朝餉添えの贄

琴里 美海

文字の大きさ
19 / 39

第壱拾九話

しおりを挟む
 鴉さんに連れて来られた場所は私が元々住んでいたあの村だった。だけど私が最後に見た時と比べて相当荒れている。

「あの鴉さん、何で此処に連れて来たんですか?」
「先程も言いましたが貴方にお見せしたい物があるからですよ。」

 正直今すぐにでも帰りたい所ですが、帰ろうにも自分一人の力じゃ帰れない上に、暁光さんの家が何処にあるのか分からないから、結局の所やっぱり一人じゃ帰れない。
 何となく村の様子が只ならぬ気配を感じて、鴉さんが私を見ていない隙にすぐに逃げ出した。
 鴉さんから逃げ出したは良い物の、一体何処に行けば良いのか分からない。

「ぎょ、暁光さん。」

 名前を呼んだら来てくれる様な気がしていたけれど、流石に来てはくれなかった。

「氷柱さん、何処ですか?」
「!!」

 結構な距離を走ったと思ったのに、すぐ近くから鴉さんの声が聞こえた。
 私は慌てて茂みに飛び込んで息を殺した。何だろう、鴉さんに見付かっちゃいけない気がする。
 音を立てない様にそっとその場を移動した。
 特に何も考えずに移動した先はあの村だった。

「あ、どうしよう……………」

 この村には居たくないけど鴉さんの所に戻るにはちょっと……………
 そんな事を考えている時だった。

「お前。」
「!!」

 村の人と目が合った。

「あ…………」

 村にいた人達の視線が一気に私に向いた。私はと言うとその場から動く事も出来ず、唯立ち尽くしていた。

「塵芥、何故此処に居る?」
「お前、生贄に成りそこなったのか?」
「あ、えっと……………」

 怖い。
 周りの人達の目が怖い。
 皆が皆私に対して怒りや恨みの視線を向けて来る。私が生贄に成らなかったから、神様に食べてもらえなかったから。

「お前のせいで村がこんな事に……………」

「お前のせいだ。」

「そもそも災厄が始まったのはお前が生まれてからだった。」

「お前さえ生まれて来なければ。」

「お前さえ。」

「お前何か生まれて来なければ良かったのに。」

「!!!」

 何もそこまで言わなくて良いじゃないですか。
 そう言いたかったのに私はそれを言う事が出来なかった。私に出来た事はその場から逃げ出す事だった。
 村の人達はすぐに私の事を追い掛けて来たけど、私はいろんな所に隠れたりして村の人達からすぐに離れる事が出来た。
 茂みの中に隠れて私は膝を抱えて座っていた。

 私が悪いの?

 私がすぐに暁光さんの所から逃げ出さなかったから?だから村が酷い事になったの?

 全部、全部私が悪いの?

「そうです、貴方が悪いんですよ。」

 何時の間にか後ろに立っていた鴉さんが私にそう言って、そっと、優しく肩に手を置いた。

「あぁ何と可哀想な方。誰にもその存在を求められない、悲しい方。」
「止めてください!!」

 すぐに耳を塞いだけど、鴉さんは私の手を掴んで耳から無理矢理手を離した。

「ですが安心して下さい、私は貴方を愛して差し上げますよ。」
「……………本当ですか?」
「えぇ本当です。私は貴方を愛して差し上げます。」

 そう言いながら鴉さんは私の手を離して肩に手を置いた。そしてその手は少しずつ私の首に近付いて行った。

「永遠に、ね。」

 首に手が触れた時、何かカチリと音がした。
 その音が聞こえた直後私は自分の意識を失った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...