炎陽の下吹く恵風

琴里 美海

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第弐拾七話

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 いやまさか、炎陽ちゃんからそんな事を言われるとは思っていなかった。一体彼女の中で何があったのかは私には分からないけれど、そうだね、ちゃんと言葉を教えてあげよう。
 だけどそうだなぁ、私一人じゃ時間が掛かってしまうだろうし。

「と言う訳で、本当にありがとうね。」
「いえ!!手前の様な者がお役に立てるとは思ってもみませんでした!!!心より感謝いたします!!!」

 そう言って相変わらずの勢いで頭を下げて、床にぶつけて、また頭を上げた。
 炎陽ちゃんは私の後ろで環ちゃんに威嚇をしている。いい加減慣れてくれないかなぁ。
 さて、今回如何して環ちゃんに手伝いを頼んだのかと言うと、正直この子は一番炎陽ちゃんに対して真剣に物事を教えてくれると思ったからなんだけど、問題は炎陽ちゃんの方かな。
 環ちゃんは部屋に横長の座卓と、それから紙、そして墨と筆を持って来て、それ等をてきぱきと並べて、炎陽ちゃんの向かいに座った。

「では森神様!!!まずは何からお教えいたしましょうか!!!」

 とても楽しそうな環ちゃんとは正反対に、炎陽ちゃんは酷く不満そうだった。そんなに環ちゃんに教えてもらうのが嫌なのか。そう思っていたけど、如何やら違うらしい。

「えっと環ちゃん、炎陽ちゃんから一つお願いがあるみたいなんだけど。」
「はい!!何なりと!!!」
「その、炎陽ちゃん『森神様』って呼ばれるの嫌みたいなんだ。」

 結構嬉しい事に、炎陽ちゃんは私が付けた炎陽と言う名前を気に入ってくれたみたいなんだ。それに炎陽ちゃんにとって、自分はあくまでも自分らしいからね。
 環ちゃんは少し驚いた顔をしてから、凄い勢いで頭を下げた。

「それは申し訳ございません!!!」

 謝罪してすぐに環ちゃんは顔を上げた。それにしてもこの子何時も元気だなぁ。

「それではこれからは炎陽殿と呼ばせていただきます!!!」

 環ちゃんがそう言うと、炎陽ちゃんは満足そうにしていた。

「では炎陽殿は何か知りたい言葉や文字はございますか!?」

 そう質問をされて炎陽ちゃんは暫く考えていた。そもそも森の中で生きてきた炎陽ちゃんに知りたい言葉とか文字ってあるのかな。と、私がそんな事を考えていると、何かを思い付いたらしく、私の方を見て来た。

「え……」
「如何かなさいましたか?」
「あ、いや、私と炎陽ちゃんの名前の文字を知りたいって。」

 それを聞いた環ちゃんはぱぁと笑顔を浮かべた。

「それでは手前が一度書きます故、炎陽殿はよく見ていてください!!!」

 環ちゃんは筆を執り、墨を付けて私と炎陽ちゃんの名前を書いた。成程、この子結構字が上手い。
 書き終わってから環ちゃんは紙の向きを変えて炎陽ちゃんに文字を見せると、炎陽ちゃんに筆を手渡した。うん、手渡したのは良いんだけどね環ちゃん、炎陽ちゃんはそもそも今まで筆を持った事が出来ないから、まずは持ち方から教えないとね。
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