ブラッシング!!

倉畑コウキ@小説書く介護職

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ナワバリ

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 「タクロー! おいっ……タクロー……!」
 遠く遠くでぼやけた声が聞こえる。やけに聞き慣れた声だった。俺は周りをキョロキョロ見渡した。

 周りは真っ暗で何も見えないけれど、後ろを振り向いた時、傷だらけで頭から血を流す先代頭せんだいヘッドが目に飛び込んできた。

 「ヘッド! な、何してんすか!?」
 そのボロボロさ加減に驚いて、俺は急いで駆け寄ろうとしたけど、距離は全く縮まらないで、息だけが切れる。
 「え? なんでだ?」
 困惑しながらひたすら足を動かす俺を少しだけ優しい表情で見つめると、頭は口を開いた。

 「チーム罵苦乱ばくらんの次のあたまはお前だ! なっ……!」
 「……は!? なに言って……」
 「ンじゃあな……!」
 先代頭せんだいヘッドの唐突な引き継ぎ宣言にリアクションをとる間もなく、明るい言葉で遮られて、ちょっとだけ寂しさを含んだ笑みを残して、先代は闇の中に消えてしまった。



 「ヘッド……?」



 気づくとそこは、冷たく硬い床の上だった。
 「……んん~。ふぅ!」と目をあけて「なんだ夢かー、懐かしい夢見たなぁー」とあくびをしながら両腕をあげ全身で伸びをして、立ち上がった。
 俺が寝ていたのは、小汚い3F建て廃ビルの1室だった。

 「いてて……なんで床なんだよ、こっちにソファーあるじゃんかよ~」
 ぶつぶつ言いながら左手で背中をさすっていると、向かい合わせになっているもう一つの黒い革製のソファーから、ぐーぐーといびきが聞こえた。

 寝ていたのは一緒に来たユースケだった。自慢の黒い長髪を食いながら、背中を向けてソファーでぐっすり眠っていた。
 ドカッと俺の不満キックが熟睡中のユースケの背中にヒットした。
 「いってっ! 誰だコラぁっ……あ、兄貴……!」
 怒りが超速で飛び上がり超速で落下したようだった。ユースケは蹴りを入れたのが俺だと分かり、笑顔を手渡して来たが俺はそれを受け取らない。
 「……なんでお前がソファーなんだコラァア!」
 「えぇっ!! なんですか!? え!  なんなんすかぁ!?」
  「うるせー!!」
 「えぇー!?」

 ……しばらくして、八つ当たりに飽きが来て、二人で状況把握をすることにした。

 「兄貴、ふっるい廃ビルのくせにここ、やけに小綺麗ですよね?」
 ソファーの下や、傾いている肖像画を眺めながらユースケが俺に尋ねてくる。
 「そーだなぁ。こんなに綺麗にしたがるのは殺菌族さっきんぞくしかいねぇよな。」
 俺は答えながら社長室だったんであろうこの部屋のデスクの引き出しを次々に開けながら応えた。
 
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