ブラッシング!!

コトハナリユキ

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ナワバリ

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 ーー廃ビル2F。会議室跡。

 「いやー、テーブルだらけやな。」
 いくつか並ぶ長机を挟んだ向こう側で、トシキがパイプ椅子に腰掛け、周りを見渡している。
 「会議室だったんだろ多分。」
 俺はギシギシ鳴る机に座って、トシキがタバコに火をつけるのを眺めた。 

 「なぁタカマツ」
 「ん?」
 「どこにおるんやろ、ヘッドもユースケ兄さんも……」
 少しだけ不安げに、でも面倒くさそうにトシキがタバコの煙を吸い込んで吐き出した。

 「おれの勘だと、きっと1Fだ」
 「そうか……。ほんなら3Fやな!」
 「あぁ!? なんでだよっ!」
 「お前の勘が今までで当たったことあるかー?」
 また煙を吐き出して、タバコが俺に向けられてイラっとした。

 「なんだこらぁ、やんのか」と、いつものように絡んでしまう。
 「おお? やったろやないか、ちょっとイライラして来たとこや」
 「それは俺の台詞だ」と言いかけたところで気絶していたミヤシゲが目を覚ました。

 「ちょ、ちょっと二人とも……!」
 急に起き上がったせいか眩暈めまいがしたのか、ミヤシゲの丸い目が細くなって、強く閉じたり開いたりしていた。
 「僕たち仲間なんだから、ケンカしちゃダメだよぉ……」
 黙って話を聞いていると、なぜかどんどん声が小さくなっていってしまうのは昔からのミヤシゲの悪いところだ。
 入口から入った右上に掛けられた時計が動いているのになんとなく気がついた。

 「あー……お、おぉミヤシゲ。目ぇ覚ましたんか。いやいやケンカってお前、ちゃうぞ? ちょっとジャレてただけやって~」
 「な、なんだぁそっかぁ……」
 そうやで~と、自慢のドレッドヘアをいじりながら適当にトシキがミヤシゲの相手をし始めたから、その軽い空気が喧嘩ムードを飲み込んで、俺もその気が無くなってしまった。

 「けどミヤシゲ、また着地ミスしただろ。」
 「えっ? ど、どんな格好だった?」
 「まぁ、ソファの上はソファの上だったんだけど、背もたれを両足で挟んで海老反りになって、バンザイして上半身はソファの裏に落ちてって感じで、すげぇカッコしてたぜ」
 「あ~、ははは。あれはわろたわ。感染ん時はもっと集中して着地せんとあかんわ」
 トシキがカラカラ笑うから、ミヤシゲは恥ずかしそうに左頬を人差し指でポリポリかく。
 「えー、そんなバレリーナみたいなポーズだったの? 僕? うわー恥ずかしい~」
 バレリーナって……。相変わらずミヤシゲは変な奴だ。こんな変でナヨナヨした坊主頭メガネ野郎が、なんで俺らと居るかってゆーと……。

 「そーや。そのポーズだと頭に血ぃ上る思ってな、タカマツと移動させたんや。そん時お前は寝たまんまやったけど、頭触られて痛がってたで? 今は大丈夫なんか?」
 「え、そーだったんだ、ありがと。今はぜんぜ…」
 ポタポタ。
 「ん?あれ?」
 ポタタ、ポタ。
 「うわぁぁ! 血だぁ!!!」
 その痛がっていたところから出血したみたいで、ミヤシゲの掌に血がポタポタと落ちてきた。
 「うわ、やばいやん」
 そう。とってもヤバい。


 
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