炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第壱拾壱話

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 客間に通されてから暫く、さて炎陽ちゃんはそろそろお風呂から出ただろうか。だとしたら多分、色葉ちゃんが彼女の髪を解かしてくれているだろう。あれ程に乱れた髪だが、恐らくしっかりと手入れをしていたら、それはもう見違える程に綺麗な髪になっているだろう。それを見るのが少し楽しみだ。
 そんな事を考えていると、廊下の方から随分と騒がしい足音が聞こえてくる。
 さて一体何があったのやらと襖を開けると、目の前を炎陽ちゃんが走り去って行った。

「……………え?」

 うん、少し待って。えっと、如何して炎陽ちゃんは走ってるの?と言うか色葉ちゃんは如何したの?え、待って、本当に何があったの?
 と、困惑している間に、随分と疲れた様子の色葉ちゃんが走って来た。

「あ、恵風………」
「色葉ちゃん、一体何があったの?」
「えっとね、髪の毛解かして、こんな風になったよって鏡見せてあげて、鏡が何か説明したら、何か急に走り出して…………」
「なっ!!!」

 私が驚いた事に対し、色葉ちゃんは首を傾げている。
 これは仕方が無い事だ。何故なら色葉ちゃんは炎陽ちゃんが人間嫌いだと言う事を、尚且つ自分の事を人間だと思っていない事を知らないのだから。いやしかし、少し考えれば出てくるであろう鏡の事を完全に座れていた私に非がある。
 兎に角今は炎陽ちゃんを追い掛けないと。

「色葉ちゃん、申し訳無いけど炎陽ちゃんを探すのを手伝ってくれないかい?見付けたらこの部屋に、最悪見付けられなくても私が見付けてるかもしれないから、どちらにしてもこの部屋に来てほしい。」
「分かった。」

 私はすぐに走って炎陽ちゃんを探した。
 この薄暮の館は蝋燭が一定間隔で置いてある以外に照明が無い。だから所々暗い。と言う事は、あの完全に暗闇に同化してしまいそうな炎陽ちゃんが暗い所に隠れてしまったら、下手をしたら私はあの子をずっと見付けられない。それだけは避けたい。

「炎陽ちゃん!!!」

 私は彼女の名前を呼びながら必死に走り回って探した。
 暫く探しても見付からない。一体何処に行ったのかと頭を抱えていると、ふと障子が目に入った。そう言えば、確か此処の障子は…………

「目目連。」

 私が声を掛けると、障子に無数の目が出現した。
 私は障子に近付くとすぐに問い掛けた。

「髪も肌も真っ黒い女の子を見なかったかい?」

 その問い掛けに目達は色々な方向を向いた。どうやら話しているらしい。そして暫くして一斉に私の方を見た。

(別の場所の仲間が、真っ黒い人間が外に飛び出して行ったのを見た様だぞ。)
「外に!!?」

 参ったな、この館でも十分広いのに、外に出たとなると相当骨が折れる。それに外には人喰い妖怪がうじゃうじゃいる。早く見付けないと大変な事になりかねない。

「分かったありがとう。」

 私は一度色葉ちゃんと待ち合わせをした客間に戻る事にした。
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