夢見のミュウ

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
11 / 58
転生遊戯

2

しおりを挟む
 群青色のカーテン、勉強机の上には教科書が並んでいて当時流行っていたアニメのフィギュアが飾ってあった。なんのアニメだっけ?思考を巡らせてみても思い出せない。前世の自分はここで読書をする。ペラリペラリと捲られていくページを今の自分が追っていく。 
 けれど、夢というのは決して万能ではなく読みたい部分を読んでいるとは限らない。その証拠に前世の自分が今読んでいる本は『エディンデル物語』ではない。植物図鑑らしきものを見ている。
 夢の中の視点は前世の自分だ。だからって好き勝手はできない。そこをミュウは超えたいと思っている。
『エディンデル物語』を最初から読むために。

 器は違っても同じ魂なのだから上手く融合できるはず、ミュウはそう考えて王都から戻ったその夜から何度も試みている。成功したことはまだない。どうしても弾かれてしまう。

 ──今日こそは…

 やり方なんて知らない。ただ意識を集中して願うのだ、少しの間でいいから体を貸してくれ。
 ぴくりと小指が動く、ページを捲る手が止まる。目線がカーテンを捉えた。ぎこちない動きだったが本を閉じることができた。入ることができたのだ。
 本棚はどこだっけ?部屋に入って左側にベッド、まっすぐ勉強机で、右側だ。ゆっくり立ち上がって本棚へ向かう、緑の表紙『エディンデル物語』はすぐに見つかった。まるでそこだけ色がついているように。ふぅふぅと息を吐きながら本を手に取りその場にへたりこんだ。少し動いただけで相当疲れる。
 初めは世界の成り立ち、それから姫の婚儀、そして─。



『父上!父上どうしてですか!?』
『今、情報を集めている』
『破棄だけならまだしもどうして開戦などと…』

 エディンデル国、王太子アトレーは父王に詰め寄りました。
 父上は豪奢な椅子に腰掛けただ首を振ります。

『お兄様…』

 声をかけたのはアトレーの妹のミレイユです。
 ミレイユの目には涙が滲んでいました。
 どうしてこんなことになってしまったのかなにもわからないのです。
 わからないから父王は悩み、王太子は憤り、妹姫は涙するのです。

『お兄様、ジュリアン様はなんと仰っているの?わたくしから見てもお二人はとても良い仲に見えました』
『…返事が、無いんだ』

 アトレーは悔しそうに首を振ります。
 アトレーの婚約者であるジュリアンは隣国の王族の一人でした。



 ヒュッと息を飲む音で目が覚めた。一拍おいて咳がゴホゴホと飛び出してきた。はぁはぁと荒い息は湖で溺れた時に似ている。相変わらず手足は痺れているし、動悸も酷い。
 鼻のあたりがぬるついているのはまた鼻血が出ているのかもしれない。

「はじめて、できた…」

 出てきた声は自分のものじゃないくらい変な声だった。トゲのある実をそのトゲを取らずに飲み込んでしまったような荒れた声。ミュウは意識して唾を飲み込む、落ち着け落ち着けと言い聞かせながら目を閉じた。
 昨日よりは進捗している、最初から読めた。開戦の前の話、まだも登場していない。出てきたのは王様とアトレーとミレイユ、そしてジュリアン。文脈から王太子が隣国のジュリアンに婚約破棄されたようだ。
 一度読んだはずなのに思い出せないことが多い。前世の自分はこの物語を一度しか読んでいない?だから記憶が薄い?
 しっかりせぇよ前の僕、ミュウは心中で悪態をつきながら手足の痺れが治まるのを待った。




「アトレー?」

 朝食の席で父は目をまん丸にして目の前に座るミュウを見た。片手には森で採れた木の実をたっぷり練り込んで焼いたパン、もう片手には湯気のたつマグカップを持って。

「王太子やないか」
「うん、その人婚約破棄されたん?」
「…メイソンに聞いたんか?」
「…あぁーと、まあそんな感じ」

 夢の話はできるだけしたくない、ミュウはそう思ってうんと頷いた。

「お父ちゃん、詳しく知っとる?」
「ん?まぁお父ちゃんもメイソンからの手紙で知っとるだけやけどなぁ」

 父の話はこうだ。王太子は父王と共に外交で隣国に赴いた。そこで第三王子ジュリアンと出会う。二人は意気投合し、王太子が帰国した後も手紙のやり取りをし何度となくお互いの国を訪れ逢瀬を交わしていた。仲睦まじい二人が両国の架け橋になれば、と二人の婚約は結ばれた。だが、それが破棄された。それも一方的に。

「なんで?仲良かったんやろ?なんでそんなことなんの?」
「さあな」
「もし、もしやでお父ちゃん。それが戦争のきっかけやったらどうする?」
「んなアホな。そんな色事で戦争が起こるわけないやろ」
「じゃあ、なんで?」
「さあ、元々隣国はこの国を狙っとって、ほんでその第三王子が間諜になって王太子から情報引きずりだした、とか?」
「そんなん…」
「まぁ全部想像や」

 父はそう言って、目玉焼きの黄身を潰してベーコンに絡めて食べる。黙々と食べる様子がこの話は終いだと告げているようだった。
 確かに色事は色事だが、破棄と開戦のタイミングが妙に噛み合っているのは気のせいか?だけど、破棄された方ではなくが宣戦布告とは一体…。
 やはり父の想像の方が現実的か。だけど、人の心はわからないから。色事が争いの種になってしまうこともあるんじゃないだろうか。僅かなその可能性を無視することはできない、考えながらミュウも目玉焼きの黄身を潰した。



『親愛なるミュウへ

 変わりありませんか?
 こちらは変わりありません。
 虹魚は食べたことがありません。
 いつか食べてみたいです。
 森にきのこを探しに行くのも楽しそうです。
 そちらの暮らしは私にとって夢のような話です。
 今夜、そんな夢が見れたらいいなと思います。』





しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結済】王子を嵌めて国中に醜聞晒してやったので殺されると思ってたら溺愛された。

うらひと
BL
学園内で依頼をこなしていた魔術師のクリスは大物の公爵の娘からの依頼が入る……依頼内容は婚約者である王子からの婚約破棄!! 高い報酬に目が眩んで依頼を受けてしまうが……18Rには※がついています。 ムーン様にも投稿してます。

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。

月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」 幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。 「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」 何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。 「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」 そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。 僕、殿下に嫌われちゃったの? 実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

処理中です...