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耳の帰還

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ルイスの肩に寄せ目を閉じるスカーレットを見てシェリルは思う。

過去を思い出しているのだろうか、と。

家は内緒と言われたがシェリルには思い当たる節があった。
娘のような年頃はとっくに過ぎたのに淡いピンクや水色のドレスばかり着ている侯爵夫人。

もちろん、そのような装いでは口さがない者たちに噂話を立てられている。

しかし、装い以外は常に毅然とした態度で噂話に踊らされることもなく侯爵夫人として辣腕を奮っている。
侯爵領は富み、城勤めの侯爵も出世している。
気弱な印象などない。
夜会でも人間関係を上手く回しているように見える。

「世界で一番大切な人がピンクが似合うって言ってくれたの」

そう、漏れ聞いたのはいつだったか。
てっきり侯爵だと思っていたが・・・
侯爵夫人はいつ気付いたのだろう。
それとも最初からわかっていたのだろうか。
幼馴染なのだからスカーレットのことはよく知っているだろう。
侯爵もきっと知っている。
気付いたのか、知らされたのかはわからないが、でないとドレスの事で苦言の一つもこぼしそうなものだ。
ドレスもアクセサリーも自らの色を纏ってもらえないのをどう感じているのだろう。
それはきっと彼らの贖罪なのかもしれない。
侯爵家の子息にはまだ婚約者がいない。
それもまた自分たちのことがあったからなのだろう。
婚約破棄から出奔したスカーレット。
どんな経緯で島に来たのだろう。

聞きたいことはたくさんあるけれど、スカーレットはそのまま眠ってしまったようだ。
隣国から帰宅してすぐお茶に誘ってくれたのだ。
疲れてしまったのだろう。
シェリル達は一礼し静かにその場を後にした。



「おかえり。ニーサン、カーラ」

マルティナは港にいた。
週二回本土との連絡船に乗って帰るとチャッピーからの手紙で知らされたからである。

「どうだった?」
「そっちは?」
「ロッチの鳥は飛んだ。キャスの鳥はばあやが料理した」
「うわ、ばあやかよ。えげつねぇな」
「ばあや怖い」

話しながらニーサンとカーラの家に向かう。
二人は町で同棲している。
三階建てのアパートの一室。
同じアパートにはルナも住んでいる。

「で?キャスの鳥は?」
「小物よ。依頼主は吐いたけど・・・今辿ってるところ。辿り着けるかはわかんない。狙いはシェリル」
「だろうな。こっちはシェリルの足取り追ってきた。あいつすげえな。王子の公務ほとんどあいつがやってたわ」

呆れたように笑うニーサン。
想定内だわ、とお茶を啜るマルティナ。

「ペトロ孤児院。シスターが一人消えた。婚約破棄の前」
「どこに?」
「高齢だから行くとこないはず。でもいない」

首を横に振るカーラ。

「マルティナ、お前死んだ王妃と王子知ってる?」
「病弱で療養先に行く途中に崖から馬車ごと落ちて亡くなったんでしょ?今の王妃は側妃がくりあ・・・げ・・・で・・・まさか!」

ニーサンはニヤリと笑って黄ばんだ四つ折りの紙を懐から出した。
書面を読むマルティナの顔がどんどん紅潮していく。

・・・
「そういうこと。シェリルは流されたんじゃない。島にされたんだ」

シェリル、あなた一体なにを知ってるの・・・

マルティナの脳裏には微笑むシェリルがいた。
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