1 / 42
第壱話
しおりを挟む
森の中には色々ある。冬はちょいと厳しいかもしれないが、春から秋までは食い物だって、果物や山菜だとか、沢山ある。川に入りゃ魚も捕れる。
だがな、人間ってのは自然の釣り合いだとかを無視して色々取っていくんだ。あたいの友達だって連れていきやがった。
あたいは人間が大嫌いだ。
だけどその時目の前に居た人間は、別に襲おうとかそんな風には思わなかった。
夜に火を持った人間達が森の中に入って来た。何をしでかすのかと思ったが、どうやら目的はあたい等じゃなかったみたいだ。その時空に飛んでいた、あの蛇みたいな大きな変な奴が目的だったみたいだ。
人間達は空にいるその蛇に向けて矢を放ったり、火や石を投げたりしていた。
結構時間が経った辺りで、蛇が山の頂上の方に落ちて行った。それを見てあたいはすぐに走って行った。動物だったら仲間だから助けないといけない。人間と比べてあたいは足が速いから、人間達より先に目的の場所に着いた。
空に居た時から既に大きいと分かるくらいの大きさの奴が落ちたんだ。当たり前だが木々はなぎ倒され、地面は抉れていた。だけど地面に倒れていたのは蛇でもなんでもなく、明らかに人間の見た目をした奴だった。
他の仲間達も追い付くと、母さんが一人でそいつに近付いて行った。
(母さん危ないから近付くな!!!)
あたいがそう言うと母さんはあたいの方を見た。
(大丈夫、彼は人間じゃない。)
そう言ってそいつの服を咥えて引き摺って来た。
母さんはこの森の長だ。少し前までは父さんが長をやっていたが、人間に殺された。それから別の雄が長をやろうとしたが、母さんの方が強かったから、母さんが長になった。だから他の仲間達も母さんが言った事を信じて反論しない。
母さんはそいつをそのまま寝床に連れて行った。そしてすぐに適当に食い物を探しに行くと行って、あたいを残してそのまま寝床から出て言った。
正直する事が無いから、あたいは暫くそいつを見ている事にした。母さんは人間じゃないって言ってたけど、それはこの変な感じがするのと何か関係があんのかな。
「んん…………」
小さく呻き声を上げてそいつが目を覚ますと、あたいはすぐにそいつから離れた。
そいつは暫く寝床の中を見回してからあたいを見た。何をしてくるか分からないから、取り敢えず唸り声で威嚇をした。
「えっと、取り敢えずその、誰か其処に居るの?」
こいつは一体何を言っているんだろうか。あたいはすぐ目の前にいるのに、しかも威嚇をしているのに、何をそんな分かり切った質問をしてくるんだろうか。
そいつはまた辺りを見回した。
「いや、実は目に攻撃が当たってしまって、そのせいで今見えないんだ。もう少ししたら見える様になるとは思うんだけど。」
駄目だ、こいつが言っている事が全く理解出来ない。母さんが言っていた、いや、母さんだけじゃなくて森の奴等皆が言っていた、それに言われなくても何となく分かる。怪我をしたらそう簡単には治らない。目が見えなくなったら一生見えないままだ。それをこいつは何て言った。もう少ししたら見える様になるだと。
そいつは何かに気が付いた様に少し顔を上げた。
「この、此処の場所の気配、もしかして早瀬?」
(誰だそいつ。)
「早瀬は私の友人なんだ。」
(!!?)
何でこいつはあたいの考えている事が分かるんだ。
「あぁ申し訳無い、驚かせてしまっただろうか。いやまぁ恥ずかしい話、神通力が使えるもので、他人の考えている事が分かってしまうんだ。」
(とんでもない奴だな。)
「自分でもそう思うよ。」
(だけど、そのお陰で私の相談に乗ってくれたりもするの。)
声が聞こえて振り返ると、母さんが食い物を持って帰って来ていた。
母さんが寝床の中に入って来ると、母さんの手伝いをしていたのだろう、他の奴等も食い物を持って寝床に入って来て、そいつのすぐ傍に置いた。
(ありがとう貴方達。)
一言母さんが礼を言うと、他の奴等は帰って行った。
「優しい落ち着いた声、うん、間違い無く早瀬だ。」
(久しぶりね恵風。貴方は相変わらず、姿形が変わらないみたいだけれど。)
早瀬ってのは母さんの事だったのか。
母さんはあたいの前に出てくると、食い物をそいつの目の前まで持って行った。
(食べてちょうだい、皆が持って来るのを手伝ってくれたの。)
「そうか、ありがとう。」
本当に見えていないらしく、目の前にあるのに暫く手を動かして探していた。
やっと食い物に手が当たると、優しく拾い上げて頭を下げた。
「頂きます。」
誠心誠意、本当に心を込めてそう言った。そう感じられるくらいの言葉の重みが確かにあった。
そいつは、何だっけ、恵風だとか呼ばれてた奴は、頭を上げてから食い物を口に運んで、ゆっくり、何度も噛んでから飲み込んだ。それら目を閉じて大きく深呼吸をした。まるで今食べた物を一欠片も残さずに取り込む様に。
恵風がゆっくりと目を開くと、母さんを見て微笑んだ。
「やっと見えた。」
そう言ってそいつは母さんに手を伸ばして毛に触れた。
「随分と歳を取ったみたいだね。」
(当たり前でしょう、最後に会ったのは何年前だとっているの。)
「そうだったね、でも私と君達とでは時間の流れが違うから。まぁ如何してもその事を忘れてしまうんだ。」
何だか母さんが嬉しそうだ。父さんが死んでから、森の長をやるようになってからずっと気を張り詰めた様な感じだったから、あたいは少しだけ嬉しいよ。
恵風はあたいを見ると、凄まじく驚いた様に目を見開いた。
「え、君………」
一体何を驚いてんだこいつは。とそう思っていると、母さんは恵風を連れて、一度外へ出て行った。
だがな、人間ってのは自然の釣り合いだとかを無視して色々取っていくんだ。あたいの友達だって連れていきやがった。
あたいは人間が大嫌いだ。
だけどその時目の前に居た人間は、別に襲おうとかそんな風には思わなかった。
夜に火を持った人間達が森の中に入って来た。何をしでかすのかと思ったが、どうやら目的はあたい等じゃなかったみたいだ。その時空に飛んでいた、あの蛇みたいな大きな変な奴が目的だったみたいだ。
人間達は空にいるその蛇に向けて矢を放ったり、火や石を投げたりしていた。
結構時間が経った辺りで、蛇が山の頂上の方に落ちて行った。それを見てあたいはすぐに走って行った。動物だったら仲間だから助けないといけない。人間と比べてあたいは足が速いから、人間達より先に目的の場所に着いた。
空に居た時から既に大きいと分かるくらいの大きさの奴が落ちたんだ。当たり前だが木々はなぎ倒され、地面は抉れていた。だけど地面に倒れていたのは蛇でもなんでもなく、明らかに人間の見た目をした奴だった。
他の仲間達も追い付くと、母さんが一人でそいつに近付いて行った。
(母さん危ないから近付くな!!!)
あたいがそう言うと母さんはあたいの方を見た。
(大丈夫、彼は人間じゃない。)
そう言ってそいつの服を咥えて引き摺って来た。
母さんはこの森の長だ。少し前までは父さんが長をやっていたが、人間に殺された。それから別の雄が長をやろうとしたが、母さんの方が強かったから、母さんが長になった。だから他の仲間達も母さんが言った事を信じて反論しない。
母さんはそいつをそのまま寝床に連れて行った。そしてすぐに適当に食い物を探しに行くと行って、あたいを残してそのまま寝床から出て言った。
正直する事が無いから、あたいは暫くそいつを見ている事にした。母さんは人間じゃないって言ってたけど、それはこの変な感じがするのと何か関係があんのかな。
「んん…………」
小さく呻き声を上げてそいつが目を覚ますと、あたいはすぐにそいつから離れた。
そいつは暫く寝床の中を見回してからあたいを見た。何をしてくるか分からないから、取り敢えず唸り声で威嚇をした。
「えっと、取り敢えずその、誰か其処に居るの?」
こいつは一体何を言っているんだろうか。あたいはすぐ目の前にいるのに、しかも威嚇をしているのに、何をそんな分かり切った質問をしてくるんだろうか。
そいつはまた辺りを見回した。
「いや、実は目に攻撃が当たってしまって、そのせいで今見えないんだ。もう少ししたら見える様になるとは思うんだけど。」
駄目だ、こいつが言っている事が全く理解出来ない。母さんが言っていた、いや、母さんだけじゃなくて森の奴等皆が言っていた、それに言われなくても何となく分かる。怪我をしたらそう簡単には治らない。目が見えなくなったら一生見えないままだ。それをこいつは何て言った。もう少ししたら見える様になるだと。
そいつは何かに気が付いた様に少し顔を上げた。
「この、此処の場所の気配、もしかして早瀬?」
(誰だそいつ。)
「早瀬は私の友人なんだ。」
(!!?)
何でこいつはあたいの考えている事が分かるんだ。
「あぁ申し訳無い、驚かせてしまっただろうか。いやまぁ恥ずかしい話、神通力が使えるもので、他人の考えている事が分かってしまうんだ。」
(とんでもない奴だな。)
「自分でもそう思うよ。」
(だけど、そのお陰で私の相談に乗ってくれたりもするの。)
声が聞こえて振り返ると、母さんが食い物を持って帰って来ていた。
母さんが寝床の中に入って来ると、母さんの手伝いをしていたのだろう、他の奴等も食い物を持って寝床に入って来て、そいつのすぐ傍に置いた。
(ありがとう貴方達。)
一言母さんが礼を言うと、他の奴等は帰って行った。
「優しい落ち着いた声、うん、間違い無く早瀬だ。」
(久しぶりね恵風。貴方は相変わらず、姿形が変わらないみたいだけれど。)
早瀬ってのは母さんの事だったのか。
母さんはあたいの前に出てくると、食い物をそいつの目の前まで持って行った。
(食べてちょうだい、皆が持って来るのを手伝ってくれたの。)
「そうか、ありがとう。」
本当に見えていないらしく、目の前にあるのに暫く手を動かして探していた。
やっと食い物に手が当たると、優しく拾い上げて頭を下げた。
「頂きます。」
誠心誠意、本当に心を込めてそう言った。そう感じられるくらいの言葉の重みが確かにあった。
そいつは、何だっけ、恵風だとか呼ばれてた奴は、頭を上げてから食い物を口に運んで、ゆっくり、何度も噛んでから飲み込んだ。それら目を閉じて大きく深呼吸をした。まるで今食べた物を一欠片も残さずに取り込む様に。
恵風がゆっくりと目を開くと、母さんを見て微笑んだ。
「やっと見えた。」
そう言ってそいつは母さんに手を伸ばして毛に触れた。
「随分と歳を取ったみたいだね。」
(当たり前でしょう、最後に会ったのは何年前だとっているの。)
「そうだったね、でも私と君達とでは時間の流れが違うから。まぁ如何してもその事を忘れてしまうんだ。」
何だか母さんが嬉しそうだ。父さんが死んでから、森の長をやるようになってからずっと気を張り詰めた様な感じだったから、あたいは少しだけ嬉しいよ。
恵風はあたいを見ると、凄まじく驚いた様に目を見開いた。
「え、君………」
一体何を驚いてんだこいつは。とそう思っていると、母さんは恵風を連れて、一度外へ出て行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる