若返り薬を使ってあなたを手に入れたい

若葉結実(わかば ゆいみ)

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 誠は朝食を食べると、出掛ける準備を始めた。
 いつものように沙織に見送られると、大学へと向かう。

 いくつも建物が並ぶ広いキャンパスに入ると、車の邪魔にならない様に端に寄った。

 ジーンズのポケットから携帯を取り出し、歩きながら電話を始める。

「やっぱり繋がらない」
「誰と繋がらないんだ?」
 
 同じ講義を受けるのか、誠を見つけた石田が横に並んで、歩きながら声を掛けた。

「お前が可愛いって言っていた女の子」

 誠は歩きながら答える。

「ふーん、やっぱり付き合うつもりか?」
「いや、ちょっと話したいことあって……それより石田」

「ん?」
「若返り薬ってあると思うか?」

「そんなのある訳ないだろ? そんなんあったら、欲しいくらいだわ。そうしたら――」
「あぁ、もういい」
「なんだよ、話の途中で」

「その後は想像つくから」
「お前も男だな」

 石田はそう言うとニヤっと笑った。

「でも石田。若返った後はどうするつもりだ?」
「ん?」

 石田は誠の質問に疑問を思ったようで足を止めた。
 誠も足を止め、石田の答えを待つ。

「あー、そこまで考えてないわ。そのまま生きる? それも嫌だなー」

「直ぐに戻りたいよな? どうやって調べる?」

「そりゃ、ネットだろ。それと友達とか? 警察は怪しまれそうだから手は出したくないし」

「そうだよな。ありがとう」

 石田の答えが自分の答えと合っていたのか、誠は嬉しそうに微笑んだ。

「あ、あぁ」

 ※※※

 誠は統計学を受講中、ノートパソコンで若返り薬についてネット検索していた。

 思ったものが見つからず、イライラしているのか顔を顰めている。

 講義が終わるまで、調べ物はずっと続いていた。

 石田は誠の様子がおかしい事に気付いているのか、チラホラとみて、気にしているようだった。
 
 昼休みになっても、誠は自習室へ行って、背もたれのない丸い椅子に座りながら、何人も使える白くて大きなテーブルの上に、パソコンを広げて調べ物をしていた。

 石田は隣で立ちながら様子を見ている。

「なぁ、誠。昼は?」
「いらない」
「いらないって……分かった」

 石田はそう返事をすると、出口の方へと歩いて行った。

 20分ぐらいして、石田はカレーパンやピザパンなど、いくつもの種類のパンを両手に抱えて戻ってくる。

 誠の前にそのパンを1個ずつ置いていく。

「ほら、好きなの選べよ」
「え、いいのか?」

 誠は申し訳なさそうに眉をひそめ、石田を見つめる。

「忙しそうだし、何か食べないと集中できないだろ?」
「石田……ありがとう。今度、何か奢るよ」

 石田は抱えていたパンをすべてテーブルに置くと、誠の隣に座る。

「いいよ。それより今度、数学の課題が出たら手伝ってくれよ」
「あ、それが目的だったのか?」
「バレた?」

 お互い笑顔で、腕の小突き合いを始める。

「誠、何か困ったら、相談してくれよな」

「ありがとう。いまの問題はちょっと難しいから、頼めそうなことあったら、お願いする」

「分かった。俺、飯食ったら邪魔にならない様に、どっか行くから」

「分かった。ありがとう」

 誠はカレーパンを手に取り、封を開ける。

 調べ物をしていても、イライラしている様子はなく、石田の優しさを噛みしめるかのように、ゆっくりと味わっていた。

 誠は講義が始まるまでの空き時間は、研究のためだと称して、人に声をかけ、若返り薬について聞いて回った。

 少年期に両親を亡くし、上手く人とコミュニケーションを取れずに過ごしてきた為か、人付き合いが苦手な様子であった。

 それでも必死に会話を続け、馬鹿にしたような顔をされようとも、情報を掴もうとしているようだった。

※※※

 その日の昼過ぎ。

 誠の家は夏だという事もあり、窓が開いていて、レースのカーテンも開いているため、通りすがりに、覗ける状態になっていた。

 晴美はそれを知っていたのか、誠の家の前を通り、チラッと視線を向け、中を確認している様子だった。

 視線をそのまま残し、急に立ち止まる。

 晴美の視線の先には、沙織が居た。
 沙織は居間いて、短パンとTシャツとラフな恰好で、ソファーに座りながら携帯を触っていた。

「若返っている?」

 晴美は沙織の姿に目立った変化がないためか、効果が分からなかった様で、顎に手を当てながら、去って行った。
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