104 / 190
ぶち壊しムードの果てには尋常に勝負
3
しおりを挟む身体を拭いて、貸し出してもらった淡い花柄の色浴衣に袖を通して、ドライヤーで髪を乾かしていれば、遅れて上がった黒瀬くんがやってきた。
一瞬だけそちらに目をやれば、白い縞模様が入った濃紺色の浴衣を身に付けている。……悔しいけど、すごく似合ってる。格好良すぎてズルいくらいだ。
「ゆーりこさん」
「……」
「浴衣、可愛いね。似合ってるよ」
「……ありがと」
「……ねぇ百合子さん、まだ怒ってる?」
ドライヤーの温風に紛れて確かに耳に届いた声は、弱々しくて覇気がない。
電源を切ったドライヤーを置いて、チラリと視線だけ向ければ、しゅんとした子犬みたいな表情をした黒瀬くんがいて、私をジッと見つめている。
「怒ってるよ。……ちょっとだけ」
「……ごめんね?」
コテンと小首を傾げている黒瀬くんは、自分の顔がいいことを自覚してやっているに違いない。
そして、それに気づいているのにコロッと絆されて許しちゃう私は、馬鹿な女なのかもしれない。……これが惚れた弱みってやつなのかな。
でもまぁ、せっかく旅行に来てるんだから、仲良く楽しみたいしね。
「……仕方ないから、許す」
その一言を伝えれば、黒瀬くんの顔は瞬時に明るくなった。
「よかった。それじゃあ……」
「え? っ、わ、ちょっと黒瀬くん……!?」
しょんぼり顔から一変して、ニコリと満面の笑みを広げた黒瀬くんに抱きかかえられた私は、そのまま布団の上に押し倒される。
「ちょ、ちょっと待って? 私まだ、心の準備が……」
「俺、百合子さんが嫌なことは絶対にしないよ。でも……百合子さんは、俺に触られるの、嫌?」
「……嫌、なわけないよ。ただ、その……」
――黒瀬くんは経験豊富そうだけど、対する私は正反対で、そういった経験はゼロと言っていい。だから、胸の中を占める恥ずかしさと、ほんの少しの恐怖心のせいで、どうしても身構えてしまうのだ。
「……大丈夫だよ。百合子さんが怖いことは何もないから。なるべく痛くないようにするし、優しくする。でも、もし途中でどうしても怖くなったり嫌になったりしたら、その時は我慢しないで言ってほしい。百合子さんのこと、大切にしたいから」
黒瀬くんは私の胸中を見透かしたみたいに、一つひとつの不安を取り除いてくれるように、言葉を紡いで届けてくれる。頬に触れる温かな手に、真摯なまなざしに、私の中にある恐怖心が少しずつ小さくなっていく。恥ずかしさの方は……やっぱり消えてはくれないけれど。
「……うん、分かった」
覚悟を決め、頷いて返せば、目を細めて微笑んだ黒瀬くんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてくる。
瞼を下ろして唇に触れる熱を待っていた、そのタイミングで――来客を知らせるインターホンの音が鳴り響いた。
0
あなたにおすすめの小説
Bravissima!
葉月 まい
恋愛
トラウマに悩む天才ピアニストと
俺様キャラの御曹司 かつ若きコンサートマスター
過去を乗り越え 互いに寄り添い
いつしか最高のパートナーとなる
『Bravissima!俺の女神』
゚・*:.。♡。.:*・゜゚・*:.。♡。.:*・゜
過去のトラウマから舞台に立つのが怖い芽衣は如月フィルのコンマス、聖の伴奏ピアニストを務めることに。
互いの音に寄り添い、支え合い、いつしか芽衣は過去を乗り超えていく。
✧♫•・*¨*•.♡。.:登場人物:.。♡.•*¨*・•♫✧
木村 芽衣(22歳) …音大ピアノ科4年生
如月 聖(27歳) …ヴァイオリニスト・如月フィルコンサートマスター
高瀬 公平(27歳) …如月フィル事務局長
好きだから傍に居たい
麻沙綺
恋愛
前作「ヒ・ミ・ツ~許嫁は兄の親友~(旧:遠回りして気付いた想い)」の続編です。
突如として沸いた結婚話から学校でのいざこざ等です。
まぁ、見てやってください。
※なろうさんにもあげてあります。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
工場夜景
藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる