逃げられるものならお好きにどうぞ。

小花衣いろは

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ラブラブ初旅行計画の行方は?

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「っ、着いた……!」

 高速道路を走ること、五時間と少し。途中サービスエリアでの小休憩を二回挟んで、運転手を萌黄さんから皇さんに交代して――ようやく京都に到着した時には、時刻は十二時半を過ぎたところだった。
 
 車を宿泊予定の旅館の駐車場に止めて、先にチェックインを済ませるために車から荷物を下ろす。
 本来ならお昼前には到着する予定でいたから、二時間近くのタイムロスになってしまった。皆で新幹線で行けたのなら、それが一番良かったのだろうけど……私と黒瀬くんの近くの座席が全て埋まっていた為、美代さんの提案により車で行くことに決まったらしい。

「百合子さん、俺が持つよ」
「あ、ありがとう黒瀬くん」

 トランクに積んでいた小さめのキャリーケースを下ろそうとすれば、軽々と下ろしてくれた黒瀬くんはそのまま宿泊先の旅館まで持っていってくれる。

「ちょっと椿、私の荷物は?」
「美代さんは皇さんに頼めばいいんじゃない?」
「ん? 何だ、これを持っていけばいいのか?」
「し、慎二さん!? いえ、私の荷物、重いと思うので……! 大丈夫です!」

 私の倍はありそうな大きなキャリーケースに加えて、ボストンバッグまで持ってきていた美代さんは、旅館までの荷物持ちを黒瀬くんに頼むつもりだったようだ。
 けれど黒瀬くんの声が聞こえたらしい皇さんが持とうとすれば、美代さんは慌てた様子で自分の荷物を持って運び始める。
 美代さんが頼めば、皇さんなら快く運んでくれそうだけど……美代さん的には、意中の相手には素直に甘えづらいのかもしれないな。
 美代さんが皇さんのことをどれだけ思っているのか知っている身としては、今回の旅行で二人の間に何かしらの進展があればいいのにな、と密かに願ってしまう。

「美代さん。そのボストンバッグ、持ちましょうか?」
「大丈夫よ。百合子ちゃんは女の子なんだから、重いものは男に持たせておけばいいのよ」
「でも、キャリーケースもあって大変じゃないですか?」
「……それじゃあ、これだけお願いね」

 こちらに歩いてきた美代さんに声を掛ければ、美代さんは肩に掛けていた軽いショルダーバッグを手渡してくる。

「……皇さんと、何か進展があるといいですね」
「なっ……私を揶揄おうだなんて、百合子ちゃんってばいい度胸してるじゃない」

 バッグを受け取る際、考えていたことを小声で伝えてみれば、顔を赤く染めた美代さんに睨まれてしまった。だけど……正直ちっとも怖くない。むしろ、照れている表情が可愛いと思ってしまう。
 思わず笑みを漏らしてしまえば、ムッとした顔で眉を寄せた美代さんに「生意気」と片頬を摘ままれてしまった。でも軽く引っ張られているだけだから、全然痛くはない。ただの照れ隠しだってすぐに分かった。

 ――やっぱり美代さんは、ちょっぴり素直じゃないところもあるけど、すごく優しくて可愛らしい人だ。

「いいねぇ、百合子ちゃんは美代と仲良しなんだ。おれとももっと仲良くしてくれたら嬉しい……って思ってるんだけど、これは中々に難しそうだなぁ。難攻不落じゃん」

 追いついてきた萌黄さんに声を掛けられる。だけど、私の斜め前を歩いていた黒瀬くんが目敏く反応して、私と萌黄さんの間に割り込んできた。

「百合子さん、早く行こ」
「え、おれってもしかして透明人間にでもなってる? 椿の目には映ってない感じ?」

 萌黄さんの言葉を最初から最後まで完全に無視した黒瀬くんは、ニコニコと楽しそうに笑いながら、空いている私の片手を取って歩き出す。
 チラリと後ろを見れば、口を尖らせた萌黄さんが、美代さんに「さっさと歩いて」と思いきり背中を叩かれている。

 ――今回の旅行が始まってまだ一日も経っていないけど、早くも萌黄さんのイメージは大分変わってしまった。のらりくらりとしていて何を考えているのか読めない人だと思っていたけど、彼は存外いじられキャラなのかもしれない。

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