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第1章
レッツゴー スカウト!(1)
しおりを挟むミグハルド王国、フロンド区。
その中央部にそびえるミグハルド城本館に、「特別謁見室」なる部屋があるのをどれだけの国民が知っているだろうか。
高い天井いっぱいに描かれた天使の絵。でっかいシャンデリア。金色に輝く女神の像……華やかな色調でまとめられた恐ろしく広い室内は、まさに絢爛豪華。
そんな現実離れした謁見室で、今。玉座の前で跪き、声をふるわせる一般人がいる。
そう――あたしだ。
「おおお言葉ですが国王陛下。わわたくしはつい先日学校を卒業したような、若輩者でございます。そのような大役をわたくしなどにお任せいただいて、よよよろしいのでしょうか……?!」
「うむ、よいのだ。なんせ、この連中ときたら、ひとを見る目がないようなのでな……」
御髪と同じ黄金色の顎鬚を触りながら、国王様は碧眼をちらりと動かした。
視線の先には、大臣をはじめとした我が国の重役たちがずらりと並んでいる。
「先月、大臣を中心にチームを組ませ、首都であるここフロンドで王子候補者の発掘をさせたのだが……彼らがスカウトしてきたのは、経歴や家柄だけが重視され芯のない者ばかりだった。そこで今度は思い切って、新人にスカウトを任せてみようと余は思い立ったのだ……マトリ・シュマイルズよ。ぜひお主の若い感性で、王子候補を見つけてきてくれ」
んな、アホな!
国王様、思い切るにもほどがあります。今日が社会人一日目。十七歳。しかも何十人といる新人国家公務員の中から、よりによってなんでこのあたしを大抜擢?
なんで? なんでどうしてこんなことに――――?!
思い起こせば、今を遡ること数十分前。
あたしは今日から職場となった、ミグハルド城別館にあるブティックの倉庫にいた。
業者から送られてきた段ボールを運び、伝票をチェックして、また段ボールを運び……そんな作業を午前に4時間、午後4時間。
ようやく一日の仕事をこなし、悲鳴を上げる腰部を押さえながら倉庫を出る。
うう、腰がやばい。入荷の仕事って、思った以上に重労働。たいした体力もないあたしに続けられるかな……って言っても、やるしかないんだけど。無職になりかけたところを、かろうじて採用してもらえただけでもありがたいと思うべきか。
城内のお店だから、一応、国家公務員。立派な仕事。
でも……夢に描いていた仕事とは違う。
子供の頃から目指してたのは、区役所の「区民相談科」に勤めること。だけど、それは叶えられなかった。区役所の職員試験、落ちちゃったんだもん。
できればあたしも、人と関わって寄り添うような仕事がしたかったんだけどなぁ。
そう、憧れのあのひとみたいに……。
肩を落として別館を出たのは、夕方と夜の狭間だった。見上げた空は、暮れかかっている。
この先、ずっとこうして日々は過ぎていくのだろうか。
澱んだあたしを押し進めるも術もなく、毎日が淡々と……。
気持ちがしんみりとして、嘆息を漏らす。
事件が起こったのはその時だった。あたしはどこからか現れた兵士風の男性に腕を引っつかまれ、無理やりお城の本館の中へと連れていかれたのだ。
引きずられるようにきらびやかな広間を抜け、迷路のような廊下を延々と進み……ようやく足が止まったのが「特別謁見室」と書かれたプレートのかかる部屋の前だった。
兵士風男子が振り返り、あたしに告げる。
「マトリ・シュマイルズ。国王陛下がお呼びだ」
「……はぃ?」
あっけにとられるあたしを無視して、重厚というかド派手というか、とにかく世界で一番お値段が張りそうなでっかいドアを彼の手が押し開ける。そこに広がった光景に、あたしは凍りついた。
大型コンサートホール並の広い部屋に、なんと国の重役という重役、重役オールスターズが勢揃い。まずは、センター。部屋の奥の玉座には、王冠にマントという正装姿の国王様。毛先だけくるっと外に跳ねた金髪のボブヘアー、細い目、恰幅のいいボディ。うわあ、テレビで見たまんまだ。国王様の横には、メガネの長身紳士。確か、このひと大臣だっけ。さらに、国王様を中心にハの字の形に並ぶ、ありとあらゆる偉いおじさん、偉いおばさん、偉いおじいさん……メンバーざっと二十人強。
怖い。怖すぎる。
一般人では滅多に会えない偉いひとたちが、なぜかコンプリートされている。
回れ右して引き返そうとするところを警備隊員に阻止され、ガッチガチの身体でふっかふかの絨毯を踏み締めながら、国王様の前へと連れていかれる一般人。
そして突然国王様から告げられた王子候補発掘の命――――。
……うーん、ふり返ってみても、やっぱりワケが分からない。
確かに、人と関わる、役に立てる仕事がしてみたいとは思いましたよ。
思いましたけども、こんな国家規模の重要任務なんて、望んだ覚えはないんですど?!
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