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旧友
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暗い話しちゃったかな?と陸は苦笑する。
お互いお茶もコーヒーも飲み干していて、手持ち無沙汰に持っているだけだった。
「・・・運命と引き離された、ということですか?」
「うん、まあそうなるのかな?次の日には、学校にはもうその子達は居なかったって。H県に行ったんだろうね」
「そう、ですか」
「忍さんは運命とか魂の番って信じる?」
「えっ・・・と、はい」
「最初忍さんに会った時、僕意地悪だったよね?ごめんね?」
「いえ、そんなことないです」
首を振る忍に、優しいねと陸は俯いた。
「僕らはさ、運命じゃないから少しだけ怖かったんだ」
「はい」
やっぱり優しいね、と陸は微笑んだ。
「お邪魔しました」
「うん、また来てね」
「一穂、ちゃんと送ってけよ」
「金ちゃん、送り狼になったらダメだよ」
へいへい、と一穂は返事してまたなとドアを閉めた。
月明かりもないので、一穂がスマホの懐中電灯で足元を照らす。
吐く息は真っ白で、だけれどそれもすぐに暗闇に溶けていく。
「陸と話し込んでたね?」
「はい。金ちゃんの由来とか聞いてました」
「あぁ、桜吹雪だろ?初対面でいきなりだぜ?」
「長い付き合いなんですね」
「そうだな、幼なじみってやつ」
「仲、良いんですね」
「仲が良いというかなんというか、蒼太は同じαだからか二人でいることが多かったってだけだし、陸は陸で初対面で金ちゃんとか呼んでくるし『なんだこいつ』って思ったよ」
足音も夜に吸い込まれ、密やかに話す声は思ったより響いた。
「まあ、でも結局は気があったんだろうな。陸なんかはずっと蒼太のこと相談してくるし、蒼太は蒼太でそんな陸見て俺に牽制してくるしで。はよくっつけって何度思ったか」
「でも、そういうのも楽しかったりするんですよね」
「まあな。俺がしんどかった時にも二人には随分励まされたしな。多分、爺になってもつるんでるんじゃないかな」
そっと笑う声は柔らかく、吐き出された二人分の白い息が混じって消えていく。
「他に何か聞いた?」
「・・・いえ」
「そう」
足元を照らす光だけではお互いの表情は見えない。
お互いの息づかいだけが聞こえる中、殊更ゆっくり歩く。
「あいつらがさ、なんでこんな田舎に住んでるか知ってる?」
「え?・・・地元だからですか?」
「それもあるけど・・・怖いんだよ。あの二人は運命じゃないから、出会ってしまうのが怖いから」
立ち止まってしまった一穂を忍は振り返る。
暗闇に鮮やかなイエローのマフラーだけがくっきりと浮かぶ。
「蒼太が・・・俺が運命に出会ったのを見てるから。あの時の俺みたいになりたくないから。陸を、悲しませたくないから」
忍がコクリと息を飲む、その音までがよく聞こえる。
二人の間にひゅうと風が吹く。
とても冷たい冬の風。
「・・・ごめんなさい」
「いや、いいんだ。きっかけがないと俺も話せなかったと思うし」
一歩、忍に近づく一穂。
距離が縮まり、お互いの目がよく見える。
「あれは恋じゃない。あそこから始まる何かがあったかもしれないけど、始まらなかった。だから、恋じゃない」
「・・・でも、運命は特別なものだと思う」
「あの滾るような高揚感はしばらく忘れられなかった。でもそれはαの血だ。俺の俺だけの遠山一穂の血じゃない。今、俺の血が騒ぐのはしのぶちゃんだけだよ」
「・・・僕にはわからない」
俯く忍の手を一穂は優しく包んだ。
帰ろうか、そう言って手を繋いで歩く。
二人が初めて手を繋いだ聖なる夜。
月だけは姿を見せず、瞬く小さな星が、時折吹きつける冷たい風が、無言で歩く帰り道が、鮮やかなイエローのマフラーが、緩い坂道が、遠くに聞こえる微かな波の音が、繋いだ手がどうにもこうにも暖かい。
お互いお茶もコーヒーも飲み干していて、手持ち無沙汰に持っているだけだった。
「・・・運命と引き離された、ということですか?」
「うん、まあそうなるのかな?次の日には、学校にはもうその子達は居なかったって。H県に行ったんだろうね」
「そう、ですか」
「忍さんは運命とか魂の番って信じる?」
「えっ・・・と、はい」
「最初忍さんに会った時、僕意地悪だったよね?ごめんね?」
「いえ、そんなことないです」
首を振る忍に、優しいねと陸は俯いた。
「僕らはさ、運命じゃないから少しだけ怖かったんだ」
「はい」
やっぱり優しいね、と陸は微笑んだ。
「お邪魔しました」
「うん、また来てね」
「一穂、ちゃんと送ってけよ」
「金ちゃん、送り狼になったらダメだよ」
へいへい、と一穂は返事してまたなとドアを閉めた。
月明かりもないので、一穂がスマホの懐中電灯で足元を照らす。
吐く息は真っ白で、だけれどそれもすぐに暗闇に溶けていく。
「陸と話し込んでたね?」
「はい。金ちゃんの由来とか聞いてました」
「あぁ、桜吹雪だろ?初対面でいきなりだぜ?」
「長い付き合いなんですね」
「そうだな、幼なじみってやつ」
「仲、良いんですね」
「仲が良いというかなんというか、蒼太は同じαだからか二人でいることが多かったってだけだし、陸は陸で初対面で金ちゃんとか呼んでくるし『なんだこいつ』って思ったよ」
足音も夜に吸い込まれ、密やかに話す声は思ったより響いた。
「まあ、でも結局は気があったんだろうな。陸なんかはずっと蒼太のこと相談してくるし、蒼太は蒼太でそんな陸見て俺に牽制してくるしで。はよくっつけって何度思ったか」
「でも、そういうのも楽しかったりするんですよね」
「まあな。俺がしんどかった時にも二人には随分励まされたしな。多分、爺になってもつるんでるんじゃないかな」
そっと笑う声は柔らかく、吐き出された二人分の白い息が混じって消えていく。
「他に何か聞いた?」
「・・・いえ」
「そう」
足元を照らす光だけではお互いの表情は見えない。
お互いの息づかいだけが聞こえる中、殊更ゆっくり歩く。
「あいつらがさ、なんでこんな田舎に住んでるか知ってる?」
「え?・・・地元だからですか?」
「それもあるけど・・・怖いんだよ。あの二人は運命じゃないから、出会ってしまうのが怖いから」
立ち止まってしまった一穂を忍は振り返る。
暗闇に鮮やかなイエローのマフラーだけがくっきりと浮かぶ。
「蒼太が・・・俺が運命に出会ったのを見てるから。あの時の俺みたいになりたくないから。陸を、悲しませたくないから」
忍がコクリと息を飲む、その音までがよく聞こえる。
二人の間にひゅうと風が吹く。
とても冷たい冬の風。
「・・・ごめんなさい」
「いや、いいんだ。きっかけがないと俺も話せなかったと思うし」
一歩、忍に近づく一穂。
距離が縮まり、お互いの目がよく見える。
「あれは恋じゃない。あそこから始まる何かがあったかもしれないけど、始まらなかった。だから、恋じゃない」
「・・・でも、運命は特別なものだと思う」
「あの滾るような高揚感はしばらく忘れられなかった。でもそれはαの血だ。俺の俺だけの遠山一穂の血じゃない。今、俺の血が騒ぐのはしのぶちゃんだけだよ」
「・・・僕にはわからない」
俯く忍の手を一穂は優しく包んだ。
帰ろうか、そう言って手を繋いで歩く。
二人が初めて手を繋いだ聖なる夜。
月だけは姿を見せず、瞬く小さな星が、時折吹きつける冷たい風が、無言で歩く帰り道が、鮮やかなイエローのマフラーが、緩い坂道が、遠くに聞こえる微かな波の音が、繋いだ手がどうにもこうにも暖かい。
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