34 / 52
第7章
レオッカとナナシと(3)
しおりを挟む
ナナシがひと差し指を立てる。同時に、狙撃手が引き金を引こうとする。その瞬間。
あたしとナナシの間に飛び出してきたレオッカが、伸ばした腕で真一文字に空を切り、
「――ルフ・リフィトス」
どこかで聞き覚えがある……いや、見覚え? 言い覚え? とにかく、覚えのある言葉を発した。あっという間に、屈強な警備隊員たちがばたばたと倒れていく。
こ、これって――……?!
狼狽えるあたしに対し、レオッカは落ち着いていた。腰に手を当て、首を傾けて息を吐く。
「うるさい子たちは、お昼寝の時間だよ」
「え……お、お昼寝って……みんな、眠ってるの? もしかして、魔法……?!」
少年はこちらを向き、はにかんで肩をすくめる。
立っているのは、あたしとレオッカ、ナナシだけという構図になった。
……そうだ。さっきの言葉は、眠り魔法の呪文。エミルドさんの魔法書にも載っていた、目の前のひとを眠らせる魔法だ。あたしも何度も口にしたこともある。一度も成功しなかったけど。
「……ありがとう、レオッカ。もう、どうなるかと」
あたしの声に、ナナシがふり返った。
「……マトリ! レオッカも……何だよ、今の。おまえたちがやったのか?」
レオッカが一歩前に出る。
「僕だよ」
「……レオッカ……おまえも魔法使いだったのか」
「うん」
ふたりはしばらく無言で視線を合わせたまま、瞼すら動かさなかった。お互い、真顔だ。
なんというか、「入ってはいけない空気」というものを肌で感じる。あたしは黙って、固唾を飲んだ。
「……ふーん。別に、どーでもいいけど」
ナナシはもうひとりの魔法使いから視線を外し、あくびをしながらドアに向かって歩を進めた。あたしは慌ててナナシに駆け寄る。
「待って! 国王様になにするつもり?!」
「ぶっとばして、オレが国王になる」
王座を狙う王子候補は、口をへの字に曲げて胸を張る。
な、なんてこと……! あの穏やかだったナナシの口から、そんな粗暴な言葉が出るなんて、そんな思想を持っているなんて、信じたくない。
ふらつくあたしの耳に、ひゅ、と風を切る音が聞こえた。何かがナナシの手に当たり、その拍子に彼が掴んでいた大鎌を落とす。床には、黄緑色の小さなボールが転がっていた。どうやら、これがナナシの手に当たったらしい。投げたのは――
「そんなことしたって、真の王様にはなれないよ」
――ニナファルドさんの血を引く彼だ。顎を上げ、楽しげでサディスティックな笑みを漏らしている。
ナナシは舌打ちをして、レオッカを睨みつけた。
「……なんだよ、おまえ。オレの邪魔すんのかよ」
「ま、僕も一応、王子候補だからね」
ナナシはエミルドさんの魔法書に載っている初級魔法で、直径十センチほどのボールを大量に出現させた。鮮やかなピンク色のボールをひとつ手に取り、三メートルほど離れたレオッカ目がけて軽く投げる。レオッカは右手をかざし、バリアを作ってそれを跳ね退けた。
次々とボール投げるナナシの球速は上がっていく。それをレオッカが全て弾いていく。
「待って待ってやめてっ! あたしたちはケンカしに来たんじゃないんだからっ。ナナシと話がしたいだけなんだってば!」
腕にしがみくあたしを、ナナシは思い切り眉をひそめて見下ろした。
「……なんだよ。なんの話?」
「そ……その、王様のこととか、あなたのこと、いろんな話。聞いてくれる?」
お願い……! という祈りを込めて、上目でじっと見つめる。
ナナシは目を細め、しばらく黙った。やがて、ふう、と息を吐く。
「……いいけど。そのかわり、条件がある」
そう言って、人差し指を立てて、くるりとスイングさせる。
目の前に現れたのは、四角い建物だった。街の交差点によくある、一日中営業していてなんでも売ってる便利なお店ほどの大きさだ。木造で、白い枠の窓がいくつかある。窓に掛けられた薄いグリーンのカーテンが閉まっていて、中は見えない。
小さいとはいえ室内に家が建つなんて、ここがお城の廊下だから成せたことだろう。
「マトリとふたりならいいよ。この中で、ふたりで話そう」
ナナシの言葉に、レオッカとあたしは顔を見合わせた。
あたしとナナシの間に飛び出してきたレオッカが、伸ばした腕で真一文字に空を切り、
「――ルフ・リフィトス」
どこかで聞き覚えがある……いや、見覚え? 言い覚え? とにかく、覚えのある言葉を発した。あっという間に、屈強な警備隊員たちがばたばたと倒れていく。
こ、これって――……?!
狼狽えるあたしに対し、レオッカは落ち着いていた。腰に手を当て、首を傾けて息を吐く。
「うるさい子たちは、お昼寝の時間だよ」
「え……お、お昼寝って……みんな、眠ってるの? もしかして、魔法……?!」
少年はこちらを向き、はにかんで肩をすくめる。
立っているのは、あたしとレオッカ、ナナシだけという構図になった。
……そうだ。さっきの言葉は、眠り魔法の呪文。エミルドさんの魔法書にも載っていた、目の前のひとを眠らせる魔法だ。あたしも何度も口にしたこともある。一度も成功しなかったけど。
「……ありがとう、レオッカ。もう、どうなるかと」
あたしの声に、ナナシがふり返った。
「……マトリ! レオッカも……何だよ、今の。おまえたちがやったのか?」
レオッカが一歩前に出る。
「僕だよ」
「……レオッカ……おまえも魔法使いだったのか」
「うん」
ふたりはしばらく無言で視線を合わせたまま、瞼すら動かさなかった。お互い、真顔だ。
なんというか、「入ってはいけない空気」というものを肌で感じる。あたしは黙って、固唾を飲んだ。
「……ふーん。別に、どーでもいいけど」
ナナシはもうひとりの魔法使いから視線を外し、あくびをしながらドアに向かって歩を進めた。あたしは慌ててナナシに駆け寄る。
「待って! 国王様になにするつもり?!」
「ぶっとばして、オレが国王になる」
王座を狙う王子候補は、口をへの字に曲げて胸を張る。
な、なんてこと……! あの穏やかだったナナシの口から、そんな粗暴な言葉が出るなんて、そんな思想を持っているなんて、信じたくない。
ふらつくあたしの耳に、ひゅ、と風を切る音が聞こえた。何かがナナシの手に当たり、その拍子に彼が掴んでいた大鎌を落とす。床には、黄緑色の小さなボールが転がっていた。どうやら、これがナナシの手に当たったらしい。投げたのは――
「そんなことしたって、真の王様にはなれないよ」
――ニナファルドさんの血を引く彼だ。顎を上げ、楽しげでサディスティックな笑みを漏らしている。
ナナシは舌打ちをして、レオッカを睨みつけた。
「……なんだよ、おまえ。オレの邪魔すんのかよ」
「ま、僕も一応、王子候補だからね」
ナナシはエミルドさんの魔法書に載っている初級魔法で、直径十センチほどのボールを大量に出現させた。鮮やかなピンク色のボールをひとつ手に取り、三メートルほど離れたレオッカ目がけて軽く投げる。レオッカは右手をかざし、バリアを作ってそれを跳ね退けた。
次々とボール投げるナナシの球速は上がっていく。それをレオッカが全て弾いていく。
「待って待ってやめてっ! あたしたちはケンカしに来たんじゃないんだからっ。ナナシと話がしたいだけなんだってば!」
腕にしがみくあたしを、ナナシは思い切り眉をひそめて見下ろした。
「……なんだよ。なんの話?」
「そ……その、王様のこととか、あなたのこと、いろんな話。聞いてくれる?」
お願い……! という祈りを込めて、上目でじっと見つめる。
ナナシは目を細め、しばらく黙った。やがて、ふう、と息を吐く。
「……いいけど。そのかわり、条件がある」
そう言って、人差し指を立てて、くるりとスイングさせる。
目の前に現れたのは、四角い建物だった。街の交差点によくある、一日中営業していてなんでも売ってる便利なお店ほどの大きさだ。木造で、白い枠の窓がいくつかある。窓に掛けられた薄いグリーンのカーテンが閉まっていて、中は見えない。
小さいとはいえ室内に家が建つなんて、ここがお城の廊下だから成せたことだろう。
「マトリとふたりならいいよ。この中で、ふたりで話そう」
ナナシの言葉に、レオッカとあたしは顔を見合わせた。
0
あなたにおすすめの小説
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる