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門前払いの悲劇
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『結婚相談所 マリッジフルール 』通称マリフルはアルファとオメガを結びつける結婚相談所じゃ最大手だ。
まずはここだろ、と松竹梅の三人はその門を叩いた。
─松下大和ことやまちの場合─
大和は申し込み書にプロフィールや履歴書のような身上書を余すことなく正直に記入した。
担当だというベータの女性は綺麗に描かれた眉が印象的な女性だった。
「この度は当結婚相談所を選んでくださってありがとうございます。担当させていただきます、三輪です。ご記入ありがとうございます、松下大和さん、・・・・・・え、オメガですか?」
「はい」
「は?え、オメガ?にしては体格が・・・」
大和はしょんと縮こまった。
にょきにょきと伸びた身長はコンプレックスのひとつだ。
筋肉ではなくぷくぷくと肉付きの良い体も、決して太ってはいないがこれもコンプレックスだ。
オメガなのに、の言葉はこれまで何度も大和を傷つけてきた。
ぐぐぐと涙がこみ上げてくる、大和はその体躯に似合わずとても涙もろかった。
「んまぁあぁぁああ!申し訳ございませんっ、お客様!社員の教育がなってませんで、ほんっとうに失礼いたしましたっっ」
ずびびと鼻を鳴らしていると、逆三角形の眼鏡をかけ髪を引っ詰めてお団子にした年嵩の女性が現れて甲高い声で言い募るのに涙が引っ込んだ。
顔を上げれば三輪が逆三角眼鏡に促されて頭を下げていた。
「松下様の担当はわたくしがさせていただきます。伊集院蝶子と申します」
「ま、まつ、、松下大和です」
「では、早速プロフィールを拝見させていただきますね」
ふんふんと伊集院は身上書を見て、ん?と首を傾げた。
「松下様はゆり花をご卒業された、ので?」
なんだその間と思いながら大和は、はいと頷いた。
「あの、大変申し訳ないのですが、そのぅ・・・」
クイクイと眼鏡を上げながら言い淀む伊集院に大和の頭は疑問符だらけだった。
大和は名門と謳われる『オメガ専門花嫁(婿)専門学校 ゆり花』を首席で卒業したのだ。
たった三人しか卒業生はいなかったけれども。
それの何に伊集院は引っかかってるんだろう、自分で言うのもなんだが役に立つオメガだと思うのだが。
「ゆり花でアルファの方とお近づきになりましたでしょ?」
「え?」
「いえね、あのぅ、こんな言い方はアレなんですけれども・・・。ゆり花というのはわたくし共の業界では、それはもう天上界と呼ばれる場所でございまして」
「はぁ」
「数多くのアルファの方々とのお見合いパーティがあったかと思いますが・・・」
「はぁ・・・?」
「ゆり花のパーティは数々のアルファが集まりますでしょ?あれだけのアルファを取り揃えられるのは、ゆり花が圧倒的名門だからなんです。ですのでゆり花でご縁が無かったのであれば、うちでご紹介できるアルファの方はもういないかと・・・」
「あ、そ、です、か」
大和は呆然とした。
ゆり花卒業がとんだ足枷になるとは、立ち直れそうにない。
─竹田周平ことペー助の場合─
「フェロモン、欠乏症?と・・・ゆり花をご卒業された、と」
「はい」
周平はこれでもかと丁寧に頭を下げられて、己の運命を悟った。
─梅園侑ことあっくんの場合─
「あのゆり花を卒業?」
「はい!」
「ゆり花に在籍してアルファに見初められなかったら、もうどこの結婚相談所でもお手上げだと思いますよ?」
「あぁん!?」
パーテーションで区切られたカウンター、侑の怒声にやれやれと周平は立ち上がり、大和は涙を堪えて同じく立ち上がった。
「そこを何とかすんのがあんたらでしょーがっ!!」
「あっくん、行くぞ」
「あっくん、あちこちで揉め事起こさないで」
「なんでだよっ!ペー助もやまちもなんか言ってやれ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい侑を周平と大和で引きずってマリフルを後にした。
深々と下げられた頭に三人は悲しくなった。
ここでも誰からも求められない。
なにが駄目なんだろう、どうして上手くいかないんだろう。
努力は報われるなんてそんなの嘘っぱちだ。
だけど、この世界で生きていく。
どうせ生きるなら愛のある生活がしたい。
「もう自分で歩ける」
「あっくん、血の気多すぎだろ」
「そうだよ、警察呼ばれたらあっくん今度こそ逮捕されちゃうよ?」
侑は十七歳の頃から補導されるプロだった。
そんなもんにプロがあるのか?と思うだろう。
侑はやたら好戦的でいわゆるヤンキーと呼ばれる人種だったが、ゆり花入学を機にヤンキーから足を洗った。
「ごめん」
「喧嘩売るのは隣の爺だけにしろ」
「はーい」
駅前の雑踏、陽がビルの谷間に沈んでいく。
バーカバーカと烏が飛んでいる気もする。
悲しい、寂しい、誰かに寄り添ってほしい。
「こんな時はぁ~~??」
松竹梅で円陣を組むように肩を抱き合って、周平が声をあげた。
「「「 マッスルバー!! 」」」
三人は行きつけのマッスルバーで思う存分筋肉に癒された。
お姫様抱っこも筋肉サンドイッチも、床ドンも堪能した。
こうして三人のゆり花貯金は目減りしていくのであった。
まずはここだろ、と松竹梅の三人はその門を叩いた。
─松下大和ことやまちの場合─
大和は申し込み書にプロフィールや履歴書のような身上書を余すことなく正直に記入した。
担当だというベータの女性は綺麗に描かれた眉が印象的な女性だった。
「この度は当結婚相談所を選んでくださってありがとうございます。担当させていただきます、三輪です。ご記入ありがとうございます、松下大和さん、・・・・・・え、オメガですか?」
「はい」
「は?え、オメガ?にしては体格が・・・」
大和はしょんと縮こまった。
にょきにょきと伸びた身長はコンプレックスのひとつだ。
筋肉ではなくぷくぷくと肉付きの良い体も、決して太ってはいないがこれもコンプレックスだ。
オメガなのに、の言葉はこれまで何度も大和を傷つけてきた。
ぐぐぐと涙がこみ上げてくる、大和はその体躯に似合わずとても涙もろかった。
「んまぁあぁぁああ!申し訳ございませんっ、お客様!社員の教育がなってませんで、ほんっとうに失礼いたしましたっっ」
ずびびと鼻を鳴らしていると、逆三角形の眼鏡をかけ髪を引っ詰めてお団子にした年嵩の女性が現れて甲高い声で言い募るのに涙が引っ込んだ。
顔を上げれば三輪が逆三角眼鏡に促されて頭を下げていた。
「松下様の担当はわたくしがさせていただきます。伊集院蝶子と申します」
「ま、まつ、、松下大和です」
「では、早速プロフィールを拝見させていただきますね」
ふんふんと伊集院は身上書を見て、ん?と首を傾げた。
「松下様はゆり花をご卒業された、ので?」
なんだその間と思いながら大和は、はいと頷いた。
「あの、大変申し訳ないのですが、そのぅ・・・」
クイクイと眼鏡を上げながら言い淀む伊集院に大和の頭は疑問符だらけだった。
大和は名門と謳われる『オメガ専門花嫁(婿)専門学校 ゆり花』を首席で卒業したのだ。
たった三人しか卒業生はいなかったけれども。
それの何に伊集院は引っかかってるんだろう、自分で言うのもなんだが役に立つオメガだと思うのだが。
「ゆり花でアルファの方とお近づきになりましたでしょ?」
「え?」
「いえね、あのぅ、こんな言い方はアレなんですけれども・・・。ゆり花というのはわたくし共の業界では、それはもう天上界と呼ばれる場所でございまして」
「はぁ」
「数多くのアルファの方々とのお見合いパーティがあったかと思いますが・・・」
「はぁ・・・?」
「ゆり花のパーティは数々のアルファが集まりますでしょ?あれだけのアルファを取り揃えられるのは、ゆり花が圧倒的名門だからなんです。ですのでゆり花でご縁が無かったのであれば、うちでご紹介できるアルファの方はもういないかと・・・」
「あ、そ、です、か」
大和は呆然とした。
ゆり花卒業がとんだ足枷になるとは、立ち直れそうにない。
─竹田周平ことペー助の場合─
「フェロモン、欠乏症?と・・・ゆり花をご卒業された、と」
「はい」
周平はこれでもかと丁寧に頭を下げられて、己の運命を悟った。
─梅園侑ことあっくんの場合─
「あのゆり花を卒業?」
「はい!」
「ゆり花に在籍してアルファに見初められなかったら、もうどこの結婚相談所でもお手上げだと思いますよ?」
「あぁん!?」
パーテーションで区切られたカウンター、侑の怒声にやれやれと周平は立ち上がり、大和は涙を堪えて同じく立ち上がった。
「そこを何とかすんのがあんたらでしょーがっ!!」
「あっくん、行くぞ」
「あっくん、あちこちで揉め事起こさないで」
「なんでだよっ!ペー助もやまちもなんか言ってやれ!」
ぎゃあぎゃあと騒がしい侑を周平と大和で引きずってマリフルを後にした。
深々と下げられた頭に三人は悲しくなった。
ここでも誰からも求められない。
なにが駄目なんだろう、どうして上手くいかないんだろう。
努力は報われるなんてそんなの嘘っぱちだ。
だけど、この世界で生きていく。
どうせ生きるなら愛のある生活がしたい。
「もう自分で歩ける」
「あっくん、血の気多すぎだろ」
「そうだよ、警察呼ばれたらあっくん今度こそ逮捕されちゃうよ?」
侑は十七歳の頃から補導されるプロだった。
そんなもんにプロがあるのか?と思うだろう。
侑はやたら好戦的でいわゆるヤンキーと呼ばれる人種だったが、ゆり花入学を機にヤンキーから足を洗った。
「ごめん」
「喧嘩売るのは隣の爺だけにしろ」
「はーい」
駅前の雑踏、陽がビルの谷間に沈んでいく。
バーカバーカと烏が飛んでいる気もする。
悲しい、寂しい、誰かに寄り添ってほしい。
「こんな時はぁ~~??」
松竹梅で円陣を組むように肩を抱き合って、周平が声をあげた。
「「「 マッスルバー!! 」」」
三人は行きつけのマッスルバーで思う存分筋肉に癒された。
お姫様抱っこも筋肉サンドイッチも、床ドンも堪能した。
こうして三人のゆり花貯金は目減りしていくのであった。
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