王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第1章

レッツゴー スカウト!(2)

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「いいか、マトリ・シュマイルズ」
「は、はいっ?!」

 大臣に名前を呼ばれ、顔を跳ね上げる。

「きみには王国中を回り、フロンド区以外の土地――つまり、レフド区、ライド区、エンド区から王子候補をひとりずつ連れてきてもらうことに決まった。名付けて、王子発掘プロジェクトinミグハルド王国!」

 両手を広げて誇らしげな表情を浮かべる大臣の姿に、本気なのか冗談なのか、状況がいっそう判断できなくなってきた。

 示し合わせたかのように、窓の外からは花火の音が聞こえてくる。

 なにこれ、演出?! ……と驚いたけれど、重要なことを思い出す。そういえば今日って、国王様のご息女であるイジェ様のご成婚祝いの日だったんだ。
 花火が上がったってことは、お城前の広場では盛大なパーティーがはじまったところなのかもしれない。いいなあ。あたしも一目でいいから見たかったんだけど……。

 うらめしい気持ちで窓を眺めてみても、設置された場所が高すぎて、僅かな星の光を散らした黒い空が見えるばかりだ。

 上の空でぼんやりとしていると、目の前に大臣がしゃしゃり出てきた。

「……では今一度、王子候補の条件を確認しておく。まず、男性であること。そして、現在のイジェ様の年齢である二十七歳以下であり、マールマム様の希望により、すでに手のかからない年齢であること。このふたつのみだ。種族は何でもかまない」
「は、はあ……そうなんですか」

 イジェ様はご兄弟がいらっしゃらず、同性のマールマム様というパートナーと結ばれたため、養子を迎えるご意志があるという情報はあたしも知っていた。「現国王が男性、次期国王のわたくしが女性ですから、男の子がいいかしら」と微笑みながら語るイジェ様のニュース映像、何度も見ましたからね。そのとき確かに、血縁関係にはこだわらず、一般市民の中からも養子縁組の候補者を選出するということも報じられていたけども。

 でもまさか、選出方法がスカウトだなんて。少年または青年っていう年齢制限があるなんて。そして、あたしの人生が巻きこまれるなんて、一体誰が想像できました?! 自由すぎるぜ、ミグハルド王国!

「……マトリ・シュマイルズよ」
「はっ、はい、国王様」
「もちろん、余は無作為にお主を選んだわけではない。お主は国立の高等学校を入学から卒業まで平均的な学習レベルを割ることなく、問題なく卒業した人材だと聞いておる」

 思わず、噴き出しそうになる。

 おっしゃる通り、あたしはいわゆる「普通」です。
 これといった特技もなし。運動神経もなし。初等学校時代の成績は中の下。それでもあたしは区役所職員になりたかったから、可能性は無限! とばかりに、一番努力が報われそうな「学科を頑張る」という選択肢を取った。だけど……結果はいつも「そこそこ」。頑張ってもさらに上には上がいて、成績上位者になることはなかったんだ。実際、区役所の採用試験にも落ちたしさ。とにかく、凡人の名にふさわしく取り立てて語れることなんて何もない、平坦な学生生活だったわけで。
 そんな空しい経歴を、改めてみんなの前で言われても恥ずかしいんですけど……!

「そして、余がお主を選んだ一番の理由はこれである……大臣」
「はっ!」

 国王様に促され、大臣が懐から四つ折りの紙を取り出した。こほん、と咳払いをしてそれを広げる。

「えー……『もし、自分の種族を選べるとしたら、ミグハルド王国におけるすべての種族(人間、魔法使い、魔女、獣人、神族)の中で、どの種族を選べば最も幸福に生きられるか、理由を述べて答えよ』……国家公務員採用試験で出題されたこの問いに、きみはこう答えそうだな……『私の可能性は無限です。自分の命をまっとうしようという望みを持っているのならば、種族を問わずとも幸福を感じられると思います』……これはきみの回答に間違いないな。マトリ・シュマイルズ」
「は、はい……確かに」

 書いた、書きましたよ。忘れるわけがありません。
 だって、十一年前のあの日あの時、あのひとがあたしに言ってくれたんだもん。
「きみが望む限り、きみの可能性は無限なんだ」って。
 あのひとが、あたしだけにくれた大切な言葉。これまで、何度も耳の奥で復唱してきた言葉。そして――一番、胸が締め付けられる言葉。

 だってあたしの実力不足で、ちゃんと活かせてはいないから。口で言ったり思ったりするのは簡単なんだけど、実際そのとおり生きられるかってなると……情けないことに、あたしは未だに自分の無限の可能性を見いだせていない。小さい頃は、何の疑問もなく何でもできるって思えたのに……年々、自分のレベルを気付かされるというか。
 天国のあのひとにも、申しわけない限りなんですけどね……。

「この問いに、きみ以外の者は皆、人間と答えた。述べた理由はおのおの違っていたが、本心は皆、現在の国王が人間であるからそう答えたはずだ。国の採用試験に受かりたければ、国にとって理想的な答えを書く。それが試験の必勝法だからな。『人間』という選択肢を一番目に書いたのも、こちら側の誘導だ。そして思った通り、皆予想通りの答えを書くという結果になった。ただ、きみひとりを除いて……な」
「皆、いい意味でも悪い意味でも、国に従順すぎる。処世術を使いこなすのも大切だが、それだけでは国がよりよく成長せぬだろう。権力に媚びず、忌憚のない意見を述べられる者こそ、この国の人事を任せるのに相応しい人物ではないかと常々余は思っていた。そして、お主を選んだのだ」

 そ……そそそれで選んじゃったの……?!

 やややややばい。あたし完全に実力以上の人物に見られてる。
 あの回答、実はあのひとの受け売りなんですよねーって、打ち明けたほうがいいかな?!
 そうだよね、今ならまだ、謝れば許してもらえるんじゃ……

「どうした、マトリ・シュマイルズ。国王様直々の命に、なにか不服があるのか?」

 こちらが口を開く前に、視線の鋭い大臣の先制攻撃が放たれた。
 国王の言うことに不服なんてないだろう? 断ったらどうなるかわかってるな!
思いっきり、顔にそう書いてある。
 さすが、国王様の腹心。ミスター国王派。間違いない、逆らったらあたしは国を追われる……! それだけは、それだけは勘弁してください、お大臣様ぁ!

「い……いえ……」

 完全に目が泳いだまま、あたしはぎこちなく首を横にふった。
 勝ち誇った顔の大臣の向こうで、国王様が頷く。

「これまでの概念を持ち込まず、お主の感性で王子候補を見つけてきてくれ。頼んだぞ、マトリ・シュマイルズよ」
「はっ、ははーっ!」

 下げるしかない頭を下げつつ、あたしは声を出さずに身体いっぱいで叫んだ。

 んな、ばかな!
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