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桔梗鴉

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桔梗鴉──
5歳で馬車事故で亡くなったとされる病弱のの旗印。
それが今、マルティナの手にある。
黄ばんだ用紙には『蕾の桔梗は月光を浴びて朝陽を背にして飛ぶ鴉』の一文。
透かして見ると浮かび上がる桔梗鴉。

「これをどこで」
「どこだと思う?」
「もったいぶんな」

じろりと睨むマルティナに満足気に片眉をあげるニーサン。

「宰相の執務机」
「・・・なんで」
「さぁ、なんでだろうな」
「それをのがあんたらでしょうが」
「まぁ、慌てんな。がここにあるってことは補佐が動く。まぁ、二重底にあったからいつ気付くかってことだけどな」

しましょう、それだけ言うとマルティナはニーサン宅を後にした。
帰り道、マルティナは考える。

シェリルは一体本土でなにに関わっていたのか。
王子との婚約破棄なんて些細なことだろう。
破棄を上手く利用されたのだ。
キャスの鳥の依頼主は中央の末端貴族の回し者だった。
そこまでは辿れたのにそこから上手く辿れない。
余程の大物が裏にいる。

もし、自分の予想が当たっていたとしてなぜ・・・。

「おかえりなさいませ」
「スティン、ただいま。お父様は?」
「執務室でございます」

ありがとう、とマルティナはそのまま執務室に向かう。
扉の前で深呼吸を一つ。
逸る胸を抑えてノックして執務室に一歩踏み入れた。

ルイスは決済印片手に目を細めた。
マルティナは執務机の前に立ち、ルイスを見つめた。

「お茶でも飲むかい?」
「・・・お父様は知っていたのね?」
「なにを?」
「桔梗鴉よ」

ルイスは笑みを深め、片手で顎を撫でながら目だけで頷いた。

「シェリルはされたのね?いつからわかってた?誰が絵を描き始めたの?シェリルはなにを知ってる?本土でなにをしたの?」
「・・・質問ばっかりだなぁ」

ルイスはほっほっと笑う。

を調べて対処するのがお前だろう」
「島主はお父様でしょう!」
「次期島主はお前だ」
「はっ、経験を積ませてくれるって?」

マルティナは睨みつけたが、ルイスは涼しい顔で見やるだけだった。
チッと舌打ちしたマルティナにルイスは面白そうに笑う。

「スーちゃんに聞けばなにかヒントもらえるかもな」
「お母様に?」
「忘れてないだろう?スーちゃんは本土の中央貴族だったじゃないか」

話は終わりだ、とマルティナはルイスに執務室を追い出された。

 

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