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サイラス
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サイラスがトルーマン男爵家に滞在するようになって半年が過ぎた。
肩で切りそろえられた銀髪は肩より下に伸びている。
それを嬉々として結っているのは最愛のαであるリュミエスだ。
緩く編んだ髪を手に取りそれにリュミエスはチュッと軽く口付ける。
「できたよ、サリー」
鏡の中のサイラスは微笑み、肩に置かれた手に自分の手を重ねた。
自分の幸せはここにあったのか、サイラスはそう思っている。
名門とうたわれた家に生まれ、厳しく育てられた。
『甘えるな、頼るな。甘えられ、頼られる存在になれ』
そう言われてきたのが、Ω判定で全てが覆った。
いきなり愛らしく甘えるなんてことはできやしない。
そして、それを婚約者である第一王子によく思われていないこともサイラスは知っている。
伴侶としてでなく戦友のような間柄にでもなれれば、そう思っていた時に婚約者がファミーユに落ちたのだ。
ファミーユは田舎から出てきた末端貴族であった。
実に甘えることが上手く、男の庇護欲をそそりまた男のやる気を出させるようなそんなΩであった。
サイラスとは方向性こそ違うがファミーユは頭がよかった。
自身は動かず、言葉で仕草で視線で男を動かした。
サイラスは自身でやりたい性分だったので、これでは可愛げがないと思われても仕方ない。
そんなファミーユとはなぜかウマが合いお互いの為に手を組んだ。
「うちにはαの弟が二人いるんだ。そのどちらかと婚姻を結んで、領地建て直しをしてみないか?どん底から己の腕一本で這い上がるんだ。骨が折れそうだけど、やりがいがあると思わない?」
眼鏡の奥の瞳は実に楽しそうであった。
その後、サイラスは学院卒業までの二年間領地経営について学びに学んだ。
その間、三男は辺境伯に婿入りしてしまって残るは四男のみになった。
四つ年下のリュミエスは学院には入学しなかった。
理由は金がない、それに尽きた。
父は言う。
「サイラスが優秀だから別にいいんじゃない?」
出会ったその日にサイラスはリュミエスに美味しくいただかれたが、それを嫌だとは思わなかった。
こんなところで待っていてくれたのか、と思うだけだった。
サイラスは今、辺境伯から贈られた幌馬車の幌を外したものに乗っている。
抜けるような青空の下、リュミエスはのんびり馬を操っている。
日がなぷらぷらしていたというリュミエスは領内のことはなんでも熟知していた。
小川のあちこちには粗末だが、橋がかけられ領民の移動を楽にしていた。
勿論、リュミエスの仕業だ。
雨が降ると必ず氾濫する小川には、リュミエスが土嚢を積んでいた。
今は、川幅を広げる河川工事を行っている。
資金と人足は辺境伯から引っ張り出した。
「リュシー、どこへ行くの?」
いい所、とリュミエスは笑う。
それまで内緒、と人差し指を唇にあてがうリュミエスにサイラスは見蕩れてしまう。
着いた先は小高い山の麓で、その山を登るという。
サイラスはリュミエスに手を引かれ、ゆっくりその山を登った。
山の中腹程の岩盤からチョロチョロと湯気をたてた水が流れている。
それは、山頂付近から流れてくる清流と混ざって溜まっていた。
傍に粗末な木の椅子が置いてあり、リュミエスはそこにサイラスを座らせ靴を脱がせ靴下を脱がせた。
小ぶりで形のいい足にひとつ口付けてリュミエスは溜まった水に足をつけた。
「リュシー!とても暖かいよ」
「気持ちいいだろう?」
僕の秘密の場所だよ、とリュミエスはサイラスの頬に何度も口付けた。
チュッチュッと口付けられながらサイラスは頭の算盤を弾いていた。
いつか読んだ文献に山から熱湯が湧く場所があり、それは源泉と呼ばれ体の不調を治す不思議な湯だ、と。
「リュシー!これは源泉だよ。これをこの領地の目玉にしよう」
リュミエスは、サリーのいいようにと微笑んだ。
その後、サイラスは実家の公爵家、辺境伯家から資金と人足を引っ張り出した。
王家からも秘密裏に資金を提供させた。
「ぼくも、でんかといっしょにおんせんはいりたいなぁ」
とファミーユが言ったかどうか定かではないが、ファミーユが暗躍していたのは間違いない。
こうして、王国随一の貧乏男爵領は王国随一の保養地として名を馳せた。
しかし、男爵家は相変わらず修理を重ねながらウサギ小屋のような屋敷に住んでいる。
前当主は畑で汗を流し、前当主夫人は家事の全てを取り仕切っていた。
現当主のリュミエスは日がなぷらぷらし、サイラスは領地経営に励んだ。
「今日も頑張ったね、サリー。愛してる、僕の太陽」
甘えるのが下手なサイラスはリュミエスにだけは、もっと褒めて?と甘える。
自分の幸せはここにある、そうサイラスは思いながらリュミエスに身を委ねた。
☪︎*。꙳ おしまい ☀︎*.。
四兄弟は年子です。
王太子(22)✕長男ファミーユ(21)
カイ(20)✕次男ランジュ(20)
三男ニコラス(19)✕ミクル(21)
四男リュミエス(18)✕サイラス(21)
18歳で学院卒業と同時に成人扱いになります。
温泉施設が完成した時点の年齢は上記です。
読んでいただきありがとうございました(❁ᴗ͈ˬᴗ͈))
肩で切りそろえられた銀髪は肩より下に伸びている。
それを嬉々として結っているのは最愛のαであるリュミエスだ。
緩く編んだ髪を手に取りそれにリュミエスはチュッと軽く口付ける。
「できたよ、サリー」
鏡の中のサイラスは微笑み、肩に置かれた手に自分の手を重ねた。
自分の幸せはここにあったのか、サイラスはそう思っている。
名門とうたわれた家に生まれ、厳しく育てられた。
『甘えるな、頼るな。甘えられ、頼られる存在になれ』
そう言われてきたのが、Ω判定で全てが覆った。
いきなり愛らしく甘えるなんてことはできやしない。
そして、それを婚約者である第一王子によく思われていないこともサイラスは知っている。
伴侶としてでなく戦友のような間柄にでもなれれば、そう思っていた時に婚約者がファミーユに落ちたのだ。
ファミーユは田舎から出てきた末端貴族であった。
実に甘えることが上手く、男の庇護欲をそそりまた男のやる気を出させるようなそんなΩであった。
サイラスとは方向性こそ違うがファミーユは頭がよかった。
自身は動かず、言葉で仕草で視線で男を動かした。
サイラスは自身でやりたい性分だったので、これでは可愛げがないと思われても仕方ない。
そんなファミーユとはなぜかウマが合いお互いの為に手を組んだ。
「うちにはαの弟が二人いるんだ。そのどちらかと婚姻を結んで、領地建て直しをしてみないか?どん底から己の腕一本で這い上がるんだ。骨が折れそうだけど、やりがいがあると思わない?」
眼鏡の奥の瞳は実に楽しそうであった。
その後、サイラスは学院卒業までの二年間領地経営について学びに学んだ。
その間、三男は辺境伯に婿入りしてしまって残るは四男のみになった。
四つ年下のリュミエスは学院には入学しなかった。
理由は金がない、それに尽きた。
父は言う。
「サイラスが優秀だから別にいいんじゃない?」
出会ったその日にサイラスはリュミエスに美味しくいただかれたが、それを嫌だとは思わなかった。
こんなところで待っていてくれたのか、と思うだけだった。
サイラスは今、辺境伯から贈られた幌馬車の幌を外したものに乗っている。
抜けるような青空の下、リュミエスはのんびり馬を操っている。
日がなぷらぷらしていたというリュミエスは領内のことはなんでも熟知していた。
小川のあちこちには粗末だが、橋がかけられ領民の移動を楽にしていた。
勿論、リュミエスの仕業だ。
雨が降ると必ず氾濫する小川には、リュミエスが土嚢を積んでいた。
今は、川幅を広げる河川工事を行っている。
資金と人足は辺境伯から引っ張り出した。
「リュシー、どこへ行くの?」
いい所、とリュミエスは笑う。
それまで内緒、と人差し指を唇にあてがうリュミエスにサイラスは見蕩れてしまう。
着いた先は小高い山の麓で、その山を登るという。
サイラスはリュミエスに手を引かれ、ゆっくりその山を登った。
山の中腹程の岩盤からチョロチョロと湯気をたてた水が流れている。
それは、山頂付近から流れてくる清流と混ざって溜まっていた。
傍に粗末な木の椅子が置いてあり、リュミエスはそこにサイラスを座らせ靴を脱がせ靴下を脱がせた。
小ぶりで形のいい足にひとつ口付けてリュミエスは溜まった水に足をつけた。
「リュシー!とても暖かいよ」
「気持ちいいだろう?」
僕の秘密の場所だよ、とリュミエスはサイラスの頬に何度も口付けた。
チュッチュッと口付けられながらサイラスは頭の算盤を弾いていた。
いつか読んだ文献に山から熱湯が湧く場所があり、それは源泉と呼ばれ体の不調を治す不思議な湯だ、と。
「リュシー!これは源泉だよ。これをこの領地の目玉にしよう」
リュミエスは、サリーのいいようにと微笑んだ。
その後、サイラスは実家の公爵家、辺境伯家から資金と人足を引っ張り出した。
王家からも秘密裏に資金を提供させた。
「ぼくも、でんかといっしょにおんせんはいりたいなぁ」
とファミーユが言ったかどうか定かではないが、ファミーユが暗躍していたのは間違いない。
こうして、王国随一の貧乏男爵領は王国随一の保養地として名を馳せた。
しかし、男爵家は相変わらず修理を重ねながらウサギ小屋のような屋敷に住んでいる。
前当主は畑で汗を流し、前当主夫人は家事の全てを取り仕切っていた。
現当主のリュミエスは日がなぷらぷらし、サイラスは領地経営に励んだ。
「今日も頑張ったね、サリー。愛してる、僕の太陽」
甘えるのが下手なサイラスはリュミエスにだけは、もっと褒めて?と甘える。
自分の幸せはここにある、そうサイラスは思いながらリュミエスに身を委ねた。
☪︎*。꙳ おしまい ☀︎*.。
四兄弟は年子です。
王太子(22)✕長男ファミーユ(21)
カイ(20)✕次男ランジュ(20)
三男ニコラス(19)✕ミクル(21)
四男リュミエス(18)✕サイラス(21)
18歳で学院卒業と同時に成人扱いになります。
温泉施設が完成した時点の年齢は上記です。
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