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転生遊戯
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群青色のカーテン、勉強机の上には教科書が並んでいて当時流行っていたアニメのフィギュアが飾ってあった。なんのアニメだっけ?思考を巡らせてみても思い出せない。前世の自分はここで読書をする。ペラリペラリと捲られていくページを今の自分が追っていく。
けれど、夢というのは決して万能ではなく読みたい部分を読んでいるとは限らない。その証拠に前世の自分が今読んでいる本は『エディンデル物語』ではない。植物図鑑らしきものを見ている。
夢の中の視点は前世の自分だ。だからって好き勝手はできない。そこをミュウは超えたいと思っている。
『エディンデル物語』を最初から読むために。
器は違っても同じ魂なのだから上手く融合できるはず、ミュウはそう考えて王都から戻ったその夜から何度も試みている。成功したことはまだない。どうしても弾かれてしまう。
──今日こそは…
やり方なんて知らない。ただ意識を集中して願うのだ、少しの間でいいから体を貸してくれ。
ぴくりと小指が動く、ページを捲る手が止まる。目線がカーテンを捉えた。ぎこちない動きだったが本を閉じることができた。入ることができたのだ。
本棚はどこだっけ?部屋に入って左側にベッド、まっすぐ勉強机で、右側だ。ゆっくり立ち上がって本棚へ向かう、緑の表紙『エディンデル物語』はすぐに見つかった。まるでそこだけ色がついているように。ふぅふぅと息を吐きながら本を手に取りその場にへたりこんだ。少し動いただけで相当疲れる。
初めは世界の成り立ち、それから姫の婚儀、そして─。
『父上!父上どうしてですか!?』
『今、情報を集めている』
『破棄だけならまだしもどうして開戦などと…』
エディンデル国、王太子アトレーは父王に詰め寄りました。
父上は豪奢な椅子に腰掛けただ首を振ります。
『お兄様…』
声をかけたのはアトレーの妹のミレイユです。
ミレイユの目には涙が滲んでいました。
どうしてこんなことになってしまったのかなにもわからないのです。
わからないから父王は悩み、王太子は憤り、妹姫は涙するのです。
『お兄様、ジュリアン様はなんと仰っているの?わたくしから見てもお二人はとても良い仲に見えました』
『…返事が、無いんだ』
アトレーは悔しそうに首を振ります。
アトレーの婚約者であるジュリアンは隣国の王族の一人でした。
ヒュッと息を飲む音で目が覚めた。一拍おいて咳がゴホゴホと飛び出してきた。はぁはぁと荒い息は湖で溺れた時に似ている。相変わらず手足は痺れているし、動悸も酷い。
鼻のあたりがぬるついているのはまた鼻血が出ているのかもしれない。
「はじめて、できた…」
出てきた声は自分のものじゃないくらい変な声だった。トゲのある実をそのトゲを取らずに飲み込んでしまったような荒れた声。ミュウは意識して唾を飲み込む、落ち着け落ち着けと言い聞かせながら目を閉じた。
昨日よりは進捗している、最初から読めた。開戦の前の話、まだ湖の姫も登場していない。出てきたのは王様とアトレーとミレイユ、そしてジュリアン。文脈から王太子が隣国のジュリアンに婚約破棄されたようだ。
一度読んだはずなのに思い出せないことが多い。前世の自分はこの物語を一度しか読んでいない?だから記憶が薄い?
しっかりせぇよ前の僕、ミュウは心中で悪態をつきながら手足の痺れが治まるのを待った。
「アトレー?」
朝食の席で父は目をまん丸にして目の前に座るミュウを見た。片手には森で採れた木の実をたっぷり練り込んで焼いたパン、もう片手には湯気のたつマグカップを持って。
「王太子やないか」
「うん、その人婚約破棄されたん?」
「…メイソンに聞いたんか?」
「…あぁーと、まあそんな感じ」
夢の話はできるだけしたくない、ミュウはそう思ってうんと頷いた。
「お父ちゃん、詳しく知っとる?」
「ん?まぁお父ちゃんもメイソンからの手紙で知っとるだけやけどなぁ」
父の話はこうだ。王太子は父王と共に外交で隣国に赴いた。そこで第三王子ジュリアンと出会う。二人は意気投合し、王太子が帰国した後も手紙のやり取りをし何度となくお互いの国を訪れ逢瀬を交わしていた。仲睦まじい二人が両国の架け橋になれば、と二人の婚約は結ばれた。だが、それが破棄された。それも一方的に。
「なんで?仲良かったんやろ?なんでそんなことなんの?」
「さあな」
「もし、もしやでお父ちゃん。それが戦争のきっかけやったらどうする?」
「んなアホな。そんな色事で戦争が起こるわけないやろ」
「じゃあ、なんで?」
「さあ、元々隣国はこの国を狙っとって、ほんでその第三王子が間諜になって王太子から情報引きずりだした、とか?」
「そんなん…」
「まぁ全部想像や」
父はそう言って、目玉焼きの黄身を潰してベーコンに絡めて食べる。黙々と食べる様子がこの話は終いだと告げているようだった。
確かに色事は色事だが、破棄と開戦のタイミングが妙に噛み合っているのは気のせいか?だけど、破棄された方ではなく破棄した方が宣戦布告とは一体…。
やはり父の想像の方が現実的か。だけど、人の心はわからないから。色事が争いの種になってしまうこともあるんじゃないだろうか。僅かなその可能性を無視することはできない、考えながらミュウも目玉焼きの黄身を潰した。
『親愛なるミュウへ
変わりありませんか?
こちらは変わりありません。
虹魚は食べたことがありません。
いつか食べてみたいです。
森にきのこを探しに行くのも楽しそうです。
そちらの暮らしは私にとって夢のような話です。
今夜、そんな夢が見れたらいいなと思います。』
けれど、夢というのは決して万能ではなく読みたい部分を読んでいるとは限らない。その証拠に前世の自分が今読んでいる本は『エディンデル物語』ではない。植物図鑑らしきものを見ている。
夢の中の視点は前世の自分だ。だからって好き勝手はできない。そこをミュウは超えたいと思っている。
『エディンデル物語』を最初から読むために。
器は違っても同じ魂なのだから上手く融合できるはず、ミュウはそう考えて王都から戻ったその夜から何度も試みている。成功したことはまだない。どうしても弾かれてしまう。
──今日こそは…
やり方なんて知らない。ただ意識を集中して願うのだ、少しの間でいいから体を貸してくれ。
ぴくりと小指が動く、ページを捲る手が止まる。目線がカーテンを捉えた。ぎこちない動きだったが本を閉じることができた。入ることができたのだ。
本棚はどこだっけ?部屋に入って左側にベッド、まっすぐ勉強机で、右側だ。ゆっくり立ち上がって本棚へ向かう、緑の表紙『エディンデル物語』はすぐに見つかった。まるでそこだけ色がついているように。ふぅふぅと息を吐きながら本を手に取りその場にへたりこんだ。少し動いただけで相当疲れる。
初めは世界の成り立ち、それから姫の婚儀、そして─。
『父上!父上どうしてですか!?』
『今、情報を集めている』
『破棄だけならまだしもどうして開戦などと…』
エディンデル国、王太子アトレーは父王に詰め寄りました。
父上は豪奢な椅子に腰掛けただ首を振ります。
『お兄様…』
声をかけたのはアトレーの妹のミレイユです。
ミレイユの目には涙が滲んでいました。
どうしてこんなことになってしまったのかなにもわからないのです。
わからないから父王は悩み、王太子は憤り、妹姫は涙するのです。
『お兄様、ジュリアン様はなんと仰っているの?わたくしから見てもお二人はとても良い仲に見えました』
『…返事が、無いんだ』
アトレーは悔しそうに首を振ります。
アトレーの婚約者であるジュリアンは隣国の王族の一人でした。
ヒュッと息を飲む音で目が覚めた。一拍おいて咳がゴホゴホと飛び出してきた。はぁはぁと荒い息は湖で溺れた時に似ている。相変わらず手足は痺れているし、動悸も酷い。
鼻のあたりがぬるついているのはまた鼻血が出ているのかもしれない。
「はじめて、できた…」
出てきた声は自分のものじゃないくらい変な声だった。トゲのある実をそのトゲを取らずに飲み込んでしまったような荒れた声。ミュウは意識して唾を飲み込む、落ち着け落ち着けと言い聞かせながら目を閉じた。
昨日よりは進捗している、最初から読めた。開戦の前の話、まだ湖の姫も登場していない。出てきたのは王様とアトレーとミレイユ、そしてジュリアン。文脈から王太子が隣国のジュリアンに婚約破棄されたようだ。
一度読んだはずなのに思い出せないことが多い。前世の自分はこの物語を一度しか読んでいない?だから記憶が薄い?
しっかりせぇよ前の僕、ミュウは心中で悪態をつきながら手足の痺れが治まるのを待った。
「アトレー?」
朝食の席で父は目をまん丸にして目の前に座るミュウを見た。片手には森で採れた木の実をたっぷり練り込んで焼いたパン、もう片手には湯気のたつマグカップを持って。
「王太子やないか」
「うん、その人婚約破棄されたん?」
「…メイソンに聞いたんか?」
「…あぁーと、まあそんな感じ」
夢の話はできるだけしたくない、ミュウはそう思ってうんと頷いた。
「お父ちゃん、詳しく知っとる?」
「ん?まぁお父ちゃんもメイソンからの手紙で知っとるだけやけどなぁ」
父の話はこうだ。王太子は父王と共に外交で隣国に赴いた。そこで第三王子ジュリアンと出会う。二人は意気投合し、王太子が帰国した後も手紙のやり取りをし何度となくお互いの国を訪れ逢瀬を交わしていた。仲睦まじい二人が両国の架け橋になれば、と二人の婚約は結ばれた。だが、それが破棄された。それも一方的に。
「なんで?仲良かったんやろ?なんでそんなことなんの?」
「さあな」
「もし、もしやでお父ちゃん。それが戦争のきっかけやったらどうする?」
「んなアホな。そんな色事で戦争が起こるわけないやろ」
「じゃあ、なんで?」
「さあ、元々隣国はこの国を狙っとって、ほんでその第三王子が間諜になって王太子から情報引きずりだした、とか?」
「そんなん…」
「まぁ全部想像や」
父はそう言って、目玉焼きの黄身を潰してベーコンに絡めて食べる。黙々と食べる様子がこの話は終いだと告げているようだった。
確かに色事は色事だが、破棄と開戦のタイミングが妙に噛み合っているのは気のせいか?だけど、破棄された方ではなく破棄した方が宣戦布告とは一体…。
やはり父の想像の方が現実的か。だけど、人の心はわからないから。色事が争いの種になってしまうこともあるんじゃないだろうか。僅かなその可能性を無視することはできない、考えながらミュウも目玉焼きの黄身を潰した。
『親愛なるミュウへ
変わりありませんか?
こちらは変わりありません。
虹魚は食べたことがありません。
いつか食べてみたいです。
森にきのこを探しに行くのも楽しそうです。
そちらの暮らしは私にとって夢のような話です。
今夜、そんな夢が見れたらいいなと思います。』
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