16 / 47
決着
しおりを挟む
「どうして、調整をしたんだ?」
今度は誠が質問をする。
「最初から殺すつもりは無かった。若返り薬を使って、あなたを手に入れたかっただけなの。それだけのために? って、思うかもしれないけど、私にとって、それが全てだった」
晴美が発した言葉は、すべてを擲《なげう》ってでも、誠と結ばれたかったことを物語っていた。
「そのために、こんな事までしてしまって、申し訳ないと思っている。だから、しばらくあなた達の身の回りの手伝いもするし、お金だって用意する。もし恨んでいるなら、警察に連絡しても構わない」
必死にスラスラと言っている様子から、取繕うために言っているようには見えない。
晴美はこうなることまで想定して、罪を償う事まで覚悟していたのだろう。
「沙織さん、どうする? 俺はバイトを辞めただけだから」
「そうね……こんな姿になってしまったから、たまに買い物に付き合ってくれないかしら? 私がもう少し大きくなるまで良いから」
死ぬ騒ぎまで起きたのに、拍子抜けをしているのか、怒っている素振りも見せず、晴美を受け入れる。
「それだけで良いの?」
「うん。誠さんに危害があった訳じゃないから、警察に言うほど恨んでないわ」
「ありがとう」
晴美は涙声になりながらも、お礼を言った。
「うん」
二人が同時に返事をする。
「晴美の用はそれだけか?」
「うん」
「分かった。それじゃ、用がある時にはまた連絡するから」
「うん。分かった」
電話が切れる。
「やっぱりウソでしたって事にはならないよな?」
晴美が起こした罪は簡単に拭えないもの。
誠が疑うのも無理もない。
「多分、大丈夫よ」
「どうして?」
「あの子が私に見せた若返り薬、少し残っていた。本気で殺すつもりだったら、全部入れない?」
「うーん……逃げるためだけかもしれないぜ?」
「そうね……でもあなたを想う気持ちは、本当だったと思う。私はあの子を信じてあげたい」
若返り薬を自分で飲むということは、その後の弊害も覚悟をするという事。
きっと、その先が不安だった事もあるはず。
それすら受け入れ、誠と結ばれたいと思う晴美の強い気持ちを、沙織は知っている。
それにこんな形になってしまったとはいえ、この一件が起こる前は仲良く過ごしていた。
その思い出は色褪せることなく、沙織の心の中に残っている。
そんな晴美をもう、疑いたくなかったのかもしれない。
「――分かったよ」
誠は沙織の気持ちは察したようで、納得いかない雰囲気はあったものの、それ以上は何も言わなかった。
「ところで、誠さん」
「なに?」
「この誠さんの欲望丸出しのTシャツは何?」
沙織はニヤニヤしながら、そう言った。
Tシャツには、ど真ん中に大きく黒文字で、アイ・ラブ・パパと書かれていた。
文字の背景には大きな赤いハートが描かれている。
誠は色々なTシャツが店内に並ぶ中、あえてこれを選んでいた。
沙織はいくつも買ってきてもらったTシャツの中から、これを選び、着て来ていた。
いまの沙織の大きさからして、少しサイズが小さく、おヘソが見えていたが、これにしたのだ。
「それは……似合うかと思って」
「だったらママでも、良かったんじゃない?」
「考えてみたら、そうだな」
薄暗かった部屋に夏の強い日差しが入ってくる。
静かな部屋の中に、二人の笑い声だけが響き、とても幸せそうな笑みを浮かべていた。
このTシャツをあえて選んだ二人は、どんな結末になろうとも、この瞬間を味わい、思い出として残したかったのかもしれない。
「ねぇ、これ言って欲しい?」
「これ?」
沙織はTシャツの文字を指出す。
「こーれ!」
「あぁ。――言って欲しいかなー」
誠はニヤニヤと沙織を見つめる。
沙織は照れ臭そうに、自分の髪の毛を撫でた。
「もう、仕方ないな……一回しか言わないからね!」
「分かった。あ、せっかくだから録音していい?」
「駄目に決まってるでしょ!」
「冗談だよ。そんな全否定しなくても」
誠は椅子から立ち上がると、沙織と向き合うように立った。
沙織はスゥー……っと、鼻から息をし、口から吐き出す。
「ちょっと、そんな見つめないでよ。恥ずかしいな」
「だって目をそらしちゃ、勿体ないだろ?」
「そうだけど……まぁいいわ」
沙織は覚悟を決めたかのようにそう言うと、誠との距離を詰めた。
吐息を感じるぐらいの近さに誠は体を強張らせ、ドキドキしている様子だった。
「私“も”誠さんを愛しています」
沙織は囁くように告白し、誠をスッと抱き締めて、誠のお腹に顔を埋めた。
誠は沙織の告白を受け入れるかのように、スッと背中に手を回し、沙織を包む込んだ。
沙織の頭に頬をよせ、目を瞑る。
「ありがとう」
今度は誠が質問をする。
「最初から殺すつもりは無かった。若返り薬を使って、あなたを手に入れたかっただけなの。それだけのために? って、思うかもしれないけど、私にとって、それが全てだった」
晴美が発した言葉は、すべてを擲《なげう》ってでも、誠と結ばれたかったことを物語っていた。
「そのために、こんな事までしてしまって、申し訳ないと思っている。だから、しばらくあなた達の身の回りの手伝いもするし、お金だって用意する。もし恨んでいるなら、警察に連絡しても構わない」
必死にスラスラと言っている様子から、取繕うために言っているようには見えない。
晴美はこうなることまで想定して、罪を償う事まで覚悟していたのだろう。
「沙織さん、どうする? 俺はバイトを辞めただけだから」
「そうね……こんな姿になってしまったから、たまに買い物に付き合ってくれないかしら? 私がもう少し大きくなるまで良いから」
死ぬ騒ぎまで起きたのに、拍子抜けをしているのか、怒っている素振りも見せず、晴美を受け入れる。
「それだけで良いの?」
「うん。誠さんに危害があった訳じゃないから、警察に言うほど恨んでないわ」
「ありがとう」
晴美は涙声になりながらも、お礼を言った。
「うん」
二人が同時に返事をする。
「晴美の用はそれだけか?」
「うん」
「分かった。それじゃ、用がある時にはまた連絡するから」
「うん。分かった」
電話が切れる。
「やっぱりウソでしたって事にはならないよな?」
晴美が起こした罪は簡単に拭えないもの。
誠が疑うのも無理もない。
「多分、大丈夫よ」
「どうして?」
「あの子が私に見せた若返り薬、少し残っていた。本気で殺すつもりだったら、全部入れない?」
「うーん……逃げるためだけかもしれないぜ?」
「そうね……でもあなたを想う気持ちは、本当だったと思う。私はあの子を信じてあげたい」
若返り薬を自分で飲むということは、その後の弊害も覚悟をするという事。
きっと、その先が不安だった事もあるはず。
それすら受け入れ、誠と結ばれたいと思う晴美の強い気持ちを、沙織は知っている。
それにこんな形になってしまったとはいえ、この一件が起こる前は仲良く過ごしていた。
その思い出は色褪せることなく、沙織の心の中に残っている。
そんな晴美をもう、疑いたくなかったのかもしれない。
「――分かったよ」
誠は沙織の気持ちは察したようで、納得いかない雰囲気はあったものの、それ以上は何も言わなかった。
「ところで、誠さん」
「なに?」
「この誠さんの欲望丸出しのTシャツは何?」
沙織はニヤニヤしながら、そう言った。
Tシャツには、ど真ん中に大きく黒文字で、アイ・ラブ・パパと書かれていた。
文字の背景には大きな赤いハートが描かれている。
誠は色々なTシャツが店内に並ぶ中、あえてこれを選んでいた。
沙織はいくつも買ってきてもらったTシャツの中から、これを選び、着て来ていた。
いまの沙織の大きさからして、少しサイズが小さく、おヘソが見えていたが、これにしたのだ。
「それは……似合うかと思って」
「だったらママでも、良かったんじゃない?」
「考えてみたら、そうだな」
薄暗かった部屋に夏の強い日差しが入ってくる。
静かな部屋の中に、二人の笑い声だけが響き、とても幸せそうな笑みを浮かべていた。
このTシャツをあえて選んだ二人は、どんな結末になろうとも、この瞬間を味わい、思い出として残したかったのかもしれない。
「ねぇ、これ言って欲しい?」
「これ?」
沙織はTシャツの文字を指出す。
「こーれ!」
「あぁ。――言って欲しいかなー」
誠はニヤニヤと沙織を見つめる。
沙織は照れ臭そうに、自分の髪の毛を撫でた。
「もう、仕方ないな……一回しか言わないからね!」
「分かった。あ、せっかくだから録音していい?」
「駄目に決まってるでしょ!」
「冗談だよ。そんな全否定しなくても」
誠は椅子から立ち上がると、沙織と向き合うように立った。
沙織はスゥー……っと、鼻から息をし、口から吐き出す。
「ちょっと、そんな見つめないでよ。恥ずかしいな」
「だって目をそらしちゃ、勿体ないだろ?」
「そうだけど……まぁいいわ」
沙織は覚悟を決めたかのようにそう言うと、誠との距離を詰めた。
吐息を感じるぐらいの近さに誠は体を強張らせ、ドキドキしている様子だった。
「私“も”誠さんを愛しています」
沙織は囁くように告白し、誠をスッと抱き締めて、誠のお腹に顔を埋めた。
誠は沙織の告白を受け入れるかのように、スッと背中に手を回し、沙織を包む込んだ。
沙織の頭に頬をよせ、目を瞑る。
「ありがとう」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる