【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり

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冨樫徹とがしとおる はあの日のことを後悔していた。

探し人として依頼を受けて一年半、ずっとある一人のΩを探していた。
楢崎稔ならさきみのる二十二歳、男でΩ。
大学卒業式の翌日姿を消した。
家の門扉にある監視カメラには白いシャツに濃紺のジャケット、ジーンズを履いて肩にはショルダーバッグ。
遠くへ行くような格好ではない。
ちょっとそこまで、というような足取りで出ていった。
実際、家人や家政婦は大学を卒業して遊んでいるんだろう、幼なじみの所にいるんだろうと不在に対して警戒していなかった。
事態が動くのは稔が出ていって二日後、幼なじみの二人が訪ねて来たことから始まる。
稔と連絡がとれない、メッセージに既読がつかない。
稔の両親は慌てて稔の部屋へ行くと、テーブルの上にスマホと各種カード類が入った手金庫が開きっぱなしで置いてあった。

『しばらく一人にしてください』

そう書き残して稔は消えた。
冨樫はたかだかΩのお坊ちゃん一人、すぐに見つけ出せると思っていた。
そう、思っていたのに稔はどこにもいなかった。
両親によると手金庫には600万入っていたという。
恐らく稔はショルダーバッグに600万だけ入れて出ていったのだろう。
潤沢な逃走資金に冨樫は頭を抱えた。
パスポートはあるので国内にいる。
だが、身分証になるものは一つも持っていない。
全て現金払いだとどこにいるのか検討もつかない。
渡された写真は見合い写真なのだろうか、固く微笑む稔。
黒い髪は真っ直ぐに片側だけ耳にかけている。
綺麗なアーチを描いた眉、スッキリとした鼻筋、大きな瞳は冴え冴えとした黒。
余分なものは何もない清々しいほど美しい男。

「捕まってどっかに売られてたらもうわかんねぇなぁ」

と冨樫は呟いた。
富樫は写真を持ってまずは都内のホテルを回った。
従業員は固いのでホテルから出てくる宿泊客に聞き込みをした。
歓楽街にも行った。
なんの手がかりも得られないまま時間だけが過ぎ稔は二十三歳になった。

介護サービスを手広くやっている会社子息なので調査資金は潤沢に与えられた。
冨樫は都内を捨て、地方都市を回った。
それでも稔の影すら掴めなかった。

探し出して一年半、稔の幼なじみがようやく手がかりを持ってきた。
男子高校生のスマホの待ち受けが稔だった、と。
その高校生にも会計をしていた女子高校生にも逃げられたが彼らは制服を着ていた。
その制服を足がかりに高校を特定。
稔はA県で一番大きな街から電車で一時間の田舎に居た。
校門で幼なじみ二人と張っていた所、スマホの持ち主の澤田という高校生を捕まえることができた。

「いつも図書館に来る人」

冨樫達は早速図書館へ向かった。
駐車場で、これからのことを相談した。
宿をとり聞き込みをし図書館には常に誰かが張っているようにしよう、そう車内で話しているとバックミラーにグレーの人影がちらりと見えた。
冨樫は気にもとめなかった。

そして、後悔する。
なぜ街でレンタカーを借りたのか。
一人一台といわれる田舎で、『わナンバー』がいかに目立つか。
高校生から送ってもらった写真をもっともっとよく見ていたら・・・
ついつい稔の美しい横顔ばかり見ていた。
ようやっと見つけた手がかりに浮かれていたのかもしれない。
写真の稔はグレーのスウェットだったじゃないか。




※もちろん冨樫一人で動いてません。冨樫中心に稔捜索チームが動いてます。
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