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番外編 ちょっとした寄り道
デート
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「お給料欲しいんだけど」
「・・・なぜ?」
「タダ働きするの?」
「いやいや、そうじゃなくて家計は一緒だし、欲しいものは俺が出す・・・からって、その顔やめて」
目を細めてじっとりと睨まれる。
いよいよ開店するか、と準備万端なそんな折の出来事。
「僕、ガチャンってやつやりたい」
「・・・タイムカード?」
「そう」
「あー、でも今はPC管理だったりスマホで出退勤したりが・・・うん、買おうな。ガチャンてやつ」
ジトリと睨まれると何でも言うことを聞いてしまう。
俺はこんなにも押しに弱かったっけ?と一穂は上機嫌でモップをかけている稔を見る。
タイムカードはガチャンとはいわないので、悲しい顔をするだろうか。
あっ!とまたもや声を上げるのをカウンター内からそっと見る。
モップの柄に両手を乗せて、更にその上に顎を乗せてにんまり笑っている。
とても可愛いのだが、これからまた何を言われるのかと思うと少し怖い。
「最低賃金が1041円らしいから、時給は1050円がいいなぁ」
いつの間にか最低賃金まで調べている。
しかも9円upしている。
もちろん頷くしかない。
盛り付け上手いから、とお子さまランチもメニューに加えられてしまった。
作れる、ではなく盛り付けだ。
子ども来るかなぁ、と一穂は戸棚にしまってある車の形の食器を思った。
4月といえどまだまだ朝は寒い。
掛布団をがっちり被りぬくぬくと眠りを享受する。
途端にズシッと腹に重みがかかり、唸り声を上げてしまう。
「一穂、誕生日おめでとう!」
「・・・あ、5月になったのか」
うっすら目を開けると満面の笑みで見下ろしてくる愛しい人。
起きて起きて、とバウンドする度に腹に衝撃が走り起きる事ができない。
珍しく早起きしたと思ったら激しいな、と思いながら喉からは声にならない声しか出ない。
なんとか起き上がり、腰に手を回してありがとうと告げる。
キスのひとつでも、と思った矢先にするりと逃げられる。
「朝ごはんできてるから早く来て」
と、パタパタと寝室から出ていってしまうのをぼんやり眺める。
のろのろとベットから這い出て、顔を洗ってようやく目が覚めた。
自分の誕生日などすっかり忘れていた。
店休んで、と言っていた事にようやっと合点がいった。
朝ごはんはピザトーストと粉末のカップスープだった。
「今日は僕に全部任せて」
口の端にトマトソースをつけたままにんまり笑う稔の可愛さに朝からやられてしまう。
誕生日じゃなく命日になるやもしれん、と思うが気合いで立て直しソースを拭ってやる。
ポカンと口を開けてじわじわと赤くなり恥ずかしそうに、ありがとうとこぼす稔を見てやっぱり命日になりそうと天を仰ぐ。
電車に乗って若者が多く集まる街に向かう。
スマホ片手に地図を見ながら歩くのに大人しく着いていく。
途中立ち止まってキョロキョロと見渡しながら進んでいく。
「あった!」
指さすのは茶色の古めかしい雑居ビル。
グイグイと腕をとられ二階へ。
鉄の扉の前には小さなプレートがぶら下がっており『雅』と漢字一文字書いてあるだけだった。
稔は躊躇せず嬉しそうにドアを開ける。
「予約した楢崎です」
ドアの先にはガラスケースがいくつか並んでいて、そこに綺麗にアクセサリーが並んでいる。
それには目もくれず稔は奥に向かって声をかける。
出てきた恰幅のいい妙齢の女性と和やかに話しているのを疎外感たっぷりで見つめた。
「あら、ごめんなさいね。ずっとメッセージでやり取りしてたから初めてな気がしなくって」
と朗らかに笑う女性に愛想笑いしか浮かべることができない。
女性はまた奥に行き、帰って来た時には臙脂色のジュエリートレーを持っていた。
どうぞ、とガラスケースの上に置かれたそれは一組のピアス。
三つの小さな宝石で三角形が形作ってある。
三角形の頂点はシトリン、その下にはペリドットと血赤珊瑚。
「シトリンは商売繁盛、ペリドットは心の重荷を取り除き前向きに、血赤珊瑚はその名の通り血液ですので体内を駆け巡る力、漲る生命力といった感じでしょうか」
ニコニコピアスの説明をする渡邉と名乗ったジュエリーデザイナー。
「一穂への誕生日プレゼントだよ」
「・・・お揃いで付けるの?」
はにかみながら頷く稔を人前なのに思わず抱きしめてグッと涙を堪える。
「今の一穂の片っぽのやつもいいけど、沙也加達の結婚式もあるから」
「ありがとう。最高のプレゼントだ」
あらあら仲がよろしくて、とふふふと笑う声に赤くなってしまった顔を見合わせて恥ずかしなる。
その場でつけさせてもらい、支払いは稔がもった。
昼食はベトナム料理で、なんで?と聞くと以前食べたいと言っていたらしい。
テレビで!旅行番組で!と怒気荒く言われるがピンとこない。
だが、稔がそう言うならそうなのだろう。
「お給料欲しいって今日の為?」
「ちょっとくらい自分のお金使いたかったから。だけど一穂から貰ってるから結局一緒かもだけど」
拗ねるように口を尖らせるのが可愛くてどうしてくれようかと内心荒れる。
晩ごはんまでは予算が無いらしく、家で食べようと早めに帰る。
その後ベットの中で夢現で稔がポツポツと話す。
「本当はね、ペリドットのオリーブグリーンは一穂の匂い。血赤珊瑚は、一穂が前よりも成熟した林檎の匂いがするって言うから。シトリンはふたつの色を混ぜた色」
うふふ、とすりすりと胸に寄り添うのに耳に光るとろりと赤い石を撫でる。
すぅすぅという寝息に涙がこみ上げてくる。
嬉しすぎて涙が出るのはいつぶりだろう。
命日にならなくてよかった、心からそう思って眠る。
おしまい𖤣𖠿𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖠿𖤣
最後の最後まで読んでいただきありがとうございました。
番外編なので4話くらい?と詰め込みました。
最後はかなり甘いのでは?(当社比)
どこに差し込もうかと差し込めなかった、ミルクプリンは一穂の運命の匂いを克服できたから、桃のコンポートの桃は山さんの桃園から仕入れてること、沙也加達の結婚式は延期になっていた事、諸々ありますが脳内補完していただければと思います。
丸投げで駄目な私を許してください。
稔を応援していただきありがとうございました´ω`*
「・・・なぜ?」
「タダ働きするの?」
「いやいや、そうじゃなくて家計は一緒だし、欲しいものは俺が出す・・・からって、その顔やめて」
目を細めてじっとりと睨まれる。
いよいよ開店するか、と準備万端なそんな折の出来事。
「僕、ガチャンってやつやりたい」
「・・・タイムカード?」
「そう」
「あー、でも今はPC管理だったりスマホで出退勤したりが・・・うん、買おうな。ガチャンてやつ」
ジトリと睨まれると何でも言うことを聞いてしまう。
俺はこんなにも押しに弱かったっけ?と一穂は上機嫌でモップをかけている稔を見る。
タイムカードはガチャンとはいわないので、悲しい顔をするだろうか。
あっ!とまたもや声を上げるのをカウンター内からそっと見る。
モップの柄に両手を乗せて、更にその上に顎を乗せてにんまり笑っている。
とても可愛いのだが、これからまた何を言われるのかと思うと少し怖い。
「最低賃金が1041円らしいから、時給は1050円がいいなぁ」
いつの間にか最低賃金まで調べている。
しかも9円upしている。
もちろん頷くしかない。
盛り付け上手いから、とお子さまランチもメニューに加えられてしまった。
作れる、ではなく盛り付けだ。
子ども来るかなぁ、と一穂は戸棚にしまってある車の形の食器を思った。
4月といえどまだまだ朝は寒い。
掛布団をがっちり被りぬくぬくと眠りを享受する。
途端にズシッと腹に重みがかかり、唸り声を上げてしまう。
「一穂、誕生日おめでとう!」
「・・・あ、5月になったのか」
うっすら目を開けると満面の笑みで見下ろしてくる愛しい人。
起きて起きて、とバウンドする度に腹に衝撃が走り起きる事ができない。
珍しく早起きしたと思ったら激しいな、と思いながら喉からは声にならない声しか出ない。
なんとか起き上がり、腰に手を回してありがとうと告げる。
キスのひとつでも、と思った矢先にするりと逃げられる。
「朝ごはんできてるから早く来て」
と、パタパタと寝室から出ていってしまうのをぼんやり眺める。
のろのろとベットから這い出て、顔を洗ってようやく目が覚めた。
自分の誕生日などすっかり忘れていた。
店休んで、と言っていた事にようやっと合点がいった。
朝ごはんはピザトーストと粉末のカップスープだった。
「今日は僕に全部任せて」
口の端にトマトソースをつけたままにんまり笑う稔の可愛さに朝からやられてしまう。
誕生日じゃなく命日になるやもしれん、と思うが気合いで立て直しソースを拭ってやる。
ポカンと口を開けてじわじわと赤くなり恥ずかしそうに、ありがとうとこぼす稔を見てやっぱり命日になりそうと天を仰ぐ。
電車に乗って若者が多く集まる街に向かう。
スマホ片手に地図を見ながら歩くのに大人しく着いていく。
途中立ち止まってキョロキョロと見渡しながら進んでいく。
「あった!」
指さすのは茶色の古めかしい雑居ビル。
グイグイと腕をとられ二階へ。
鉄の扉の前には小さなプレートがぶら下がっており『雅』と漢字一文字書いてあるだけだった。
稔は躊躇せず嬉しそうにドアを開ける。
「予約した楢崎です」
ドアの先にはガラスケースがいくつか並んでいて、そこに綺麗にアクセサリーが並んでいる。
それには目もくれず稔は奥に向かって声をかける。
出てきた恰幅のいい妙齢の女性と和やかに話しているのを疎外感たっぷりで見つめた。
「あら、ごめんなさいね。ずっとメッセージでやり取りしてたから初めてな気がしなくって」
と朗らかに笑う女性に愛想笑いしか浮かべることができない。
女性はまた奥に行き、帰って来た時には臙脂色のジュエリートレーを持っていた。
どうぞ、とガラスケースの上に置かれたそれは一組のピアス。
三つの小さな宝石で三角形が形作ってある。
三角形の頂点はシトリン、その下にはペリドットと血赤珊瑚。
「シトリンは商売繁盛、ペリドットは心の重荷を取り除き前向きに、血赤珊瑚はその名の通り血液ですので体内を駆け巡る力、漲る生命力といった感じでしょうか」
ニコニコピアスの説明をする渡邉と名乗ったジュエリーデザイナー。
「一穂への誕生日プレゼントだよ」
「・・・お揃いで付けるの?」
はにかみながら頷く稔を人前なのに思わず抱きしめてグッと涙を堪える。
「今の一穂の片っぽのやつもいいけど、沙也加達の結婚式もあるから」
「ありがとう。最高のプレゼントだ」
あらあら仲がよろしくて、とふふふと笑う声に赤くなってしまった顔を見合わせて恥ずかしなる。
その場でつけさせてもらい、支払いは稔がもった。
昼食はベトナム料理で、なんで?と聞くと以前食べたいと言っていたらしい。
テレビで!旅行番組で!と怒気荒く言われるがピンとこない。
だが、稔がそう言うならそうなのだろう。
「お給料欲しいって今日の為?」
「ちょっとくらい自分のお金使いたかったから。だけど一穂から貰ってるから結局一緒かもだけど」
拗ねるように口を尖らせるのが可愛くてどうしてくれようかと内心荒れる。
晩ごはんまでは予算が無いらしく、家で食べようと早めに帰る。
その後ベットの中で夢現で稔がポツポツと話す。
「本当はね、ペリドットのオリーブグリーンは一穂の匂い。血赤珊瑚は、一穂が前よりも成熟した林檎の匂いがするって言うから。シトリンはふたつの色を混ぜた色」
うふふ、とすりすりと胸に寄り添うのに耳に光るとろりと赤い石を撫でる。
すぅすぅという寝息に涙がこみ上げてくる。
嬉しすぎて涙が出るのはいつぶりだろう。
命日にならなくてよかった、心からそう思って眠る。
おしまい𖤣𖠿𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖠿𖤣
最後の最後まで読んでいただきありがとうございました。
番外編なので4話くらい?と詰め込みました。
最後はかなり甘いのでは?(当社比)
どこに差し込もうかと差し込めなかった、ミルクプリンは一穂の運命の匂いを克服できたから、桃のコンポートの桃は山さんの桃園から仕入れてること、沙也加達の結婚式は延期になっていた事、諸々ありますが脳内補完していただければと思います。
丸投げで駄目な私を許してください。
稔を応援していただきありがとうございました´ω`*
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