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転生遊戯
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湖には海のような砂浜があって、そこは二階にあるミュウの部屋から一望できる。海のように寄せては返す波、この領地に海を見た者はいない。話に聞いたことはあるけど、本で読んだことはあるけど、と誰も実物を見たことがない。
「ミュウちゃん、夢で見たんやね」
母はそう言って幼いミュウの頭を撫でた。両親はミュウが夢見ることを良く思っていない。理由は「わからないから世界はおもしろいんよ」そう言う。「でも、便利じゃない?」ミュウが言えば「じゃあ、みんなその便利を欲しがっちゃう。ミュウちゃんはお母ちゃんとお父ちゃんのミュウちゃんでおってほしいな」と母はおどけるように笑い、そしてぎゅうとミュウを抱きしめた。
ぼんやりと窓辺にもたれ湖を見ながらミュウは母との会話を思い出す。何年も前のことなのに鮮明に思い出される記憶。ミュウがここで生きてきた記憶、不意に思い出す前世の記憶とは違う。それはもう手放した記憶だからなのか、それを手繰り寄せようとする行為は間違っているのか。
「…夢見るんしんどいなぁ」
誰にも聞かれることのない独り言は風がさらって湖へ持っていった。ミュウの夢への挑戦はまだ続いている。物語は半分ほど読めた。はぁと吐いたため息とともにミュウの手からカサリと紙面が落ちた。
『親愛なるミュウへ
変わりありませんか?
こちらは変わりありません。
昨日は君の夢を見ました。
大きく口を開けてクリームサンドを頬張っていました。
君は夢を見ますか?
どんな夢を見ますか?
教えてくれたら嬉しいです。』
業務報告のような手紙、それにいつからか″夢″の文言が増えた。探りを入れられている、これは気のせいじゃなく確信をもって言える。ミュウが持つといわれている能力は限られた者しか知らない、なのにどうして。
『私は反対です』
『言うと思ったよ』
『では、その案は無かったことに…』
『できない。国を護るために』
リールデイル大尉は唇を噛みしめ、拳を目の前の机に叩きつけました。
『私が身を賭して戦います』
『君ならそう言うと思った』
はははとイーハンは笑います。
『僕はね、この能力が役に立つなんて思ってなかったんだ。結婚はおろか友人さえできないと思っていた』
『私がいるじゃないか』
『そうだ。君はいつでもどんな時でも変わらなかった。いつだって正直でまっすぐで、それがどれほど嬉しいことか。だから、戦地に赴く君を死なせたくはない』
『私は、強い』
『いいじゃないか、その強さの裏打ちを僕にさせてくれたって』
イーハンとはこの国の第二王子だ。物語の中で姫はこのイーハンと結婚する。その結婚に反対なのがフィル、二人は学友だった。
イーハンの能力は人読みと書かれていた。字のごとく人を読む、触れた相手の心の内を読むのだ。その能力が目覚めた時、イーハンは絶望した。どんなに表面を取り繕った人でも、ひとたび触れるだけでその心の内がわかる。両親も兄弟もイーハンに触れることはない、誰だって心の内を読まれたくはない。
けれど王族という立場から誰にも会わないなんてことはできない。その中で変わらぬ態度だったのがフィルだ。能力を知ったとしても、「話さなくてもわかるのは便利だな」と言った。身分の垣根を超えて二人は友情を育んだ。だからこそ、フィルは友がその能力を厭うているのを知っている。
だから反対するのだ、夢を見る姫の夢を読む、そのための結婚を。
結婚式で困惑の表情を浮かべたイーハン、あれは女だと思っていたのが男だったからだと思っていたが、本当は姫の心の内を読んだからではないだろうか。
姫の心の内は描かれない、正しく脇役だということだろう。今のミュウは男だが、物語では性別も名前も明かされていない。
「ミュウー!!あーそーぼー!」
湖から庭に視線を移すと子どもたちがブンブンと両手を振っていた。飛び跳ねている子もいてミュウは現実に引き戻された。
「いーいーよー!!」
よっと一声かけてミュウは二階の自室から飛び降りた。
浜で旗取りしようよ、いいよ、今日こそミュウちゃんに勝つ!アハハ、キャハハと子どもたちの声が心地よい。
「ミュウちゃん、発明はもうせんの?」
「ボク、お菓子がいい」
「アタシも」
「ねぇねぇミュウちゃん、なんか考えてよぉ」
「んー、そうやなぁ。シュークリームあるやろ?あれを長細くしてクリーム入れてチョコがけするとか?」
なにそれおいしそう!!ミュウの手を引いて走り出す子どもたち。楽しいなぁ、離れたくないなぁ、物語の姫はなにを思って微笑んだ?僕は一体なにを思う?その時がきたら笑みを浮かべることができる?
十日後、住み慣れた愛すべき故郷をミュウは後にする。
仰々しい一行の先頭、輝く黒馬に乗るのはフィランダー・リールデイル大尉、この物語の主人公だ。
「ミュウちゃん、夢で見たんやね」
母はそう言って幼いミュウの頭を撫でた。両親はミュウが夢見ることを良く思っていない。理由は「わからないから世界はおもしろいんよ」そう言う。「でも、便利じゃない?」ミュウが言えば「じゃあ、みんなその便利を欲しがっちゃう。ミュウちゃんはお母ちゃんとお父ちゃんのミュウちゃんでおってほしいな」と母はおどけるように笑い、そしてぎゅうとミュウを抱きしめた。
ぼんやりと窓辺にもたれ湖を見ながらミュウは母との会話を思い出す。何年も前のことなのに鮮明に思い出される記憶。ミュウがここで生きてきた記憶、不意に思い出す前世の記憶とは違う。それはもう手放した記憶だからなのか、それを手繰り寄せようとする行為は間違っているのか。
「…夢見るんしんどいなぁ」
誰にも聞かれることのない独り言は風がさらって湖へ持っていった。ミュウの夢への挑戦はまだ続いている。物語は半分ほど読めた。はぁと吐いたため息とともにミュウの手からカサリと紙面が落ちた。
『親愛なるミュウへ
変わりありませんか?
こちらは変わりありません。
昨日は君の夢を見ました。
大きく口を開けてクリームサンドを頬張っていました。
君は夢を見ますか?
どんな夢を見ますか?
教えてくれたら嬉しいです。』
業務報告のような手紙、それにいつからか″夢″の文言が増えた。探りを入れられている、これは気のせいじゃなく確信をもって言える。ミュウが持つといわれている能力は限られた者しか知らない、なのにどうして。
『私は反対です』
『言うと思ったよ』
『では、その案は無かったことに…』
『できない。国を護るために』
リールデイル大尉は唇を噛みしめ、拳を目の前の机に叩きつけました。
『私が身を賭して戦います』
『君ならそう言うと思った』
はははとイーハンは笑います。
『僕はね、この能力が役に立つなんて思ってなかったんだ。結婚はおろか友人さえできないと思っていた』
『私がいるじゃないか』
『そうだ。君はいつでもどんな時でも変わらなかった。いつだって正直でまっすぐで、それがどれほど嬉しいことか。だから、戦地に赴く君を死なせたくはない』
『私は、強い』
『いいじゃないか、その強さの裏打ちを僕にさせてくれたって』
イーハンとはこの国の第二王子だ。物語の中で姫はこのイーハンと結婚する。その結婚に反対なのがフィル、二人は学友だった。
イーハンの能力は人読みと書かれていた。字のごとく人を読む、触れた相手の心の内を読むのだ。その能力が目覚めた時、イーハンは絶望した。どんなに表面を取り繕った人でも、ひとたび触れるだけでその心の内がわかる。両親も兄弟もイーハンに触れることはない、誰だって心の内を読まれたくはない。
けれど王族という立場から誰にも会わないなんてことはできない。その中で変わらぬ態度だったのがフィルだ。能力を知ったとしても、「話さなくてもわかるのは便利だな」と言った。身分の垣根を超えて二人は友情を育んだ。だからこそ、フィルは友がその能力を厭うているのを知っている。
だから反対するのだ、夢を見る姫の夢を読む、そのための結婚を。
結婚式で困惑の表情を浮かべたイーハン、あれは女だと思っていたのが男だったからだと思っていたが、本当は姫の心の内を読んだからではないだろうか。
姫の心の内は描かれない、正しく脇役だということだろう。今のミュウは男だが、物語では性別も名前も明かされていない。
「ミュウー!!あーそーぼー!」
湖から庭に視線を移すと子どもたちがブンブンと両手を振っていた。飛び跳ねている子もいてミュウは現実に引き戻された。
「いーいーよー!!」
よっと一声かけてミュウは二階の自室から飛び降りた。
浜で旗取りしようよ、いいよ、今日こそミュウちゃんに勝つ!アハハ、キャハハと子どもたちの声が心地よい。
「ミュウちゃん、発明はもうせんの?」
「ボク、お菓子がいい」
「アタシも」
「ねぇねぇミュウちゃん、なんか考えてよぉ」
「んー、そうやなぁ。シュークリームあるやろ?あれを長細くしてクリーム入れてチョコがけするとか?」
なにそれおいしそう!!ミュウの手を引いて走り出す子どもたち。楽しいなぁ、離れたくないなぁ、物語の姫はなにを思って微笑んだ?僕は一体なにを思う?その時がきたら笑みを浮かべることができる?
十日後、住み慣れた愛すべき故郷をミュウは後にする。
仰々しい一行の先頭、輝く黒馬に乗るのはフィランダー・リールデイル大尉、この物語の主人公だ。
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