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夢見の末路
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額が冷たい、なのに体は火照っている。あぁまた熱を出したのか、とオーウェンは思った。幼い頃ならいざ知らず最近はそんなこともなかったのに。
喉が渇いたな、と重い瞼をあげると美しい金の瞳が目に入った。黒に見間違えそうになる髪も。
「…目が覚めました?お兄様、お加減はいかがですか?」
「──…ーザ…」
乾いた喉が張り付いて言葉が上手く出ない。それをジュリアンはわかってくれてそっと体を起こして水の入ったグラスを傾けてくれた。
「ジュリアンです。お兄様」
「…あ、あぁ、うん、私の弟だ」
「えぇ、弟のジュリアンですよ」
微笑を浮かべるジュリアンに、あぁこれは弟だと胸の内で再確認する。
「体はどうだ?」
「それはこちらが聞きたいことです」
「私?私は平気だよ」
ジュリアンの眉が下がる。本当に?と問いかける目にオーウェンは小さく頷いた。
「今ね、ケイレブが夢見に協力をとりつけるお話をしてるの」
「…そうか。では、私も行こう」
「駄目、もう少し寝ていて、ね?それにまだお話したいこともあるから」
「なんだ?」
「アトレーがね、僕がこんなのでもいいって。僕は僕だからって、それでね…」
「良くないだろう。あの王子がお前を認めたところでなんになる?お前は向こうの国で見世物にでもなるつもりか?」
ジュリアンの美しい金瞳に涙の膜が張られたかと思えば、いくらもしないうちにぱたぱたとそれは落ちた。
「お前たち二人がどこか山奥で二人だけでひっそりと暮らすというのならばそれでいいだろう。けれど、現実はそうじゃない」
「…僕たちが、僕たちが規範になればいいって、アトレーが…だから、」
「無理に決まってる」
「…お兄様、そんなに僕が憎い?」
「…は?」
その時の自分は他人が見れば驚くほど間抜けな面をしていただろう。憎い?ジュリアンが?そんなことあるわけないじゃないか。血の繋がった愛しい弟なんだ、全てはジュリアンの為になると思って…。
「お兄様は僕を助けたい、僕のような者たちを救いたいと言いながら本当は、本当のところは憎んでる!」
「そんな…そんなことは…」
無い、そう言い切れるだろうか。歴史の影に埋もれてきた異形の者たち。人の見た目をしていても、どこか人には無いものを持つ者。
ひっそり誰にも露見することなくその生涯を閉じた者もいるだろう。それは孤独に苛まれた一生だったと想像する。
家畜に原因不明の疫病が蔓延した時、ただ額に角のような物があるというだけの青年は神に捧げる供物となった。
大雨により河が氾濫した時、耳の尖った水かきのある少女が人柱として崖から濁流の中へ落とされた。
あれもこれもと駆け巡る記録を追う。ジュリアンと消えていった者たちは何が違う?尊い血かそうでないか、たったそれだけだ。たったそれだけなのに、そうでない血の命は軽い。
規範だと?許せるものか、いざ自分たちに降りかかったから過去のことは無かったことに?そんなこと許されるわけが…いや、そうじゃない。
大切な弟だ、身弱でベッドから離れられない自分にいつも花をくれた。植物図鑑を持ち込み、好きな植物について語ってくれた。楽しそうに、嬉しそうに、心優しい大切な弟なんだ。
音もなく涙を流すジュリアン、それに声をかけてやりたいのに声が上手くでない。こちらを見つめるジュリアンに言いようのない気持ちが湧き上がる。
頭の芯がズキズキと痛む、一本大きな針を刺されたように。違う、違う、そんなことは思っていない。なのに、もう一人の自分が叫んでいる。
──なぜお前は救われるんだ
雨に打たれ蹲り泣きじゃくるもう一人の自分、それを見つめているのもまた自分だ。その肩に手をかけて立たせてやりたい、けれどこの手はいつだって届かないのだ。
喉が渇いたな、と重い瞼をあげると美しい金の瞳が目に入った。黒に見間違えそうになる髪も。
「…目が覚めました?お兄様、お加減はいかがですか?」
「──…ーザ…」
乾いた喉が張り付いて言葉が上手く出ない。それをジュリアンはわかってくれてそっと体を起こして水の入ったグラスを傾けてくれた。
「ジュリアンです。お兄様」
「…あ、あぁ、うん、私の弟だ」
「えぇ、弟のジュリアンですよ」
微笑を浮かべるジュリアンに、あぁこれは弟だと胸の内で再確認する。
「体はどうだ?」
「それはこちらが聞きたいことです」
「私?私は平気だよ」
ジュリアンの眉が下がる。本当に?と問いかける目にオーウェンは小さく頷いた。
「今ね、ケイレブが夢見に協力をとりつけるお話をしてるの」
「…そうか。では、私も行こう」
「駄目、もう少し寝ていて、ね?それにまだお話したいこともあるから」
「なんだ?」
「アトレーがね、僕がこんなのでもいいって。僕は僕だからって、それでね…」
「良くないだろう。あの王子がお前を認めたところでなんになる?お前は向こうの国で見世物にでもなるつもりか?」
ジュリアンの美しい金瞳に涙の膜が張られたかと思えば、いくらもしないうちにぱたぱたとそれは落ちた。
「お前たち二人がどこか山奥で二人だけでひっそりと暮らすというのならばそれでいいだろう。けれど、現実はそうじゃない」
「…僕たちが、僕たちが規範になればいいって、アトレーが…だから、」
「無理に決まってる」
「…お兄様、そんなに僕が憎い?」
「…は?」
その時の自分は他人が見れば驚くほど間抜けな面をしていただろう。憎い?ジュリアンが?そんなことあるわけないじゃないか。血の繋がった愛しい弟なんだ、全てはジュリアンの為になると思って…。
「お兄様は僕を助けたい、僕のような者たちを救いたいと言いながら本当は、本当のところは憎んでる!」
「そんな…そんなことは…」
無い、そう言い切れるだろうか。歴史の影に埋もれてきた異形の者たち。人の見た目をしていても、どこか人には無いものを持つ者。
ひっそり誰にも露見することなくその生涯を閉じた者もいるだろう。それは孤独に苛まれた一生だったと想像する。
家畜に原因不明の疫病が蔓延した時、ただ額に角のような物があるというだけの青年は神に捧げる供物となった。
大雨により河が氾濫した時、耳の尖った水かきのある少女が人柱として崖から濁流の中へ落とされた。
あれもこれもと駆け巡る記録を追う。ジュリアンと消えていった者たちは何が違う?尊い血かそうでないか、たったそれだけだ。たったそれだけなのに、そうでない血の命は軽い。
規範だと?許せるものか、いざ自分たちに降りかかったから過去のことは無かったことに?そんなこと許されるわけが…いや、そうじゃない。
大切な弟だ、身弱でベッドから離れられない自分にいつも花をくれた。植物図鑑を持ち込み、好きな植物について語ってくれた。楽しそうに、嬉しそうに、心優しい大切な弟なんだ。
音もなく涙を流すジュリアン、それに声をかけてやりたいのに声が上手くでない。こちらを見つめるジュリアンに言いようのない気持ちが湧き上がる。
頭の芯がズキズキと痛む、一本大きな針を刺されたように。違う、違う、そんなことは思っていない。なのに、もう一人の自分が叫んでいる。
──なぜお前は救われるんだ
雨に打たれ蹲り泣きじゃくるもう一人の自分、それを見つめているのもまた自分だ。その肩に手をかけて立たせてやりたい、けれどこの手はいつだって届かないのだ。
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