【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり

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正月三が日

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元旦

『あけましておめでとうございます』

新年の挨拶をしてお雑煮とお節を食べる。
お雑煮は丸餅にすまし汁。
具は水菜と鶏肉、金時人参。
慎太は、午後から商工会の新年会に出かけて行った。
恵子と忍はお節をダラダラ食べながら、テレビを見たり正月の分厚い新聞を読んだりした。
黒豆が好きな忍の為に、恵子は小皿に黒豆をたくさん盛ってやる。


二日

忍は雨上がりの森の中にいる夢を見ていた。
湿った土の匂いと瑞々しく濃い緑の匂い。
葉っぱから雫がピチョンと落ちるのと同時に目が覚めた。
そんな、初夢。

一穂が運転手で大きな神社に行く。
参拝はもう済ませてあるので、おみくじを引いてお守りをお互いに買う。
おみくじは二人とも吉だった。
お守りをせーので見せ合う。
『健康第一』の同じお守りにひとしきり笑い交換する。
屋台をひやかして、たい焼きを恵子へのお土産に買う。
カップに入った唐揚げを食べて、たこ焼きも食べる。

おみくじには『待ち人来たる』そう書いてあった。


三日

ほとほとと襖をノックする音に忍は応えた。
襖が少しだけ開き陸が顔を覗かせ、今大丈夫?と問いかける。

「はい。どうぞ」
「ありがとう」

静かに襖を閉じ、忍に勧められた座布団に腰を下ろす。

「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうございます」

新年の挨拶をして、お互いに一礼する。
陸は忍を見つめ、何度か口を開けるが黙り込んでしまう。
忍は首を傾げ、お茶いれてきますねと立ち上がったが陸が腕を掴み首を横に振る。
そのまま座らせ、今度は両手で忍の手をぎゅうと握る。

「あ、あの、僕と忍さんはまだ会って間もないし、僕なんか頼りないし、でも、こういうことは時間かけちゃダメだと思うし、でも」
「陸さん、落ち着いて?」

陸の手は小さく震え、それはもちろん忍にもありありと伝わっている。

「忍さん!」
「はい?」
「レ、レイプされて、こ、この町に来たの?も、も、もしかして妊娠してる?」

吃りながら言う声も唇も震え、真剣な眼差しには涙が溜まっている。
たっぷり10秒ほど見つめ合い忍は、へ?と素っ頓狂な声をあげた。

「どうなの?忍さん」
「いや!いや!そんなことありません!」
「本当?誰かに無理やりされて逃げて来たんじゃないの?」
「違います!」
「本当に本当?妊娠もしてない?」
「してません」

陸の小さく震えていた手は、次第にガタガタと大きく震え始めた。
両目からは涙が溢れ出し、震える手で顔を覆っておいおい泣き始める。

「そっか、良かった。発情期がまだきてないみたいだったし、忍さん自分のことちっとも話してくれないし・・・けど、でも良かった。本当に良かったよぉ。すっごいすっごい心配したよぉ」
「そんなに泣いたら赤ちゃんびっくりしますよ」

忍は横から陸をそっと抱きしめて、陸が泣き止むまで腕をさすった。
鼻がスンスンとなる頃陸はようやく顔をあげ、早とちりしてごめんねと謝った。

「泣いたら喉乾いちゃった」

あはは、と二人で顔を見合わせ、忍が片膝を立てて立とうとした時ふと陸が言う。

「忍さん、周期が安定しないタイプ?ここで発情期過ごすより僕がホテルとってあげようか?」

今度こそ忍は口を噤んだ。
ん?と目を覗きこむ陸の視線から逃れ立ち上がる。

「お茶いれてきますね」

ぎこちなく微笑み、忍は襖を静かに閉めた。
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