2 / 48
ナワバリ
1
しおりを挟む「タクロー! おいっ……タクロー……!」
遠く遠くでぼやけた声が聞こえる。やけに聞き慣れた声だった。俺は周りをキョロキョロ見渡した。
周りは真っ暗で何も見えないけれど、後ろを振り向いた時、傷だらけで頭から血を流す先代頭が目に飛び込んできた。
「頭! な、何してんすか!?」
そのボロボロさ加減に驚いて、俺は急いで駆け寄ろうとしたけど、距離は全く縮まらないで、息だけが切れる。
「え? なんでだ?」
困惑しながらひたすら足を動かす俺を少しだけ優しい表情で見つめると、頭は口を開いた。
「チーム罵苦乱の次の頭はお前だ! なっ……!」
「……は!? なに言って……」
「ンじゃあな……!」
先代頭の唐突な引き継ぎ宣言にリアクションをとる間もなく、明るい言葉で遮られて、ちょっとだけ寂しさを含んだ笑みを残して、先代は闇の中に消えてしまった。
「頭……?」
気づくとそこは、冷たく硬い床の上だった。
「……んん~。ふぅ!」と目をあけて「なんだ夢かー、懐かしい夢見たなぁー」とあくびをしながら両腕をあげ全身で伸びをして、立ち上がった。
俺が寝ていたのは、小汚い3F建て廃ビルの1室だった。
「いてて……なんで床なんだよ、こっちにソファーあるじゃんかよ~」
ぶつぶつ言いながら左手で背中をさすっていると、向かい合わせになっているもう一つの黒い革製のソファーから、ぐーぐーと鼾が聞こえた。
寝ていたのは一緒に来たユースケだった。自慢の黒い長髪を食いながら、背中を向けてソファーでぐっすり眠っていた。
ドカッと俺の不満キックが熟睡中のユースケの背中にヒットした。
「いってっ! 誰だコラぁっ……あ、兄貴……!」
怒りが超速で飛び上がり超速で落下したようだった。ユースケは蹴りを入れたのが俺だと分かり、笑顔を手渡して来たが俺はそれを受け取らない。
「……なんでお前がソファーなんだコラァア!」
「えぇっ!! なんですか!? え! なんなんすかぁ!?」
「うるせー!!」
「えぇー!?」
……しばらくして、八つ当たりに飽きが来て、二人で状況把握をすることにした。
「兄貴、ふっるい廃ビルのくせにここ、やけに小綺麗ですよね?」
ソファーの下や、傾いている肖像画を眺めながらユースケが俺に尋ねてくる。
「そーだなぁ。こんなに綺麗にしたがるのは殺菌族しかいねぇよな。」
俺は答えながら社長室だったんであろうこの部屋のデスクの引き出しを次々に開けながら応えた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる