4 / 5
四男
しおりを挟む
トルーマン家の四男は『真昼の月』と呼ばれている。
なんとも美しい通り名だが、実際は違う。
真昼間に月など見えてもなんの役にもたたない。
月は夜空に輝いてこそ夜道を照らし、輝きを見上げた人の心を震わせるのだ。
そこからもわかるようにトルーマン家四男リュミエスは、箸にも棒にもかからないαであった。
日がな領地をぷらぷら歩き回り、小川に足をつけ子供たちと本気でかくれんぼや鬼ごっこに興じている。
そんな次期当主リュミエスに転機が訪れる。
王都の公爵家よりリュミエスに縁談がきたのだ。
なんの罠だ?と父母は戦慄した。
次男のランジュはのほほんとしており、当の本人のリュミエスは何処吹く風であった。
それから数日後、トルーマン領を四頭立ての馬車とそれに連なる荷車が通り抜ける。
領民たちは、またファミーユ坊ちゃんが何かやらかしたか?と思っていた。
あながちそれが間違いではないのに気づくのは遠くない未来の話である。
四頭立ての馬車はトルーマン家の玄関と思わしき場所にピタリとつける。
馬車から降りてきた人物は輝かんばかりの銀髪を肩で揺らした美しきΩであった。
玄関先に出てきたトルーマン一家、父母は顎が落ちそうなほどに驚き、次男のランジュはあまりの美しさに目を見張っていた。
リュミエスだけが微笑み、美しきΩをエスコートし屋敷に招きいれた。
美しきΩの名はサイラス・バレンス。
名門バレンス公爵家の末子で王太子の元婚約者であった。
父ならず母も土下座しかけたその時、サイラスは微笑んでその白魚のような手で二人を制した。
「私はファミーユに感謝しているのです」
サイラスが語った内容は到底信じられぬものであったが、当の本人がその名に恥じぬ太陽の微笑みを浮かべているものだから父母は黙りこくった。
父母の脳裏には、してやったりという顔の長男が浮かんでいる。
サイラスは幼少より名門に恥じぬ教養と礼儀をそれはそれは厳しく叩き込まれた。
しかし、性判定でΩとわかるやいなや、当時は第一王子であったその人の婚約者になってしまった。
それまでの教育はどこへいったのか、Ωらしくαに可愛がられるようにと言い含められるようになった。
しかし、サイラスは大変優秀であった。
知識欲がありグングン吸収していたものが、突然可愛げがないという理由で取り上げられたのだ。
そして、第一王子も大変優秀であった。
優秀な者二人が添えばこの国は安泰だ、と思われていた。
だが、実情はそうではない。
お互いに優秀故に衝突する方が多かった。
似たもの同士故に、反りが合わないというやつである。
そこへ、田舎からでてきた凡庸なファミーユが現れた。
礼儀も教養も中途半端だが、素直で純粋純朴なファミーユ。
幼子のような愛くるしい仕草に、つと眼鏡がずれた時の可愛らしい顔。
第一王子はすぐさま心を奪われた。
サイラスとしてはどうでも良かったが、面目上ファミーユと話をせねばならない。
場を設け、対峙した時ファミーユはこう言った。
「あの王子は僕が引き受けます。甘えて褒めたたえればきっと良き王になるでしょう。サイラス様はどなたかの補佐で収まる方ではございません。ご自身で道を切り開きたい、そういう性分ではございませんか?」
サイラスは方向性こそ違うがファミーユの野心を嗅ぎとった。
これをきっかけにサイラスとファミーユは手を組むこととなる。
ファミーユは第一王子を手のひらでコロコロ転がし、立太子させた。
婚約解消は実になめらかに行われ、バレンス公爵家と王家で禍根が残ることもなかった。
そして、ファミーユは言うのだ。
「やりがいのある仕事があるのです。一から領地を建て直してみませんか?」
こうしてサイラスはトルーマン男爵領にやって来たのである。
表向きはリュミエスの婚約者として、実際は領地建て直しというやりがいのある仕事として。
しかし、人生とは何が起こるかわからないものである。
事情を全て聞き、父母が納得したところでサイラスの部屋を用意した。
公爵子息にはとんだウサギ小屋のような屋敷だが、サイラスは文句ひとつ言わなかった。
そして、すっかり置いてけぼりになったかと思われたリュミエスだったが、その夜サイラスの部屋を訪れた。
年上の、公爵子息の、王太子の元婚約者の、と問題山積のようであるがリュミエスは『可愛い』の一言でそれらを吹っ飛ばしサイラスを抱いた。
サイラスはサイラスで、気高く美しく教養もあるので可愛げがないと元婚約者に言われてきていたのだ。
年下の、家格が低いの、友人の弟の、とこちらも問題山積であったがサイラスは絆された。
「サリー可愛い。僕だけに可愛いサリーを見せて?サリー、僕の太陽」
甘く囁かれてサイラスはリュミエスに心を奪われた。
その後、サイラスは自身の手腕を遺憾なく発揮し領地改革に務めた。
トルーマン家の真昼の月は極上の太陽を手に入れた。
そして、月は夜こそ本領発揮する。
サイラスという太陽を可愛い可愛いと甘やかし、またサイラスもリュミエスにこれでもかと甘えた。
トルーマンの四兄弟はそれぞれに幸せを掴み、末永く幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
☽︎︎.*·̩͙ おしまい ☀︎*.。
読んでいただきありがとうございました。
本編はこちらで終了です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
なんとも美しい通り名だが、実際は違う。
真昼間に月など見えてもなんの役にもたたない。
月は夜空に輝いてこそ夜道を照らし、輝きを見上げた人の心を震わせるのだ。
そこからもわかるようにトルーマン家四男リュミエスは、箸にも棒にもかからないαであった。
日がな領地をぷらぷら歩き回り、小川に足をつけ子供たちと本気でかくれんぼや鬼ごっこに興じている。
そんな次期当主リュミエスに転機が訪れる。
王都の公爵家よりリュミエスに縁談がきたのだ。
なんの罠だ?と父母は戦慄した。
次男のランジュはのほほんとしており、当の本人のリュミエスは何処吹く風であった。
それから数日後、トルーマン領を四頭立ての馬車とそれに連なる荷車が通り抜ける。
領民たちは、またファミーユ坊ちゃんが何かやらかしたか?と思っていた。
あながちそれが間違いではないのに気づくのは遠くない未来の話である。
四頭立ての馬車はトルーマン家の玄関と思わしき場所にピタリとつける。
馬車から降りてきた人物は輝かんばかりの銀髪を肩で揺らした美しきΩであった。
玄関先に出てきたトルーマン一家、父母は顎が落ちそうなほどに驚き、次男のランジュはあまりの美しさに目を見張っていた。
リュミエスだけが微笑み、美しきΩをエスコートし屋敷に招きいれた。
美しきΩの名はサイラス・バレンス。
名門バレンス公爵家の末子で王太子の元婚約者であった。
父ならず母も土下座しかけたその時、サイラスは微笑んでその白魚のような手で二人を制した。
「私はファミーユに感謝しているのです」
サイラスが語った内容は到底信じられぬものであったが、当の本人がその名に恥じぬ太陽の微笑みを浮かべているものだから父母は黙りこくった。
父母の脳裏には、してやったりという顔の長男が浮かんでいる。
サイラスは幼少より名門に恥じぬ教養と礼儀をそれはそれは厳しく叩き込まれた。
しかし、性判定でΩとわかるやいなや、当時は第一王子であったその人の婚約者になってしまった。
それまでの教育はどこへいったのか、Ωらしくαに可愛がられるようにと言い含められるようになった。
しかし、サイラスは大変優秀であった。
知識欲がありグングン吸収していたものが、突然可愛げがないという理由で取り上げられたのだ。
そして、第一王子も大変優秀であった。
優秀な者二人が添えばこの国は安泰だ、と思われていた。
だが、実情はそうではない。
お互いに優秀故に衝突する方が多かった。
似たもの同士故に、反りが合わないというやつである。
そこへ、田舎からでてきた凡庸なファミーユが現れた。
礼儀も教養も中途半端だが、素直で純粋純朴なファミーユ。
幼子のような愛くるしい仕草に、つと眼鏡がずれた時の可愛らしい顔。
第一王子はすぐさま心を奪われた。
サイラスとしてはどうでも良かったが、面目上ファミーユと話をせねばならない。
場を設け、対峙した時ファミーユはこう言った。
「あの王子は僕が引き受けます。甘えて褒めたたえればきっと良き王になるでしょう。サイラス様はどなたかの補佐で収まる方ではございません。ご自身で道を切り開きたい、そういう性分ではございませんか?」
サイラスは方向性こそ違うがファミーユの野心を嗅ぎとった。
これをきっかけにサイラスとファミーユは手を組むこととなる。
ファミーユは第一王子を手のひらでコロコロ転がし、立太子させた。
婚約解消は実になめらかに行われ、バレンス公爵家と王家で禍根が残ることもなかった。
そして、ファミーユは言うのだ。
「やりがいのある仕事があるのです。一から領地を建て直してみませんか?」
こうしてサイラスはトルーマン男爵領にやって来たのである。
表向きはリュミエスの婚約者として、実際は領地建て直しというやりがいのある仕事として。
しかし、人生とは何が起こるかわからないものである。
事情を全て聞き、父母が納得したところでサイラスの部屋を用意した。
公爵子息にはとんだウサギ小屋のような屋敷だが、サイラスは文句ひとつ言わなかった。
そして、すっかり置いてけぼりになったかと思われたリュミエスだったが、その夜サイラスの部屋を訪れた。
年上の、公爵子息の、王太子の元婚約者の、と問題山積のようであるがリュミエスは『可愛い』の一言でそれらを吹っ飛ばしサイラスを抱いた。
サイラスはサイラスで、気高く美しく教養もあるので可愛げがないと元婚約者に言われてきていたのだ。
年下の、家格が低いの、友人の弟の、とこちらも問題山積であったがサイラスは絆された。
「サリー可愛い。僕だけに可愛いサリーを見せて?サリー、僕の太陽」
甘く囁かれてサイラスはリュミエスに心を奪われた。
その後、サイラスは自身の手腕を遺憾なく発揮し領地改革に務めた。
トルーマン家の真昼の月は極上の太陽を手に入れた。
そして、月は夜こそ本領発揮する。
サイラスという太陽を可愛い可愛いと甘やかし、またサイラスもリュミエスにこれでもかと甘えた。
トルーマンの四兄弟はそれぞれに幸せを掴み、末永く幸せに暮らした。
めでたしめでたし。
☽︎︎.*·̩͙ おしまい ☀︎*.。
読んでいただきありがとうございました。
本編はこちらで終了です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
508
あなたにおすすめの小説
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話
雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。
一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。
αとβじゃ番えない
庄野 一吹
BL
社交界を牽引する3つの家。2つの家の跡取り達は美しいαだが、残る1つの家の長男は悲しいほどに平凡だった。第二の性で分類されるこの世界で、平凡とはβであることを示す。
愛を囁く二人のαと、やめてほしい平凡の話。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる