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はじめての○○○と○○
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しおりを挟む「二日振りだけど変わりはなかった? 元気?」
「……はぁ。今、元気がなくなりました」
「それなら、俺が元気づけてあげようか?」
「結構です」
「えぇ、つれないなぁ。というかお姉さんって、何でずっと敬語なの?」
「心の距離ですね」
「それ、縮めたいんだけど」
「無理です」
黒瀬くんは、案外笑い上戸なのかもしれない。ほらまた――何が楽しいのか一人でクスクスと笑っている。
「そっか。それじゃあその距離を埋められるように努力するよ」
「……」
「ということで、明日俺とデートしない?」
――どういうことですか? 話の文脈がおかしくないだろうか。どうしていきなりデートの流れになったのだろう。
「いや、無理です」
「お姉さん、明日は休みでしょ?」
「明日は家で映画鑑賞をする予定なので」
「いきなり家に誘うなんて、お姉さんって意外と大胆なんだね」
――だめだ。どうやら話が通じないみたいだ。
「……そもそも私と黒瀬くんはお付き合いしているわけでもないし。デートとか、無理です」
「それじゃあ付き合う?」
「無理です」
「はは、即答」
黒瀬くんはまたクスクスと笑う。断られて喜ぶとか、見た目に反して存外ドM気質なんだろうか。
「だってお互いに名前も知ってるし、会うのだってこれが初めてじゃないよね。デートするのに、後は何が必要なの?」
「何が必要っていうか……」
「そもそもデートって、男女が一緒に出掛ける時に使う言葉だよね。別に付き合ってる必要もないと思うけどなぁ。お互いを知るためにデートするんだから、何の問題もないんじゃない?」
「……」
……まずい。このままじゃ篭絡されてしまう。
何と言葉を返そうかと考えていれば、黒瀬くんは足を止めて私の顔を覗き込んできた。思わず身を引けば、黒瀬くんは真っ黒な瞳をすっと細めて微笑む。
「あとはまあ、この前助けてあげたお礼ってことでいいよ。……それじゃあ、後で連絡するから」
「いや、私行くなんて一言も…「また明日ね」
いつの間にか私のアパートの前に到着していたみたいだ。黒瀬くんは私の返答もお構いなしに、ひらりと手を振って背中を向けてしまう。
「……はぁ」
――中々に面倒な男の子に目を付けられてしまったみたいだ。
バーになんて行かなければよかったと、あの日の自分自身に後悔しながら、重たい足を引きずって自宅へと帰った。
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