王子発掘プロジェクト

urada shuro

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第2章

国王様の隠し子(5)

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「……おじいさんがすまなかったね。初対面のお客さんが来ると、あのひとは毎回ああなんだよ。いつものことだから、どうか気にしないでおくれ」
「は、はあ……」

 ほ、ほんとに? ほんとに大丈夫?

「わたしら夫婦には血の繋がった子供ができなかったもんだからね。おじいさんはナナシを溺愛してしまって、困ったもんだよ」
「……とっても大切に思ってるんですね」
「思いあまってふりきっとる、といったところだろうね」

 溜め息を吐き、おばあさんはソファに腰掛ける。ナナシもベッドルームから帰還し、あたしの隣に立った。

「……それで、マトリさん。さっき言ってた、スカウト……とは、いったいどういうことだい? 話を聞かせておくれ」
「は、はい。実はあたし、国王様から命を受けて王子様候補を見つける旅をしているんです。そこでナナシをぜひ、王子様候補としてスカウトしたいと思いまして」

 あたしは名刺をバッグから取り出し、おばあさんに手渡した。ここにいたるまでの経緯を、ナナシにもわかるような簡単な言葉を使ってふたりに説明をする。おばあさんは首に下げていたメガネをかけ、頷きながらじっくりと名刺に見入っていた。

「なーんだ、マトリはじいちゃんのいってた悪いやつじゃなかったのか。よかった!」
「う、うん。あたしもわかってもらえてよかったよ」

 おばあさんはメガネを外し、あたしの目をじっと見る。

「……でも、なんだってナナシを?」
「ナナシは明るくて心の優しいひとです。彼が王子様になって、のちのち王様になったとき、この国は楽しい国になると思って」
「えーっ。おれ、王様よりラジーがいいな。うまいもん! 明日もラジーの収穫があるし、それ終わったら種まきがあるし、そのあとは苗の世話もあるし、とっくに毎日楽しいよ」

 こ、断られた……!

 わたしにはわたしの生活がありますからっていう、真っ当な理由で断られた!

「う……うーん、そっか。そうだよね……急に言われても困るよね」

 押せない。あたしも、無理やり連れて行くのは本意じゃないし……。

 はあ、やっぱり、そうそう上手くいかないよね。可能性は無限! 他にもいいひとはいるよ! ってことで、身を引くべきなのかな。助けてもらえただけでも、幸運だったんだし……。

「……マトリさんや。あんたの話は本当に、本当の話なのかね?」
「は、はいおばあさま。もちろん本当です。国王様からお話をいただいたときは、あたしも随分耳を疑いましたけど、本当なんです。信じてください」
「そうかい……じゃあ、連れて行ってもらいな、ナナシ」

 あたしとナナシの目が、大きく見開く。

「えーっ?! ばあちゃん、なんで? おれがラジーの世話しないと枯れちゃうぞ」

 おばあさんは「ラジーは、わたしとおじいさんにまかせてくれればいいんだよ」と目を細め、ナナシを見つめてゆっくりと話しはじめた。

「いいかい、ナナシ。おまえはまだ若いんだ。ほかの世界を知らずに、このまま田舎で毎日野菜を作るだけでは、もったいないだろう。せっかくこんなに面白おかしい話が降ってきたんだ。いっちょ乗ってみるのが、青春というやつだよ」

 おばあさま、なかなか思い切りのいい精神の持ち主で。
 ナナシは眉を寄せた。

「せいしゅんってなに?」
「今だよ。ナナシの、今生きているこの時だ」
「へー、今かぁ。でもばあちゃん、おれがよその子になったら、じいちゃんが怒るよ」

 老女の皺の刻まれた手のひらが、少年の張りのあるを手を包む。

「ナナシは誰がなんて言おうと、うちの子だよ。たとえ離れて暮らす日がきたって、ナナシはおじいさんとばあちゃんの子さ。でも、おじいさんもばあちゃんも、どう頑張って生きたとしてもあと二十年がいいとこだ。いつかは必ず、ナナシがひとりになる日がくるんだよ。その時のナナシが幸せであるように、いろいろな道を探してみるのもいいんじゃないかね」

 ナナシはしばらく黙って斜め上を見たあと、再び育ての母に視線を戻した。

「よくわかんねえけど……ばあちゃんは、おれが王様になったらうれしいの?」
「うれしいとも。将来ナナシが国王として立派なった姿を見るためなら、ばあちゃんもあと三十年は生きられるってもんだ」
「えーっ、そうなんだ! ばあちゃんが長生きするなら、おれ王様になってもいいな」

 緩やかに微笑むナナシの横顔は、とても温かだった。
 なんて素敵な親子なんだろう。おばあさんのおかげで、あたしの仕事も大きく前進……と思いきや、ベッドルームの扉が開く。

「わしは許さんぞ!」

 ……うわあ、そうだ。おじいさんがいたんだった。怒りで顔を紅潮させて睨みつけてくるこのひとを、どう説得したらいいのやら。
 頭を抱えるあたしの横を、おばあさんが静かに通りすぎた。立ち止ったのは、おじいさんの真正面だ。

「おじいさん……子供の可能性を奪い取るなんて、親失格ですよ」

 刺すような冷たい目で言い放つ。それを受けたおじいさんは一気に青ざめ、凍りついた。やがてよろよろと二、三歩後退すると、膝から崩れ落ちる。ナナシが慌てて駆け寄った。

「わーっ! じいちゃん、なに泣いてんだよ!?」
「うっ……うっ……わ……わかっとる。わ、わしだってっ……いつかナナシが大人になる日が来ることは、覚悟しておったんじゃっ……」

 おばあさんは、四つん這いで号泣するおじいさんの背中を優しくさすった。

「じゃあ、応援してあげられますね?」
「うっ……でもそんなことしたら、ナナシはこの家を出ッ……わしの息子なのにっ……」
「それでいいんですよ。大事な息子を社会に送り出すのも、親の役目です。この家には、わたしがいるじゃありませんか」
「ううっ……ばあさん……」
「ほら、立って。父親なら、ナナシの背中を押してあげてください」
「うっ、ううーっ……う……うん……」

 おばあさんに支えられて、おじいさんが立ち上がる。おじいさんはシャツの袖でごしごしと涙を拭い、深呼吸をしてから、ナナシを力いっぱい抱きしめた。

「……行け! 行くのじゃナナシ! 世界がお前を待っておる……!」
「え? じいちゃん、いいの? んーじゃあ、行ってこよっかな」

 ナナシを解放したおじいさんは、今度はあたしの手を握る。

「マトリとやら! ナナシをどうか、どうか立派な王子にしておくれ! そして三日に一度はわしらとナナシに面会の機会を絶対に設けるんじゃ! 頼んだぞ!」
「はっ、はいっ。あの、ナナシが王子様に決定すれば、の話ですけど……できるだけご家族のご希望に沿えられるように、あたしも頑張って上の者に掛け合います!」

 えっと……これって、スカウトできたってことでいいのかな?
 やった! やりましたよ、エミルドさん! あたしの可能性、ちょっと見えたかも……!

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