【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
29 / 63

旧友

しおりを挟む
暗い話しちゃったかな?と陸は苦笑する。
お互いお茶もコーヒーも飲み干していて、手持ち無沙汰に持っているだけだった。

「・・・運命と引き離された、ということですか?」
「うん、まあそうなるのかな?次の日には、学校にはもうその子達は居なかったって。H県に行ったんだろうね」
「そう、ですか」
「忍さんは運命とか魂の番って信じる?」
「えっ・・・と、はい」
「最初忍さんに会った時、僕意地悪だったよね?ごめんね?」
「いえ、そんなことないです」

首を振る忍に、優しいねと陸は俯いた。

「僕らはさ、運命じゃないから少しだけ怖かったんだ」
「はい」

やっぱり優しいね、と陸は微笑んだ。




「お邪魔しました」
「うん、また来てね」
「一穂、ちゃんと送ってけよ」
「金ちゃん、送り狼になったらダメだよ」

へいへい、と一穂は返事してまたなとドアを閉めた。
月明かりもないので、一穂がスマホの懐中電灯で足元を照らす。
吐く息は真っ白で、だけれどそれもすぐに暗闇に溶けていく。

「陸と話し込んでたね?」
「はい。金ちゃんの由来とか聞いてました」
「あぁ、桜吹雪だろ?初対面でいきなりだぜ?」
「長い付き合いなんですね」
「そうだな、幼なじみってやつ」
「仲、良いんですね」
「仲が良いというかなんというか、蒼太は同じαだからか二人でいることが多かったってだけだし、陸は陸で初対面で金ちゃんとか呼んでくるし『なんだこいつ』って思ったよ」

足音も夜に吸い込まれ、密やかに話す声は思ったより響いた。

「まあ、でも結局は気があったんだろうな。陸なんかはずっと蒼太のこと相談してくるし、蒼太は蒼太でそんな陸見て俺に牽制してくるしで。はよくっつけって何度思ったか」
「でも、そういうのも楽しかったりするんですよね」
「まあな。俺がしんどかった時にも二人には随分励まされたしな。多分、爺になってもつるんでるんじゃないかな」

そっと笑う声は柔らかく、吐き出された二人分の白い息が混じって消えていく。


「他に何か聞いた?」
「・・・いえ」
「そう」

足元を照らす光だけではお互いの表情は見えない。
お互いの息づかいだけが聞こえる中、殊更ゆっくり歩く。

「あいつらがさ、なんでこんな田舎に住んでるか知ってる?」
「え?・・・地元だからですか?」
「それもあるけど・・・怖いんだよ。あの二人は運命じゃないから、出会ってしまうのが怖いから」

立ち止まってしまった一穂を忍は振り返る。
暗闇に鮮やかなイエローのマフラーだけがくっきりと浮かぶ。

「蒼太が・・・俺が運命に出会ったのを見てるから。あの時の俺みたいになりたくないから。陸を、悲しませたくないから」

忍がコクリと息を飲む、その音までがよく聞こえる。
二人の間にひゅうと風が吹く。
とても冷たい冬の風。

「・・・ごめんなさい」
「いや、いいんだ。きっかけがないと俺も話せなかったと思うし」

一歩、忍に近づく一穂。
距離が縮まり、お互いの目がよく見える。

「あれは恋じゃない。あそこから始まる何かがあったかもしれないけど、始まらなかった。だから、恋じゃない」
「・・・でも、運命は特別なものだと思う」
「あの滾るような高揚感はしばらく忘れられなかった。でもそれはαの血だ。俺の俺だけの遠山一穂の血じゃない。今、俺の血が騒ぐのはしのぶちゃんだけだよ」
「・・・僕にはわからない」

俯く忍の手を一穂は優しく包んだ。
帰ろうか、そう言って手を繋いで歩く。
二人が初めて手を繋いだ聖なる夜。
月だけは姿を見せず、瞬く小さな星が、時折吹きつける冷たい風が、無言で歩く帰り道が、鮮やかなイエローのマフラーが、緩い坂道が、遠くに聞こえる微かな波の音が、繋いだ手がどうにもこうにも暖かい。
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

短編版【けもみみ番外編】卒業の朝〜政略結婚するつもりで別れを告げた宰相子息ユリウスは黒豹エドワードの策略に嵌る〜

降魔 鬼灯
BL
 銀の髪が美しい銀狼獣人ユリウスは宰相家の一人息子だ。  留学中、同室になった黒豹獣人のエドワードと深い仲になる。  子供の頃からエドワードに想いを寄せていたが、自国では同性の婚姻は認められていない。しかも、文官トップの宰相家と武官トップの騎士団長家の仲は険悪だ。  エドワードとは身体だけの関係。そう言い聞かせて、一人息子のユリウスは、帰国を期にエドワードと別れ政略結婚をする決心をする。  一方、エドワードは……。  けもみみ番外編  クロードとアンドレアに振り回される学友2人のお話。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

処理中です...