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いつもと違う雰囲気
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「ただいま」
誠は会社から帰宅すると、灰色の作業服を脱ぎながら、台所に居る沙織に声を掛けた。
「お帰りなさい」
沙織が台所から出てくる。
沙織の姿は高校生ぐらいになっていたが、その間、誠や晴美のサポートもあり、大きなトラブルは発生していなかった。
その事もあり、沙織は晴美に『もう手伝いに来なくて大丈夫よ』と伝えて、いまは二人だけの時間が多くなっていた。
「お風呂にする? ご飯にする?」
「飯にする。お腹減った」
「分かった」
まるで夫婦のような会話を交わし、沙織は台所へと向かう。
誠は脱ぎ終わった作業服を片手に持って、洗面所に向かった。
作業服を洗濯機に入れ、いつものように手洗い、うがいを済ませると、洗面所を出る。
誠がダイニングに戻り、自分の席に座ると、沙織がご飯を運んできた。
食卓には焼いた鮭に、味噌汁、味付け海苔が並んでいる。
美味しそうな味噌汁の匂いが漂い、誠はグゥー……とお腹を鳴らしながら、箸を持った。
「いただきます」
「召し上がれ」
誠は夢中で夕御飯を食べ進めていく。
沙織は誠の正面に座り、ニコニコしながら、その様子を見つめていたが、しばらくして顔が曇り始める。
「ねぇ、誠さん」
「ん?」
「今日、ふと思ったんだけど、私このままの姿で大丈夫かな?」
誠は口の中のご飯を噛み終えると、ゴクリと飲み込む。
「ちょっと心配だよな」
「うん。いずれは親戚とか、私を知っている人に、顔を見せなきゃいけない時が来るかもしれないしね。若返り薬と反対の薬があれば良いんだけど」
「そうだな。命が助かったから、安心していたけど、また探してみようか」
「うん。もしかしたら晴美ちゃんが何か知っているかもしれないし、今度聞いてみるね」
「分かった」
沙織は安心したのか、明るい表情を浮かべ、誠がご飯を食べ終わるのを、その場で待っていた。
※※※
次の日の朝。
誠が就職した電子部品を製造する工場には、友達の石田も務めており、誠は品質管理課、石田は生産管理課に配属されていた。
石田の作業は主にパソコン仕事のため、自分の鉄の机と椅子が与えられていた。
いまは始業時間前という事もあり、コーヒーを飲みながらくつろいでいる。
そこへ作業着姿の楓が近づいていく。
「石田君、おはよ」
楓は親しげに石田に手を振りながら、元気が貰えるような明るく、ハッキリした声で挨拶をし、隣に座る。
「おはようございます」
石田は挨拶された事が嬉しかったのか笑顔で挨拶を交わしていた。
「あれ、楓さん。いつもと感じが違いますね?」
楓は晴美から貰った若返り薬を、早速試していた。
その影響で、少し若くなった雰囲気はあるが、明確に変わったと言える程ではない。
それでも石田は少しの変化に、直ぐに気付いた。
楓は椅子を回して石田の方を向くと、嬉しそうにニコッと笑う。
「あら、良く気が付いたわね。化粧水を替えてみたの」
「へぇー……」
「どう? 良い感じ?」
「は、はい。良い感じ……だと思います」
石田は照れ臭くて、素直に良い感じと言えないのか、ハニカミながら返事を返す。
「そう、良かった!」
楓は鼻歌でも歌いそうな上機嫌な様子で返答をし、正面を向くと、デスクトップのパソコンの電源を入れた。
※※※
「まずは謝っておくわね。沙織さん、ごめんなさい」
晴美と沙織は、スーパーで買い物を済ませ、近くの喫茶店に来ていた。
沙織は目の前に置かれたチョコレートパフェのバナナをクリームと一緒にスプーンですくい、パクッと食べる。
「何をやらかしたの?」
と、苦笑いを浮かべながら答えた。
「実は私が若いころ勤めていたスナックに楓ちゃんっていう後輩が居たんだけど、その子に、若返り薬を少し分けてしまったの」
「何でまた?」
沙織は驚きながらも、パフェを食べ続ける。
「その子は独身で、自分の年齢を気にしていたから、可哀想で……それにお金も欲しくて」
「晴美ちゃん、お金に困っているの?」
「あ、生活するには問題無いです。ただ欲しいと思っているものがあって」
「ふーん……嫌な予感しかしないけど、ごめんなさいと、どんな関係が?」
「楓ちゃんはスナックを辞めた後、誠君と同じ工場に勤めているの」
「何となく、先が読めてしまったわ」
「お察しの通りです。その子、誠君に気があったみたいで、若くなったからアプローチするって言っていました」
「やっぱりね……」
沙織はヤケ食いするかのように、パフェをバクバクと食べ進める。
「あ、私もパフェ、一口食べていいですか?」
「どーぞ」
晴美はテーブルの上にあったスプーンを手に取ると、パフェのチョコレートケーキとクリームをすくって、一口食べた。
「うん、美味しい」
晴美は幸せそうに満面の笑みを浮かべる。
沙織は頬杖をかくと「何であの子。年上女性にもてるのかしら?」
「何でかしらね? 私達が似た者同士だから?」
「それ、私も入ってる?」
「もちろん」
「――まぁ、否定はしないけど」
沙織は照れ臭そうに、プイっと晴美から顔を逸らす。
「いっそのこと、私も誠君と同じ会社に入社して、狙ってみようかしら」
「冗談に聞こえないから、やめて頂戴」
「はーい。まぁ楓ちゃんは可哀想だけど、誠君なら何も心配は無さそうだけどね」
「そうだと良いけどね」
誠は会社から帰宅すると、灰色の作業服を脱ぎながら、台所に居る沙織に声を掛けた。
「お帰りなさい」
沙織が台所から出てくる。
沙織の姿は高校生ぐらいになっていたが、その間、誠や晴美のサポートもあり、大きなトラブルは発生していなかった。
その事もあり、沙織は晴美に『もう手伝いに来なくて大丈夫よ』と伝えて、いまは二人だけの時間が多くなっていた。
「お風呂にする? ご飯にする?」
「飯にする。お腹減った」
「分かった」
まるで夫婦のような会話を交わし、沙織は台所へと向かう。
誠は脱ぎ終わった作業服を片手に持って、洗面所に向かった。
作業服を洗濯機に入れ、いつものように手洗い、うがいを済ませると、洗面所を出る。
誠がダイニングに戻り、自分の席に座ると、沙織がご飯を運んできた。
食卓には焼いた鮭に、味噌汁、味付け海苔が並んでいる。
美味しそうな味噌汁の匂いが漂い、誠はグゥー……とお腹を鳴らしながら、箸を持った。
「いただきます」
「召し上がれ」
誠は夢中で夕御飯を食べ進めていく。
沙織は誠の正面に座り、ニコニコしながら、その様子を見つめていたが、しばらくして顔が曇り始める。
「ねぇ、誠さん」
「ん?」
「今日、ふと思ったんだけど、私このままの姿で大丈夫かな?」
誠は口の中のご飯を噛み終えると、ゴクリと飲み込む。
「ちょっと心配だよな」
「うん。いずれは親戚とか、私を知っている人に、顔を見せなきゃいけない時が来るかもしれないしね。若返り薬と反対の薬があれば良いんだけど」
「そうだな。命が助かったから、安心していたけど、また探してみようか」
「うん。もしかしたら晴美ちゃんが何か知っているかもしれないし、今度聞いてみるね」
「分かった」
沙織は安心したのか、明るい表情を浮かべ、誠がご飯を食べ終わるのを、その場で待っていた。
※※※
次の日の朝。
誠が就職した電子部品を製造する工場には、友達の石田も務めており、誠は品質管理課、石田は生産管理課に配属されていた。
石田の作業は主にパソコン仕事のため、自分の鉄の机と椅子が与えられていた。
いまは始業時間前という事もあり、コーヒーを飲みながらくつろいでいる。
そこへ作業着姿の楓が近づいていく。
「石田君、おはよ」
楓は親しげに石田に手を振りながら、元気が貰えるような明るく、ハッキリした声で挨拶をし、隣に座る。
「おはようございます」
石田は挨拶された事が嬉しかったのか笑顔で挨拶を交わしていた。
「あれ、楓さん。いつもと感じが違いますね?」
楓は晴美から貰った若返り薬を、早速試していた。
その影響で、少し若くなった雰囲気はあるが、明確に変わったと言える程ではない。
それでも石田は少しの変化に、直ぐに気付いた。
楓は椅子を回して石田の方を向くと、嬉しそうにニコッと笑う。
「あら、良く気が付いたわね。化粧水を替えてみたの」
「へぇー……」
「どう? 良い感じ?」
「は、はい。良い感じ……だと思います」
石田は照れ臭くて、素直に良い感じと言えないのか、ハニカミながら返事を返す。
「そう、良かった!」
楓は鼻歌でも歌いそうな上機嫌な様子で返答をし、正面を向くと、デスクトップのパソコンの電源を入れた。
※※※
「まずは謝っておくわね。沙織さん、ごめんなさい」
晴美と沙織は、スーパーで買い物を済ませ、近くの喫茶店に来ていた。
沙織は目の前に置かれたチョコレートパフェのバナナをクリームと一緒にスプーンですくい、パクッと食べる。
「何をやらかしたの?」
と、苦笑いを浮かべながら答えた。
「実は私が若いころ勤めていたスナックに楓ちゃんっていう後輩が居たんだけど、その子に、若返り薬を少し分けてしまったの」
「何でまた?」
沙織は驚きながらも、パフェを食べ続ける。
「その子は独身で、自分の年齢を気にしていたから、可哀想で……それにお金も欲しくて」
「晴美ちゃん、お金に困っているの?」
「あ、生活するには問題無いです。ただ欲しいと思っているものがあって」
「ふーん……嫌な予感しかしないけど、ごめんなさいと、どんな関係が?」
「楓ちゃんはスナックを辞めた後、誠君と同じ工場に勤めているの」
「何となく、先が読めてしまったわ」
「お察しの通りです。その子、誠君に気があったみたいで、若くなったからアプローチするって言っていました」
「やっぱりね……」
沙織はヤケ食いするかのように、パフェをバクバクと食べ進める。
「あ、私もパフェ、一口食べていいですか?」
「どーぞ」
晴美はテーブルの上にあったスプーンを手に取ると、パフェのチョコレートケーキとクリームをすくって、一口食べた。
「うん、美味しい」
晴美は幸せそうに満面の笑みを浮かべる。
沙織は頬杖をかくと「何であの子。年上女性にもてるのかしら?」
「何でかしらね? 私達が似た者同士だから?」
「それ、私も入ってる?」
「もちろん」
「――まぁ、否定はしないけど」
沙織は照れ臭そうに、プイっと晴美から顔を逸らす。
「いっそのこと、私も誠君と同じ会社に入社して、狙ってみようかしら」
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