ブラッシング!!

倉畑コウキ@小説書く介護職

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心のひっかかり

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 ヘッドの彼は、小ばかにした表情を浮かべた。 
 「なんだよビビってんのか? しょうもねぇ奴だなぁ。」
 「あ、あなた、状況分かってるんですか? 銃向けられてる状態なんですよ?」
 ハハハと笑われてしまった。
 彼はおもむろに羽織っているシャツを翻し僕に腹部を見せた。
 「あ……!」
 ドクドクと真っ赤な血が流れ、がらだと思っていたのが血だと分かった。僕は後ずさりした。
 「さっき腹を何か所が刺されてさー。多分、少ししたら死ぬんだよ俺。」
 殺そうと思っていた相手が既に死にそうだったのだ。ある意味チャンスだった。でもなんとも言えないショックを僕は受けてしまった。
 言葉が出ない僕を見ながら彼は言った。
 「ま、さっきちょろっと引き継ぎも済ませたからよ。チーム罵苦乱バクランは、もう大丈夫だ。」

 彼はシャツを直した瞬間僕を見た。強い殺気を感じ、僕は彼から目が離せなくなってしまった。まるで金縛りにあったような感覚だった。
 「もうさ、思い残すこともねぇし、怖いもんもねぇのよ。」
 見たことのない目で、聞いたことのないほど低い声だった。僕は歯を食いしばりこれ以上後ずさりしないように身体に力を込めた。まるで強風が吹いたかと思うほどの迫力だった。
 負けない。負けたくない! もう3度目の現場だ。僕は殺菌族さっきんぞくのヒットマンになったんだ。僕はこの人と同じじゃないか。失うものなんかないじゃないか。のまれるな。動け、動け……。
 「なんで、そんな身体で立っていられる……?」
 やっと僕が動かせたのは口だけだった。
 「ただのやせ我慢だよ。……まぁ、もう足とかガクガクだけどな。」
 人は願いなんかを口にすると実現に近づくというけど、どんなものでも言葉にすれば現実になるのかもしれない。そう口にした途端に彼の足は震えだした。
 「今日の抗争はきっとウチの負けだよ。……そこでさ、お前。」
 「な、なんですか。」
 「最後に頼みを聞いてくれよ。」
 「は、はぁ?」
 この状況で敵に頼みごと? 本当にどうかしてる。もう頭に回る血液がないのだろうか。
 「いいですか……?あなたは今、僕に拳銃を突きつけ……。」
 「俺を撃てばいい。」
 「!」
 低いままボソリと吐かれた声に僕は驚いた。いや、そのつもりなんだけど……え?

 「ただし、場所は、ここじゃねぇ。少し行った先は崖だ。そこで1発で俺を仕留めてくれ。」
 この男は死に場所を選びたがっているのか? もう諦めてるっていうのか? 

 「……わかりました。」
 それなら結果は同じだ。最後の頼みならと、僕はその崖へ彼を連れて行くことにした。
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