ブラッシング!!

コトハナリユキ

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ナワバリ

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 「あいつらなんで居ねぇんだ。どこだおらぁ! どーせ近くに居んだろぉがぁ!」
 タバコを投げ捨て、俺たちを探し始めたミヤツーはドカドカと周りの机を蹴倒し回る。その形相は鬼の様だ。……あ、やばい! トシキが確かあの辺りに……!

 トシキが隠れていた大机が蹴り飛ばされて「うわ、めんどくせーことになったぁ!」と思ったが、そこにトシキはおらず、いつの間にか俺の隣に来ていて、一息ついていた。相変わらず足の速い奴。
 「ふぅ~。あかん、マジでビビったわぁ。」
 「ビビったのは俺だ! ビックリするだろ! 狭いからあっちいけ」 
 「なんでやっ、仲間がピンチのところをなんとか逃げて来たんやぞ!」
 「うるせ! 黙れこの糞ドレッド!」
 「なんやとこのヘタレがぁ!」
 「誰がヘタレだぁ!」
 小さい声でギャーギャー言い合ってるウチに、ミヤツーは一通り荒らした会議室から出ようとしていた。

 ドカァ! ギギィ……バタァーン! 引き戸の倒される音が会議室に響いて俺たちはミヤツーを視線で追った。
 「あいつ出てったぞ。やばくないか」
 「……いやちょぉ待て、これでミヤツーが殺菌族あいつらに会うたら俺らがやる手間ぁ省けるんちゃう?」
 「あ、負けるにしても、勝つにしてもってことか」
 「そうや。ミヤツーが負けたら負けたでミヤシゲに戻るし、られそうになる位の相手やったら助太刀したらえぇ。勝ったら勝ったで敵とやり合わんでえぇし、ミヤツーも疲れきってるやろからそこ叩いてミヤシゲに戻したらえぇ。」

 こういう時にこのドレッド野郎は頭がよく回る。賢いっつーか、ずる賢いっつーか、まぁなんにせよ良い提案だし、乗っておく。
 「分かった。そうしよう」
 「おう、天才や思ったか?」
 「黙れ糞ドレッド」
 でもやっぱムカつく。

 ギッシギッシと会議室の扉を踏みつける音から、廊下をダシダシと歩く足音に変わったところで、俺たちはササッと会議室入り口の残った扉の影に隠れた。
 するとトシキが少し期待した声色で話しかけてきた。
 「なぁ、もし敵と出くわしたら、また日本刀出るんやろか?」
 「あぁ、あれか。いつもどこから出してんだろーな」
 「せやねん。いっつもミヤシゲに戻すと持ってぇへん」

 日本刀とは穏やかじゃないけれども、ミヤツーは何故か喧嘩になると日本刀を取り出すことが多い。気づくと持ってるから、いつもどこから取り出しているのか誰も分からないし、ミヤシゲの人格に戻ると、日本刀は消えている。チーム罵苦乱ばくらんの七不思議の一つだ。あと六つは知らないけど。

 「わぁ!」
 「痛ぇなぁ! 誰だてめぇ!」
 ミヤツーの声が少し遠くから聞こえる。誰かと鉢合わせたようだ。俺たちは急いで会議室から飛び出した。


 
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