【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり

文字の大きさ
47 / 63

逃げ道

しおりを挟む
アジフライ、ポテトサラダに豆腐とほうれん草の味噌汁。
里中での今日の昼食だ。
他には客に出して余った、もやしのピリ辛やきゅうりとささみの和え物、切り干し大根なんかが乗っている。

「稔ちゃん、出ていっちゃうのねぇ」

恵子が沢庵をポリポリ咀嚼しながら味噌汁をズズっと啜った。
寂しそうな、困ったような眉を八の字に曲げて卓袱台の対面の男を見る。

「せっかくここにも慣れてきたのになぁ。南んとこの隠居も稔のこと気に入ってたのにな」

南は『春日堂』のご隠居さんで、どんと焼きの日にチョコレートをくれたお婆さんだ。
稔はアジフライを食べながら曖昧に微笑み、慎太は箸を置いてじっと対面を見つめた。

「なにこれ。すげぇ俺が悪者になってる気がすんだけど」
「だって、いっちゃんが連れて行っちゃうんでしょう?」
「連れてくんじゃなくて、一緒に行くの」
「同じじゃねぇか」
「違うだろ」

一穂は白飯をモグモグ食べながら言う。

「稔、無理しなくていいんだぞ」
「そうよ?」
「いつから稔はここんの子になったんだ」

稔が笑って、不貞腐れていた一穂もつられて笑う。

「僕、今一番嬉しくて楽しいので」
「それは、まあそうね。稔ちゃん、ここに来た時とは比べ物にならないくらいいい顔してるわ」
「見つけたんだな、稔は。それでもな」

慎太は茶をゴクリと飲み、なんかあったらいつでも帰ってこいと言った。
うんうんと微笑む恵子と見守るような笑みの慎太。
はい、と大きく頷き稔もまた微笑んだ。
なんだこの空気は、と一穂だけ憮然としそれがおかしくてまた三人で声をたてて笑った。



手を繋いで上木ガラス工房まで歩く。
空は高く風は冷たく、けれど巻いたマフラーも繋いだ手も暖かくてつい顔が緩む。
ぎゅうと手の力を強められ、視線をあげるとニッコリ笑う顔。
嬉しいのがまたバレている、そう思うと恥ずかしいのと単純な自分に顔が熱くなる。


「会いたい人がいるんだけど」
「誰?」
「両親と幼なじみとここに来る前にお世話になった人」
「いつ行く?」
「一緒に行くの?」

稔が驚いて顔をあげると、一穂もまた驚いた顔をしていた。
駄目なの?と眉を下げられてしまう。

「これは僕が撒いた種だから、僕がしないと」
「じゃ、近くにいてもいい?」
「近くって?」
「壁に隠れて見るとか、大木の影に隠れて見るとか、電柱に隠れて」
「なにそれ」

吹き出して笑う稔に一穂も笑う。
ひとしきり笑って、目尻の涙を拭う。

「稔のやりたいようにすればいいよ。逃げ道にはもう俺がいるから」

ありがと、と握る手に力をこめる。
同じように握り返してくれるのに胸が暖かくなる。
ピアスホールが安定する頃には何もかも終わってればいい、そう思う。
いつの間にか目の前はもう工房だった。


陸がいつものように、いらっしゃいと出迎えてくれて一穂は相変わらずズカズカと上がり込み、それを呆れた顔で陸が見送る。

「行っちゃうんだね」
「え?」
「顔見たらわかるよー。なんかこう滲みでてる」

稔は自分の顔をペタペタ触って、浮かれてますか?と恥ずかしくなる。

「浮かれてるのは金ちゃん」

ふふっと陸は笑って緩く稔を抱きしめる。

「稔さんの時間が動き出したように、金ちゃんの時間も動きだしたんだよ。ありがとう」
「そんな、僕の方こそ」

稔も陸の背に手を回しお礼を告げた。
さぁ、お茶でも飲もうと陸に手を引かれ稔は靴を脱いだ。
脱いだままになっている一穂の靴の隣に自分のスニーカーを並べる。
サイズの違うそれをピタリとくっつけて並べる。

しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます

こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。

偽りの罪で追放された俺の【緑の手】は伝説級の力だった。不毛の地で運命の番に溺愛され、世界一の穀倉地帯を作って幸せになります

水凪しおん
BL
「君はもう、一人じゃない」 偽りの罪で全てを奪われ、国で最も不毛な土地へ追放された美貌の公爵令息、エリアス。彼が持つ【緑の手】の力は「地味で役立たない」と嘲笑され、その心は凍てついていた。 追放の地で彼を待っていたのは、熊のような大男の領主カイ。無骨で飾らない、けれど太陽のように温かいアルファだった。 カイの深い愛に触れ、エリアスは自らの能力が持つ、伝説級の奇跡の力に目覚めていく。痩せた大地は豊かな緑に覆われ、絶望は希望へと変わる。これは、運命の番と出会い、本当の居場所と幸福を見つけるまでの、心の再生の物語。 王都が犯した過ちの代償を払う時、二人が選ぶ未来とは――。 ざまぁあり、溺愛あり、美味しい作物たっぷりの異世界スローライフ・ボーイズラブ、ここに開幕。

虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした

水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。 強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。 「お前は、俺だけのものだ」 これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。

処理中です...