りながら、煙草を吸っている40代ぐらいの男性に近づいた。
「お、畑中君。早いじゃないか」
「はい。店長、ちょっとご相談がありまして」
「相談? 何?」
「実は――」
※※※
沙織は誠を見送った後、近くのスーパーに買い物に出かけたが、お目当ての食材が見つからなかったので、少し離れたスーパーに足を延ばしていた。
その帰り道。
「あれって……」
沙織は目の前を歩いている女性の後ろ姿に、見覚えがあったのか、駆け寄っていく。
手を伸ばして届くくらいの距離まで近づくと、女性の肩を掴んだ。
「すみません」
沙織が声をかけると、女性が振り向く。
「あら、沙織さん。まだその姿なの?」
晴美は沙織の姿をみて、冷やかな目つきで、そう言った。
「まずは謝るわ。昨日は突然、電話を切ったりして、ごめんなさい」
沙織は深々と頭を下げる。
晴美は表情一つ変えずに沙織を見つめる。
「そんなあなたが、私に何の用?」
沙織は頭をあげると、晴美の手を握った。
「お願い、少しで良いから話をしない?」
晴美は嫌そうに手を振り解くと、顎に手を当てた。
「そうね……付き纏われてもウザいし、少しなら良いわよ」
「ありがとう。この先の公園で話しましょう」
二人は数分歩き、遊具が滑り台とブランコしかない、敷地の狭い公園に着く。
いくつもあるベンチの中、木陰のある古びた木製のベンチを選び、座った。
暑い時間帯ということもあり、親も子供も見当たらない。
お互い目を合わせず、緊迫した空気の中、二人をイライラさせるかのように、ミンミン蝉だけが忙しく鳴いている。
最初に沙織が口を開く。
「始めに言っておくわ。私は息子として、あの子を愛しているだけで、それ以外は何も思っていない。応援する気持ちも本当だったわ」
本気なのか、それとも晴美を欺くための嘘なのか、沙織はそう切り出す。
「あら、そう……だから? あなたがそうでも、誠君はあなたのことが好きなのよ? それだけで私にとっては邪魔な存在なの」
晴美の心には揺るぎはなく、付け入る余地を与えない。
「それにあなた、今はそうでも、告白されたら今の関係を保てる自信はあるの? 誠君と同じ年齢になった時はどう? 可能性がある中でも、大丈夫と言えるかしら?」
誠と会話を交わす中で、沙織も誠に気がありそうだと感じていたのか、惑わすような言葉を入り混ぜながら、攻め始める。
沙織は思い当たる節があるのか、困惑した様子で、眉を顰めた。
「それは……分からない」
「ほらね?」
「――ねぇ、何であなたは、そこまで息子に拘《こだわ》るの?」
「マコちゃーん。今日はバイトでしょ? 時間、大丈夫?」
沙織が一階の階段から、誠を起こしている。
誠は昨夜から眠れない様子で、朝方ようやく眠りにつき、11時になっても、まだ寝ていた。
「マコちゃーん?」
二回目の呼びかけに、ようやく目を覚ます。
「ヤベッ」
誠は慌てて飛び起きると、そのままの恰好で部屋を出た。
階段を見下ろすと、安堵の表情を浮かべる。
沙織はまだ、30代ぐらいの姿だった。
沙織がクスッと笑う。
「なに、その恰好? ズボンぐらい履きなさい」
誠は暑かったのか、白いTシャツとパンツ姿のまま寝ていたのだ。
「あ、あぁ」
誠は若くなった沙織に、パンツ姿を見られたのが恥ずかしかったのか、すぐに部屋に入って行った。
床に落ちていたデニムのジーパンを履くと、また部屋を出る。
階段を降りて、ダイニングへ向った。
「沙織さん、おはよう」
「おはよう。ご飯、食べるでしょ?」
誠は時計を見て「うん」
「出掛けるのは何時?」
「13時前には出ていくかな」
「分かった。お昼は?」
「これがお昼みたいなもんだから」
「そうね」
誠は遅い朝食を食べ終え、12時を過ぎると、いつものように沙織に見送られ、外に出た。
自転車に乗り、アルバイト先へと向かう。
30分ほど走らせ、カラオケ店に着くと、駐輪場に停めた。
店内に入り、従業員の休憩室へと向かう。
狭くてタバコ臭い休憩室に入ると、パイプ椅子に座りながら、煙草を吸っている40代ぐらいの男性に近づいた。
「お、畑中君。早いじゃないか」
「はい。店長、ちょっとご相談がありまして」
「相談? 何?」
「実は――」
※※※
沙織は誠を見送った後、近くのスーパーに買い物に出かけたが、お目当ての食材が見つからなかったので、少し離れたスーパーに足を延ばしていた。
その帰り道。
「あれって……」
沙織は目の前を歩いている女性の後ろ姿に、見覚えがあったのか、駆け寄っていく。
手を伸ばして届くくらいの距離まで近づくと、女性の肩を掴んだ。
「すみません」
沙織が声をかけると、女性が振り向く。
「あら、沙織さん。まだその姿なの?」
晴美は沙織の姿をみて、冷やかな目つきで、そう言った。
「まずは謝るわ。昨日は突然、電話を切ったりして、ごめんなさい」
沙織は深々と頭を下げる。
晴美は表情一つ変えずに沙織を見つめる。
「そんなあなたが、私に何の用?」
沙織は頭をあげると、晴美の手を握った。
「お願い、少しで良いから話をしない?」
晴美は嫌そうに手を振り解くと、顎に手を当てた。
「そうね……付き纏われてもウザいし、少しなら良いわよ」
「ありがとう。この先の公園で話しましょう」
二人は数分歩き、遊具が滑り台とブランコしかない、敷地の狭い公園に着く。
いくつもあるベンチの中、木陰のある古びた木製のベンチを選び、座った。
暑い時間帯ということもあり、親も子供も見当たらない。
お互い目を合わせず、緊迫した空気の中、二人をイライラさせるかのように、ミンミン蝉だけが忙しく鳴いている。
最初に沙織が口を開く。
「始めに言っておくわ。私は息子として、あの子を愛しているだけで、それ以外は何も思っていない。応援する気持ちも本当だったわ」
本気なのか、それとも晴美を欺くための嘘なのか、沙織はそう切り出す。
「あら、そう……だから? あなたがそうでも、誠君はあなたのことが好きなのよ? それだけで私にとっては邪魔な存在なの」
晴美の心には揺るぎはなく、付け入る余地を与えない。
「それにあなた、今はそうでも、告白されたら今の関係を保てる自信はあるの? 誠君と同じ年齢になった時はどう? 可能性がある中でも、大丈夫と言えるかしら?」
誠と会話を交わす中で、沙織も誠に気がありそうだと感じていたのか、惑わすような言葉を入り混ぜながら、攻め始める。
沙織は思い当たる節があるのか、困惑した様子で、眉を顰めた。
「それは……分からない」
「ほらね?」
「――ねぇ、何であなたは、そこまで息子に拘《こだわ》るの?」
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