若返り薬を使ってあなたを手に入れたい

若葉結実(わかば ゆいみ)

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変化

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 誠は沙織のことが心配になったのか、夕方になり講義が終わると直ぐに家に帰った。

 家に入ると、沙織が出迎える。

「あらマコちゃん、早かったわね」

 誠は返事をすることなく、沙織の顔をジッと見て、唖然としている。

「どうしたの? マコちゃん」
「沙織さん、化粧してる?」

「うぅん。していないわよ」
「若返っている」
「あら、やだ。そんなこと言っても、何もでないわよ」

 沙織は照れるようにそう言って、頬に手をあてた。

「いや、本当なんだって。鏡で自分の顔を見てみろよ」
「えっ」

 沙織は慌てて、洗面所の方へと駆けて行った。
 誠も靴を脱ぐと洗面所に向かう。

 沙織が驚いた様子もなく、色々な角度から、自分の顔をマジマジと鏡で見ている。
 誠が辿り着くと、振り返った。

「そう?」
「そうって、気付かないの?」
「えぇ」

「何で若返ったと思うの?」
「俺が初めてこの家に来た時の沙織さんと、同じ顔をしているから」

 沙織は元々、若々しい顔をしていて、シワも垂れも、ほとんど目立たなかったので、徐々に若返っていた事に気付かなかったみたいだった。

「というと、35歳の時よね。10歳ぐらい若くなったってこと? たった1日で?」
「あぁ。マジかよ……」

 誠が俯くと、シーンと静まり返る部屋の中、携帯が鳴る。

 ズボンのポケットから携帯を取り出し、着信表示を見ると、驚きの表情を見せた。

 まるで見計らったかのように晴美からの電話だった。

「晴美からだ」
「早く出た方が良いんじゃない?」

「分かっている。スピーカーにするから、念のため物音立てずに聞いていてくれ」
「うん、分かった」
 
 誠は通話ボタンを押すと、耳にはあてずに、スピーカーにした。

「はい」
「もしもし、誠君。元気してた?」

 からかうような晴美の言い方に、誠の顔が険しくなる。

「元気してた? じゃねぇよ。沙織さんに若返り薬なんて、飲ませやがって!」

「怒っているということは、順調に効いているのかしら?」

「あぁ……治し方を教えろ」

「分かった――だったら、取引をしましょ。沙織さんを治す代わりに、あなたは一生、私に身を捧げる……これでどう?」
 
 それを聞いた沙織が身を乗り出す。
 慌てて誠が止めて、首を振る。

「少し考えさせてくれ」

「そんなことを言っていて良いの? サービスで若返り薬を大量に入れたから、進行も早いんじゃない? それに電話だって、これっきりかもしれないわよ?」

 晴美は頭の回転が速いのか、自分が有利になるように話を進める。
 誠はたまらず頭を抱えた。

「さぁ、どうするのよ?」

 誠が顔をあげた瞬間――。

「電話を切りなさいッ!」

 堪えられなかったのか、沙織が誠に向かって怒鳴った。

「やっぱり側に居たのね、邪魔な女。あなたそれがどういう意味だか、分かって言っているの?」

「えぇ、分かっているわよ。マコちゃん、携帯を貸して」
「でも……」
「貸しなさいッ!」

 躊躇う誠から、沙織はむしり取るかのように携帯を奪うと、通話を切った。

 それでも怒りが収まらないのか、沙織は険し顔を浮かべたまま黙っている。

「――これで良かったのかな?」

 誠はまだ迷っているようで、浮かない表情を浮かべている。

「良かったのよ」
 
 沙織はそう言って、誠に携帯を返した。
 誠は受け取ると、ポケットにしまった。
 
「医者でも見つけられないものを、あの子がどうにか出来ると思う?」

「だけどあいつは、若返り薬を持っているんだぞ? 他に何か持っているかもしれない」

「そうね。でも持っていないかもしれない。それは分からない。分からない以上、慎重に進むべきだわ」

「そうだけど……」

「いい、マコちゃん。もうあの子には電話しないで。あと電話をかけてきても、私が居ない時は電話に出ないで。今の電話で、口が達者なのが分かった。言葉巧みにあなたを誘惑しようとするわよ」

 沙織は真剣な表情で誠を見つめ、たしなめた。

「分かったよ」

 誠はいまの自分の対応に不甲斐なさを感じたのか、すんなり返事をした。
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