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贈り物
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真四角の一枚ガラスは白く曇っていて、右隅に数字表記のない時計が付いていた。
曇りガラスにはダイナミックにグミの木が描いてあり、よく見るとその枝に二羽の鳥が寄り添っている。
「陸が描いたのか?」
「そう。よく出来てるだろ?」
「俺が作ったものがやっと日の目を見ることができたな」
悪いな、と一穂はガラス時計を見つめながら言った。
目を細めていつまでも嬉しそうに眺めている。
そういえばいつでも開業できた、と言っていたなとそっと時計を覗き込んだ。
「急に会社を売っぱらって喫茶店やるって聞いた時は驚いたけど、結果的に良かったのかもな」
「え?」
「ん?聞いてない?こいつ、高校ん時の示談金で大学2年の時に起業したんだよ」
「そうだったんですか」
別におもしれぇ話でもないし、と一穂は緩衝材で時計を包んで大事そうに箱にしまった。
「子ども向けのスマホアプリを開発販売する会社だよ。知育ゲームっていうのかな、色塗りしたり数を数えたり。そこから始まって、まぁ手広く色々やったりしたけど疲れちゃって。会社作って成長させてってなると、上流の人達と関わることも多くてさ。そこを目指してたはずなのに、それが無性に煩わしくなって」
おもしろくないだろ?、と言って一穂は笑った。
「おもしろいかそうでないかじゃなくて、ちゃんと稔さんには話しなよ」
ほんとにもう、と陸はぷりぷりと怒りお茶を一気に飲み干した。
まぁまぁ、と蒼太が宥め稔と一穂は顔を見合わせバツが悪そうに笑った。
「一穂の店のグラスやデザート皿とかマドラーは俺が作ったんだ。こないだ一穂が準備しに行った時に納品してあるから稔君、楽しみにしててよ」
「あ、店の名前は?もう届出してあるんだよね?」
あぁー、と一穂は頭をかきつつ俯いた。
そのままちらりと視線だけを稔に向け、うぅんと唸って目を閉じた。
「勿体ぶらずに教えなよ」
「・・・Frey」
「なんか意味あるの?」
ねぇよ、とボソッと呟きふんっと頬杖をついた。
陸は目を丸くして、稔は首を傾げて不貞腐れてしまった一穂を見やった。
「最初に稔君に教えたかったんじゃないか」
「はぁ!?そんなの教えてると思うじゃん!金ちゃんの詰めが甘いのが悪い」
陸がテーブルをダンと叩き一穂に手を伸ばす。
それを一穂は受け止め、ギリギリと手を押し合いながら睨み合う。
蒼太はお茶を啜り、手押し相撲のようなそれに稔はオロオロしてしまう。
「・・・止めなくていいんですか?」
「昔からこんな感じだから」
そうですか、と稔もまたお茶を啜った。
一穂をよろしくね、と蒼太が微笑む。
それが合図かのように、二人同時に鼻息荒くふんっと手を離した。
「稔、もう帰ろう。蒼太、時計あんがとな」
「あ、明日また海斗くんに会いに来ます」
稔は手を引かれながら、頭を下げてバタバタと上木家を後にした。
一穂はずんずんと早歩きして、敷地を出たところでクルリと振り返った。
「・・・ごめん」
「別にかまわないけど・・・」
何が嫌だったの?と俯く一穂の顔を覗き込んだ。
口をへの字に曲げて黙り込むのに小さく息を吐き、今度は稔が手を引いた。
「お店、本当は何か意味があったの?」
「・・・ない」
「ふうん」
立ち止まり稔はポケットからスマホを取り出した。
ん?と不思議そうな一穂は、ハッとしてやめろやめろと稔の手を掴もうとする。
それを稔はするりとかわす。
「こら、やめろ」
「いやー」
「待って、ほんとやめて」
「走ると時計落とすよ」
スマホを高く掲げて走る稔を、追いかける一穂。
待て、待たないと言いながらどこか楽しそうに走る二人を、南のご隠居が店先を掃きながら見送った。
「『Freyは、Freya(北欧神話の美と愛と豊穣の女神)の双子の兄。神々の中で最も美しい眉目秀麗な豊穣の神として非常に崇拝された北欧神話の神』だって。これ絶対、稔さんのことだよね」
陸がスマホを蒼太に見せながらニヤニヤ笑う。
「あいつは案外ロマンチストだからな」
「なんかいい感じだったね、あの二人」
「あぁ」
蒼太は陸の肩に手を回し、その髪を撫でそのまま自分の肩に寄り添わせた。
「運命なんて、クソくらえだ」
「そうだな」
陸の頭のてっぺんにチュッと小さなキスを落として、蒼太は念を押すようにもう一度そうだなと呟いた。
曇りガラスにはダイナミックにグミの木が描いてあり、よく見るとその枝に二羽の鳥が寄り添っている。
「陸が描いたのか?」
「そう。よく出来てるだろ?」
「俺が作ったものがやっと日の目を見ることができたな」
悪いな、と一穂はガラス時計を見つめながら言った。
目を細めていつまでも嬉しそうに眺めている。
そういえばいつでも開業できた、と言っていたなとそっと時計を覗き込んだ。
「急に会社を売っぱらって喫茶店やるって聞いた時は驚いたけど、結果的に良かったのかもな」
「え?」
「ん?聞いてない?こいつ、高校ん時の示談金で大学2年の時に起業したんだよ」
「そうだったんですか」
別におもしれぇ話でもないし、と一穂は緩衝材で時計を包んで大事そうに箱にしまった。
「子ども向けのスマホアプリを開発販売する会社だよ。知育ゲームっていうのかな、色塗りしたり数を数えたり。そこから始まって、まぁ手広く色々やったりしたけど疲れちゃって。会社作って成長させてってなると、上流の人達と関わることも多くてさ。そこを目指してたはずなのに、それが無性に煩わしくなって」
おもしろくないだろ?、と言って一穂は笑った。
「おもしろいかそうでないかじゃなくて、ちゃんと稔さんには話しなよ」
ほんとにもう、と陸はぷりぷりと怒りお茶を一気に飲み干した。
まぁまぁ、と蒼太が宥め稔と一穂は顔を見合わせバツが悪そうに笑った。
「一穂の店のグラスやデザート皿とかマドラーは俺が作ったんだ。こないだ一穂が準備しに行った時に納品してあるから稔君、楽しみにしててよ」
「あ、店の名前は?もう届出してあるんだよね?」
あぁー、と一穂は頭をかきつつ俯いた。
そのままちらりと視線だけを稔に向け、うぅんと唸って目を閉じた。
「勿体ぶらずに教えなよ」
「・・・Frey」
「なんか意味あるの?」
ねぇよ、とボソッと呟きふんっと頬杖をついた。
陸は目を丸くして、稔は首を傾げて不貞腐れてしまった一穂を見やった。
「最初に稔君に教えたかったんじゃないか」
「はぁ!?そんなの教えてると思うじゃん!金ちゃんの詰めが甘いのが悪い」
陸がテーブルをダンと叩き一穂に手を伸ばす。
それを一穂は受け止め、ギリギリと手を押し合いながら睨み合う。
蒼太はお茶を啜り、手押し相撲のようなそれに稔はオロオロしてしまう。
「・・・止めなくていいんですか?」
「昔からこんな感じだから」
そうですか、と稔もまたお茶を啜った。
一穂をよろしくね、と蒼太が微笑む。
それが合図かのように、二人同時に鼻息荒くふんっと手を離した。
「稔、もう帰ろう。蒼太、時計あんがとな」
「あ、明日また海斗くんに会いに来ます」
稔は手を引かれながら、頭を下げてバタバタと上木家を後にした。
一穂はずんずんと早歩きして、敷地を出たところでクルリと振り返った。
「・・・ごめん」
「別にかまわないけど・・・」
何が嫌だったの?と俯く一穂の顔を覗き込んだ。
口をへの字に曲げて黙り込むのに小さく息を吐き、今度は稔が手を引いた。
「お店、本当は何か意味があったの?」
「・・・ない」
「ふうん」
立ち止まり稔はポケットからスマホを取り出した。
ん?と不思議そうな一穂は、ハッとしてやめろやめろと稔の手を掴もうとする。
それを稔はするりとかわす。
「こら、やめろ」
「いやー」
「待って、ほんとやめて」
「走ると時計落とすよ」
スマホを高く掲げて走る稔を、追いかける一穂。
待て、待たないと言いながらどこか楽しそうに走る二人を、南のご隠居が店先を掃きながら見送った。
「『Freyは、Freya(北欧神話の美と愛と豊穣の女神)の双子の兄。神々の中で最も美しい眉目秀麗な豊穣の神として非常に崇拝された北欧神話の神』だって。これ絶対、稔さんのことだよね」
陸がスマホを蒼太に見せながらニヤニヤ笑う。
「あいつは案外ロマンチストだからな」
「なんかいい感じだったね、あの二人」
「あぁ」
蒼太は陸の肩に手を回し、その髪を撫でそのまま自分の肩に寄り添わせた。
「運命なんて、クソくらえだ」
「そうだな」
陸の頭のてっぺんにチュッと小さなキスを落として、蒼太は念を押すようにもう一度そうだなと呟いた。
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