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床屋
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忍は床屋に来ていた。
くるくると回るトリコロールカラーのそれをまじまじと眺める。
大きなガラス窓からそっと中を伺う。
ガラス窓には金色で『BARBER 野上野』と書いてあった。
チリンと鈴の音と共に入店する。
「・・・いらっしゃい」
ごま塩頭の店主が驚いたように迎える。
「えっと、うちはそのー若い子の流行りの頭とか出来ないんだけど」
「あの、普通に切ってくれればいいので」
それなら、と店主は茶色の革張りの椅子に座らせた。
座るとギュッと鳴る。
「えっと、どれくらい短くする?その、私はβだけれども・・・首回りをー、その、触らないけど、ハサミをいれてもいいのかな?」
「大丈夫なのでさっぱり短くしてください」
それじゃ、と水色のケープをかける。
シュッシュっと霧吹きで水をかけ、ブロッキングしていく。
シャキシャキとハサミの音だけが店内に響く。
大きな鏡に映る綺麗な顔。
変わっていく様を見たくはないのだろうか、客はずっと目を閉じている。
こんな子この町にいたっけかな?と店主は思いながら手を動かした。
襟足だけは少しだけ肩をすくめる。
すまないね、と思いながら手早く切っていく。
ガコンと鏡の下の白の洗髪台を出す。
音に反応してそっと目を開ける客に店主は微笑んだ。
「ここにね、首を乗っけて。シャンプーするから」
目を丸くする客を誘導する。
素直に前屈みになるのを見て手早くシャンプーしていく。
二回洗って、リンスを揉みこむ。
流していくとするすると指通りが良くなる。
タオルで拭って、ドライヤーをかけてセットしていく。
艶々とまではいかないまでも潤いのでた髪に店主は満足そうに鏡を見た。
「顔剃りとか軽いマッサージもやるけどする?」
ふるふると首を振るのを見て、だよねと店主は苦笑した。
「じゃあ、終わり。すっごい男前」
「すごく、すごくすっきりしました。ありがとうございます」
鏡の中の自分を見てほわりと笑う美貌の男。
やっぱりこんな美人見たことないなぁ、と店主はこちらこそと小さく頷いた。
「おやっさん、電話出てよ」
「おう、一穂。よくここがわかったな」
わからいでか、と一穂は慎太の隣に座って缶コーヒーを置く。
慎太はハンドルを握ったまま目の前の画面をじっと見つめる。
画面の中ではデフォルメされた可愛い鮫やタコがくるくる回っている。
「ちゃんとこっちにいるように誘導してくれた?」
「ん?いやー、向こうからどっか働き口ないかって聞いてきたぞ」
慎太は横目で一穂を見ながらニタァと笑う。
「あぁー、どうせ里中で働かせるんだろ。もうー、昨日おばちゃんが迷子の犬が帰ってきたみたいな目してたからそんな予感はしたんだよ」
ガックリと項垂れ大きな手で顔を覆う。
「いいじゃねえか、こっちにしばらくいるんだから」
「デートできないじゃん!」
「お前も働けよ」
「俺が働くのはしのぶちゃんが一緒に東京に行ってくれるって決まってからだ」
「そんな日くるのかねえ。働いてる方が惚れるんじゃねえの?無職とか普通に嫌だろ」
グッと喉を詰まらせたのを豪快に笑い飛ばす。
頑張れ若者よ、とひらひら手を振る。
チッと小さく舌打ちして一穂は席を立つ。
「しのぶちゃん、頼んだよ。あとその魚群外れちまえ」
そう言って慎太に背を向けて店を後にした。
※以前は美樹ママに髪を切ってもらっていました。
くるくると回るトリコロールカラーのそれをまじまじと眺める。
大きなガラス窓からそっと中を伺う。
ガラス窓には金色で『BARBER 野上野』と書いてあった。
チリンと鈴の音と共に入店する。
「・・・いらっしゃい」
ごま塩頭の店主が驚いたように迎える。
「えっと、うちはそのー若い子の流行りの頭とか出来ないんだけど」
「あの、普通に切ってくれればいいので」
それなら、と店主は茶色の革張りの椅子に座らせた。
座るとギュッと鳴る。
「えっと、どれくらい短くする?その、私はβだけれども・・・首回りをー、その、触らないけど、ハサミをいれてもいいのかな?」
「大丈夫なのでさっぱり短くしてください」
それじゃ、と水色のケープをかける。
シュッシュっと霧吹きで水をかけ、ブロッキングしていく。
シャキシャキとハサミの音だけが店内に響く。
大きな鏡に映る綺麗な顔。
変わっていく様を見たくはないのだろうか、客はずっと目を閉じている。
こんな子この町にいたっけかな?と店主は思いながら手を動かした。
襟足だけは少しだけ肩をすくめる。
すまないね、と思いながら手早く切っていく。
ガコンと鏡の下の白の洗髪台を出す。
音に反応してそっと目を開ける客に店主は微笑んだ。
「ここにね、首を乗っけて。シャンプーするから」
目を丸くする客を誘導する。
素直に前屈みになるのを見て手早くシャンプーしていく。
二回洗って、リンスを揉みこむ。
流していくとするすると指通りが良くなる。
タオルで拭って、ドライヤーをかけてセットしていく。
艶々とまではいかないまでも潤いのでた髪に店主は満足そうに鏡を見た。
「顔剃りとか軽いマッサージもやるけどする?」
ふるふると首を振るのを見て、だよねと店主は苦笑した。
「じゃあ、終わり。すっごい男前」
「すごく、すごくすっきりしました。ありがとうございます」
鏡の中の自分を見てほわりと笑う美貌の男。
やっぱりこんな美人見たことないなぁ、と店主はこちらこそと小さく頷いた。
「おやっさん、電話出てよ」
「おう、一穂。よくここがわかったな」
わからいでか、と一穂は慎太の隣に座って缶コーヒーを置く。
慎太はハンドルを握ったまま目の前の画面をじっと見つめる。
画面の中ではデフォルメされた可愛い鮫やタコがくるくる回っている。
「ちゃんとこっちにいるように誘導してくれた?」
「ん?いやー、向こうからどっか働き口ないかって聞いてきたぞ」
慎太は横目で一穂を見ながらニタァと笑う。
「あぁー、どうせ里中で働かせるんだろ。もうー、昨日おばちゃんが迷子の犬が帰ってきたみたいな目してたからそんな予感はしたんだよ」
ガックリと項垂れ大きな手で顔を覆う。
「いいじゃねえか、こっちにしばらくいるんだから」
「デートできないじゃん!」
「お前も働けよ」
「俺が働くのはしのぶちゃんが一緒に東京に行ってくれるって決まってからだ」
「そんな日くるのかねえ。働いてる方が惚れるんじゃねえの?無職とか普通に嫌だろ」
グッと喉を詰まらせたのを豪快に笑い飛ばす。
頑張れ若者よ、とひらひら手を振る。
チッと小さく舌打ちして一穂は席を立つ。
「しのぶちゃん、頼んだよ。あとその魚群外れちまえ」
そう言って慎太に背を向けて店を後にした。
※以前は美樹ママに髪を切ってもらっていました。
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