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第26話 ポロっと漏らすもんだから、私ついつい笑っちゃった

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「邪魔が入っちゃったから、私の部屋に行く?」
「え、良いの?」
「うん、着替えてからだけどね」
 
 俺は壁掛け時計をチラッとみて時間を確認する。

「じゃあ……ちょっとだけ、お邪魔して良い?」
「うん! じゃあここで待ってて、直ぐに着替えて下りてくるから」
「分かった」

 星恵ちゃんは俺の返事を聞くと、ダイニングから出て行く──少しして、星恵ちゃんのお母さんが近づいて来て「光輝君」と話しかけてきた。

「何ですか?」
「ちょっと話に付き合って貰って良いかしら?」
「はい」
「じゃあ、こっちに来て」

 星恵ちゃんのお母さんはそう言って、ダイニングのテーブルの前で立ち止まる。

「少し座って話しましょう」
「あ、はい」

 俺は返事をして、テーブルを挟んで向かい側に行く。

「どうぞ、座って頂戴」と星恵さんのお母さんは言って、座る。俺もお辞儀をして、座った。

「娘の趣味……占いの事は知ってる?」
「はい、知ってます」
「娘にとって占いはね、特別なものなの」
「特別なもの?」

 星恵ちゃんのお母さんは両手で頬杖を掻いて「うん」と答える。

「星恵のお父さん、海外勤務だから家には滅多に帰らない人でね、だからなのか星恵は昔から異性に対して人見知りの傾向があったの」
「へぇ……」

 俺に似てるな。まぁ俺の場合は両方とも普通に家にて、女の子と一緒に居る事が恥ずかしかっただけだけどな。

「そこで娘なりに考えて……考えついた結果が、占いだったのね。あの子、いつの間にかお父さんが帰ってくる度に占った結果を話す様になってた」
「そうだったんですね」

 星恵さんのお母さんは何故か俺の顔をジッと見つめ、クスッと微笑む。

「どうしたんですか?」と俺が聞くと、星恵さんのお母さんは頬杖をやめる。

「ごめんなさい、思い出し笑いをしちゃって。そんな星恵が高校一年の時ね、やけにニヤニヤして朝ごはんを食べている日があったから、どうしたの? って聞いてみたの」

「そうしたらあの子、今日は運命の人と出会う日でしょうって出た! って、嬉しそうに話して、同じクラスで……って、色々と特徴を言って後、最後にきっと光輝君の事だわ! って、ポロっと漏らすもんだから、私ついつい笑っちゃった」

 それを聞いた俺はカァァァ……っと恥ずかしくなり、星恵さんのお母さんから目を逸らして頬を掻く。

 なんて反応して良いのか分からなった俺はとりあえず「──はぁ……ありがとうございます」

「うん。星恵、素直じゃない所があって大変だと思いますが、よろしくお願いしますね」

 星恵ちゃんのお母さんはそう言って、頭を下げる。俺も頭を下げ、星恵ちゃんのお母さんの目を見ながら「はい!」と、ハッキリと返事をした。

 俺が元気よく返事をしたからか、星恵ちゃんのお母さんは安心してくれた様で、ニコッと微笑む。

「あ~! お母さん、なに光輝君と話してるの!?」と、俺達を見つけた星恵ちゃんは言って、ダイニングに入ってくる。

「ただ、娘をお願いしますねって言っただけですよ」
「本当に!? 余計な事を言ってないよね!?」

「言ってないですよ、ね?」と、星恵ちゃんのお母さんがウィンクをしながら俺に聞いてくるので、俺は「あ、はい!」と返事をする。

「なら良いけど……」

 星恵ちゃんのお母さんはスッと立ち上がり「星恵、あとで紅茶を持って行ってあげるから」と言って、キッチンの方へと歩いて行った。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

 星恵ちゃんのお母さんが優しいお母さんで良かった……考えたら、星恵ちゃんのお母さんがドアを開けた時、怒られていたって、おかしくはなかったんだよな。

「光輝君、行こ」
「うん。あ、その前にリュックを回収させて」
「分かった」

 俺はリビングに向かい、床に置いたリュックを回収する。ダイニングに戻ると、星恵ちゃんが歩き出したので、後に続いた──。

 星恵ちゃんの魔女……じゃなかった占い師姿も可愛くて良かったが、ダボッとした大き目の白パーカーに黒のロングパンツを履いた普段着も、新鮮でときめく。階段を上り、一番奥の部屋に着くと、星恵ちゃんは立ち止まった。

「ここが私の部屋だよ」と言って、部屋のドアを開く。

「入って」
「ありがとう」

 ここが星恵ちゃんの部屋か……入った瞬間、女子の良い匂いがする。星恵ちゃんは白が好きなのか、白を基調にした部屋で、所々に縫い包みやらファンシーグッズが置かれているけど、きちんとまとめられていて、清潔感のある落ち着く部屋だった。

「──どうかな?」
「落ち着く部屋だね」
「えへッ、ありがとう! こんな事もあろうかと昨日、片付けておいて良かった!」

 星恵ちゃんはそう言って、白のクッションの上に座る。向かい側に手を差し出すと「どうぞ、座って」

「うん」と俺は返事をして、向かい側の白いクッションの上に座った。

「──ねぇ、光輝君。本当は御菓子、持ってきてるんでしょ?」
「なんだ、バレていたのかぁ」
「ふふ、だってリュックを持ってきてるじゃない。そりゃバレるよ」
「そっか」

 お互い見つめ合い「はははは」と笑う。俺はリュックのチャックを開き「何にする? 色々と買ってきたんだ」

「チョコレート系ある?」
「あるよ。スッキーにする?」
「うん。それにする」

 スティック状のクッキーにチョコレートをコーティングした御菓子、略してスッキーをリュックから取り出すと、箱ごと星恵ちゃんに渡す。

「ありがとう」
「どう致しまして」

 星恵ちゃんはスッキーを一本、箱から取り出すと、唇に挟んで食べていく。その姿が何だかセクシーで、照れ臭くて目を逸らしてしまった。

 スッキーは更に訳すと好きになる。それもあってバレンタインデーに人気の御菓子だから、意識してしまったのかもしれない。

「──ねぇ、光輝君。今日はお母さんが帰ってきちゃって、ごめんね」
「あぁ、そりゃ仕方ないよ」
「ありがとう」

 星恵ちゃんは箱から一本、スッキーを取り出し、「はい、光輝君の分」と、俺に差し出す。

「ありがとう」
「うん」

 俺がスッキーを受け取り食べ始めると、星恵ちゃんは白くて丸いテーブルに箱を置く──落ち着かない様子で頬を掻くと「今日は邪魔されちゃったけど……いつか続きをしてね」

 俺がお返しにホッペにキスをしようとした事を言ってるのだろうか? 

 そうだとすると何だか照れくさいけど、俺は「──うん。いつか、きっと……」と返事をした。

 それを聞いた星恵ちゃんは満足げに微笑む。

「ふふ、楽しみ」と言って、箱からスッキーを取り出していた。
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