ブラッシング!!

倉畑コウキ@小説書く介護職

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ナワバリ

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 ミヤシゲは自分の血を見ると、危険を察知して身を守る為に、もう一つの凶暴な人格に変貌し大暴れする。……そう、俺たちがミヤシゲと一緒に居る理由は「そんな危ない奴をほかっとけないから」だ。

 「おい! 落ち着けや、ミヤシゲ!」
 ドレッドヘアがバサバサ揺れる。俺も「心配ねぇって! 大丈夫だってぇ!」と叫んでみたけど、届かなかったみたいで、既にミヤシゲの顔つきは変わってしまっていた。

 「うおぉぉ! なんだこの血はぁぁ!! 誰がやりやがった、ごらぁぁぁあ!!」
 雄叫びを上げだしたのを見て、うわぁ~って顔でトシキと目を合わせる。
 ミヤシゲの真ん丸な目は吊りあがり、真ん丸さを包むように生えている眉毛も一緒に吊りあがって、心なしか躰つきも筋肉質になっている。俺たちはこの変貌したミヤシゲを「ミヤツー」と呼んでいる。

 「自分の血ぃ見るとすぐこうや、かなわんのー」
 「めんどくせぇなぁ~」
 一度変貌してしまえば気絶させない限り、大人しい人格は帰って来ない。だから毎回ミヤツーが大暴れしてスタミナ切れしたところを、俺とトシキでぶっ飛ばして鎮めている。

 ぺっとタバコを吐き捨てて、ギシギシっと激しく音を立ててトシキが長机から飛び降りた。
 「タカマツー!」
 「なんだ!?」
 「とりあえず隠れるでぇ!」
 「隠れんのかよ!」
 とりあえず身を隠して様子を見たいようだ。それもそうだ。ここは恐らく殺菌族さっきんぞくのナワバリ。いつ殺菌族やつらが現れるかも分からない状況の中、3人で疲弊ひへいする訳にはいかないってことだろう。

 「わかった!」
 俺は部屋の後ろの方にある、葉が全て枯れ落ちた大きな観葉植物の影に隠れた。トシキは教卓の様な大きなデスクの下に隠れた。

 「おおい!! 誰もいねーのに後頭部から血が出てるって、おかしいだろおいい!!」
 感染時の着地をミスしてつけたんだろう傷について、事情を知らない人格「ミヤツー」は疑問と苛立ちを、周りの机や椅子にぶつけている。「そりゃおかしいわな」って俺はかがんで観葉植物の影からミヤツーを観察していた。

 「ん? たばこか!?」
 ミヤツーは落ちていたタバコを見つけて拾い上げた。トシキは「やば」と俺の方を見て口をパクパクさせたけど、それは無視した。
 
 「この銘柄は確か、関西弁野郎のだったなぁ……。あ、そういやぁーあの金メッシュのオールバック馬鹿もいねぇ」
 金髪のメッシュ3本入れてるオールバックとは俺のことだ。……馬鹿とはなんだ馬鹿とは。
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