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はじめての○○○と○○
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しおりを挟む「お姉さん、こんばんは」
仕事を終えて、星一つない真っ暗な夜道を一人で歩いていれば、道沿いのガードレールに腰掛けて待っていたのは見覚えのある黒髪の男の子だった。
「……また待ってたんですか?」
「うん。お姉さんに会いたかったからさ」
「……正直迷惑です」
「お姉さんがそう言うから、会社から少し離れた所で待ってただろ? 此処なら人目につかないし」
何と返してもニコニコと楽しそうな顔をして笑っているこの男の子は、黒瀬椿くんというらしい。
歳は二十四歳。私の予想よりも幾分か若かった。私より四つも下だ。落ち着いた所作や大人っぽい雰囲気でそう見えるのだろうか。
あのバーで出会ってから二日後。もう会うこともないと思っていたこの男の子が、私の職場の正面玄関前に立っている姿を見た時は――幻覚でも見ているのかと思った。
「お疲れ様」
私たちの真横を通りすぎていく社員たちから好奇の目に晒されたことは、まだ記憶に新しい。慌ててその腕を掴んで人通りの少ない所まで引っ張っていけば、黒瀬くんは悪びれた様子もなくニコニコと笑ったまま、
「お姉さんに会いたくて。きちゃった」
――そう言ってのけたのだ。
呆けて言葉も出ない私の手を取って歩き出した黒瀬くんは、聞いてもないのに自身のことを色々と話してくれた。といっても、名前や年齢を言って、あとは最近観た映画や美味しかったコンビニのお菓子など、内容は他愛もない雑談だったけれど。
多分初めて会った時にもバーで名前を聞いていたのだろうけど、正直あの時の記憶は朧気で、会話の内容はよく覚えていない。それを分かった上で、再度自己紹介をしてくれたのだろうと思う。
その日から黒瀬くんは、数日に一回の頻度で、こうして私を待ち伏せしているようになった。
二回目となる前回、職場の人たちの目も気になるからもう来ないでほしいということをやんわり伝えたからか、今日は職場から離れた場所で待っていたみたいだ。――場所を変えればいいというわけではなく、来ないでほしいと伝えたつもりだったんだけどな。
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