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あつあつシチューと苺のケーキ

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 十一月三日。黒瀬くんと街でばったり遭遇し、何故か二人で映画を観た日から数日が過ぎ去り、今日は黒瀬くんのお誕生日だ。
 職場を定時で退社して、その足でバーに向かう。

 ――でも、お祝いしてほしいっていうのも実はただの冗談で、「え、本当にきたの?」なんて言われたらどうしよう。冗談も通じないやつだと思われたりして。

 そんなネガティブ思考に陥りそうになるけど、もう店の前まできてしまったんだし、その時はその時だ。……そもそも黒瀬くんにどう思われたって、構わないわけだし。

 勢いのままに扉を開けて、店内に足を踏み入れる。カラン、と軽やかなベルの音が響いた。
 バーカウンターには見慣れたマスターの姿があるけど、店内に黒瀬くんの姿は見られない。まだ仕事中で、奥で何か作業しているのかもしれないと考えながら、ひとまず席に腰を下ろそうとすれば、マスターに声を掛けられた。

「やあ、こんばんは。香月さんのこと、待ってたんだよ」
「こんばんは。待ってたっていうのは……もしかして黒瀬くんのことですか?」

 聞けば、マスターは頷きながらも、困ったような顔でカウンターの右隣にある従業員入口に目を向ける。

「椿のやつ、実は熱があってさ」
「……え!? そうなんですか?」
「そうなんだよ。だけど、今日は香月さんに会う約束をしてるからって仕事にきてさ。だけどあんまりフラフラしてるもんだから、奥の方で休ませてるんだよ」

 誕生日当日に熱を出てしまうだなんて、可哀そうに思えてしまう。しかも、具合が悪いのにわざわざバイトにきただなんて……しかもその理由が、私と約束をしていたから? そんなの、マスターに伝えておくか、メッセージの一件でも入れておいてくれれば……それで済んだはずなのに。

「香月さん、悪いんだけど……椿のこと、家まで送ってやってくれないかな?」
「わ、私がですか?」
「僕もさすがに店は抜けられないし……椿がいなくなった穴もあるから、尚更ね」

 眉を下げて笑うマスターから、困っていることが伝わってくる。そもそも、私と約束をしていたから黒瀬くんはここまできたわけだし……私が送り届ける責任は充分にあるだろう。

「分かりました。私が家まで送っていきますね」
「ありがとう、助かるよ。今椿を連れてくるから、少し待っててね」

 そう言って私の前にノンアルコールのカクテルを置いたマスターは、店の奥の方に姿を消す。グラスには綺麗なブルーの液体が注がれている。一口飲んでみれば、甘酸っぱいブルーベリーのような味がした。

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