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Ⅲ Gift
3-8 決定
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「予想通り、ヨーラッドだったよ」
入室と同時、ティアに掛けられた第一声はそれだった。
「それは、例の決闘の代表者が、という事だな」
「ああ、ついさっきウルマ側から正式に通達された」
疑問形というよりは確認の言葉に、ニグルは用意していたように即座に返す。
「返答は?」
「もちろん、保留。ティアに任せると言っただろう」
「相手方はそれで納得したのか?」
「むしろ、あの場で僕が即答する方が不自然だよ。持ち帰って、他の者と相談すると言ったら、すぐに受け入れてくれたさ」
「そうか……言われてみれば、それが当然か」
部屋の中央、部屋の主であるニグルと向き合うように用意された椅子を無視し、ティアは立ち止まる。
「本当に、私の独断で決めてしまっていいのか? お前の言うように、他の者とも相談した方が……」
「それも、君に任せるよ。相談したい相手がいるならばすればいいし、自分一人で決めるべきだと思うならばそうすればいい。どちらにしろ、最終的な決定権は、王国の防衛組織のトップである、騎士団長の君にあるんだから。アーチライトに頼り切りだった軍司令部や防衛委員会なんかに、今更になって気を使う必要なんて無い」
終わりに近づくにつれ、相手の声が険を帯びていく事にティアは気付いた。それはニグル自身も同じだったのか、言葉を終えると口元に手をやり、バツが悪そうに笑ってみせる。
「それに、国王にも許可は取ってある。本当に一応、って感じだけど、国の最高権力者の許可まで得ていれば、公に君を糾弾するような事はできない」
「公でなければ、そうではないような言い方だな」
「陰口なんか、慣れを通り越して飽きたくらいだろう。気にするような事じゃない」
「私は、そういう類のものを耳にした事はないんだが」
顔をしかめたティアを見て、ニグルは頭を抑える。
「参ったな、僕も存外に疲れてるらしい。忘れてくれると嬉しいかな」
「冗談だ。直接耳にした事が少ないのは事実だが、私に対する陰口が少なからず存在している事は知っている。お前を始め、皆がそれらから守ってくれていた事も、だ」
ティアはふっ、と一度だけ柔らかく笑い、そして大きく息をして表情を引き締める。
「私の、いや、この問題に対する答えは最初から一つしかない」
切り出された本題に、ニグルはただ無言で耳を傾ける。
「今のこの王国には、ヨーラッドに勝てる魔術師は一人もいない。元々が優位な戦争、確実に勝てるならともかく、その全く逆で勝ち目がほとんど無い決闘などに、国の命運を賭ける選択はありえない」
迷いを微塵も感じさせない口調で、ティアは一息にそう言い切った。
「……つまり、この件は無かった事にすると?」
「ああ、そうだ。そもそも、そんな提案をしてきた時点で、ウルマ側は相当に追い詰められている事を明かしたに等しい。このまま戦争を続行すれば、勝つのは王国の方だ」
念を押すような問いにも、ティアの決定はやはり揺るがない。
「なるほど、それがティアの決定なら、ウルマ側にはそう伝えよう」
「何か、含みのある言い方だな。アルバトロスの件についてか?」
そんなティアがどこか不安そうに問い返したのは、知己であるニグルの僅かな声の変化に気付いたためだった。
「いや、その件については多分大丈夫だろうね。元々は独立した問題だし、今の段階で国として決闘を受けないと決めたなら、おそらくこの件に関しては打ち切れる」
「なら、何が問題なんだ?」
「問題なんて無いよ。強いて言うなら、前にも話したアルバトロス卿の立場についてだろうけど、それも今となってはヨーラッドとの個人的な決闘の方に移った問題だ」
「だが、お前は……」
「物言いに含みがあった、って? 残念だけど、心当たりはないかな。疲れで余裕がないのが、口調に出てたのかもしれないけど」
追求を打ち切るように、ニグルは机の上の書類を手に取った。
「こっちから呼んでおいて悪いけど、今は結構忙しくてね。用事が無いなら、仕事に戻らせてもらってもいいかな」
「……ああ、そうだな。私はこれで失礼しよう」
事実上、退出を促す言葉を正面から受け、ティアは踵を返して部屋を出ていった。
入室と同時、ティアに掛けられた第一声はそれだった。
「それは、例の決闘の代表者が、という事だな」
「ああ、ついさっきウルマ側から正式に通達された」
疑問形というよりは確認の言葉に、ニグルは用意していたように即座に返す。
「返答は?」
「もちろん、保留。ティアに任せると言っただろう」
「相手方はそれで納得したのか?」
「むしろ、あの場で僕が即答する方が不自然だよ。持ち帰って、他の者と相談すると言ったら、すぐに受け入れてくれたさ」
「そうか……言われてみれば、それが当然か」
部屋の中央、部屋の主であるニグルと向き合うように用意された椅子を無視し、ティアは立ち止まる。
「本当に、私の独断で決めてしまっていいのか? お前の言うように、他の者とも相談した方が……」
「それも、君に任せるよ。相談したい相手がいるならばすればいいし、自分一人で決めるべきだと思うならばそうすればいい。どちらにしろ、最終的な決定権は、王国の防衛組織のトップである、騎士団長の君にあるんだから。アーチライトに頼り切りだった軍司令部や防衛委員会なんかに、今更になって気を使う必要なんて無い」
終わりに近づくにつれ、相手の声が険を帯びていく事にティアは気付いた。それはニグル自身も同じだったのか、言葉を終えると口元に手をやり、バツが悪そうに笑ってみせる。
「それに、国王にも許可は取ってある。本当に一応、って感じだけど、国の最高権力者の許可まで得ていれば、公に君を糾弾するような事はできない」
「公でなければ、そうではないような言い方だな」
「陰口なんか、慣れを通り越して飽きたくらいだろう。気にするような事じゃない」
「私は、そういう類のものを耳にした事はないんだが」
顔をしかめたティアを見て、ニグルは頭を抑える。
「参ったな、僕も存外に疲れてるらしい。忘れてくれると嬉しいかな」
「冗談だ。直接耳にした事が少ないのは事実だが、私に対する陰口が少なからず存在している事は知っている。お前を始め、皆がそれらから守ってくれていた事も、だ」
ティアはふっ、と一度だけ柔らかく笑い、そして大きく息をして表情を引き締める。
「私の、いや、この問題に対する答えは最初から一つしかない」
切り出された本題に、ニグルはただ無言で耳を傾ける。
「今のこの王国には、ヨーラッドに勝てる魔術師は一人もいない。元々が優位な戦争、確実に勝てるならともかく、その全く逆で勝ち目がほとんど無い決闘などに、国の命運を賭ける選択はありえない」
迷いを微塵も感じさせない口調で、ティアは一息にそう言い切った。
「……つまり、この件は無かった事にすると?」
「ああ、そうだ。そもそも、そんな提案をしてきた時点で、ウルマ側は相当に追い詰められている事を明かしたに等しい。このまま戦争を続行すれば、勝つのは王国の方だ」
念を押すような問いにも、ティアの決定はやはり揺るがない。
「なるほど、それがティアの決定なら、ウルマ側にはそう伝えよう」
「何か、含みのある言い方だな。アルバトロスの件についてか?」
そんなティアがどこか不安そうに問い返したのは、知己であるニグルの僅かな声の変化に気付いたためだった。
「いや、その件については多分大丈夫だろうね。元々は独立した問題だし、今の段階で国として決闘を受けないと決めたなら、おそらくこの件に関しては打ち切れる」
「なら、何が問題なんだ?」
「問題なんて無いよ。強いて言うなら、前にも話したアルバトロス卿の立場についてだろうけど、それも今となってはヨーラッドとの個人的な決闘の方に移った問題だ」
「だが、お前は……」
「物言いに含みがあった、って? 残念だけど、心当たりはないかな。疲れで余裕がないのが、口調に出てたのかもしれないけど」
追求を打ち切るように、ニグルは机の上の書類を手に取った。
「こっちから呼んでおいて悪いけど、今は結構忙しくてね。用事が無いなら、仕事に戻らせてもらってもいいかな」
「……ああ、そうだな。私はこれで失礼しよう」
事実上、退出を促す言葉を正面から受け、ティアは踵を返して部屋を出ていった。
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※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
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