夕餉添えの贄

第弐拾八話

　瑞光が約束を守らない事なんか最初から分かっていた。だけどあんな速攻で気絶させて来るとは思ってなかった。だけどある意味都合が良いかもしれない。
　随分と冷たい床を歩きながら俺は氷柱を探した。
　一つの牢屋の前に来ると、隅っこで小さく震える氷柱を見付けた。

「氷柱!!」
「……………暁光さん?」

　すぐに鉄製の格子を炎で溶かして壊し、中に入って氷柱を抱きしめた。余程怖い事があったんだろう、氷柱は震えながら俺にしがみ付いた。

「ごめんな氷柱、俺のせいで。」
「暁光さんは悪くないです。」

　あぁそうだろうな、氷柱はそう言ってくれるだろう。だけど俺はそうと思えない。
　氷柱を降ろすと、俺は氷柱を格子の方へと引っ張った。

「暁光さん?」
「お前は逃げろ。」
「え?」

　お前が此処にいる意味は何も無い。そもそも此処にいる必要なんて無いんだよ。氷柱は雀達と一緒に外で自由に暮らしていて良いんだよ。
　俺は氷柱を押して牢屋から出そうとすると、氷柱は俺の手を避けた。

「氷柱?」
「私は、私は逃げません。」
「なっ!!!」

　お前何でそんな事言い出すんだよ。逃げ出したくなる要素しか無かっただろ。それなのに何で。

「何で………………」
「だって、それって暁光さんは此処に居続ける事になりますよね?そんなの、私は嫌です。」
「氷柱、お前何言って…………………」
「此処は怖いです!!!怖くて仕方が無いです!!!」
「なら何で!!!」
「でもそんな所で暁光さんがずっと辛い思いをする方が嫌です!!!」

　目尻に涙を浮かべながら、氷柱はそう叫んだ。その表情の奥に、確固たる意志があると、俺に真っ直ぐに突き付けて来た。