妖刀使いがチートスキルをもって異世界放浪 ~生まれ持ったチートは最強!!~

創伽夢勾

文字の大きさ
121 / 133
5章:エルフの国と軍師の策略

112:奪われた者

しおりを挟む
「ねぇ、ユウ君。私と一緒にし合いましょ?」

 ユウはその声に聞き覚えがあった。それは少女の声であり、先日行方不明になったと聞いた、不知火雛乃の声だった。
 周りにはまだ魔物もいて、それに対抗するように冒険者たちが奮闘を続けている。

「不知火、なんでお前がこんなところに……」
「何でって、そりゃユウ君に会いに来たからだよ」

 そんなこともわからないの? と続け、その虚ろな瞳でユウを見つめていた。ユウはそんな不知火を見てその異常性に気づいていた。
 雛乃は薙刀を片手でぐるぐると回し、だんだんと距離を詰めてくる。そんな雛乃にユウはムラクモを構えていた。

「あはっ、殺る気になったんだ。うれしいなっ」

 ユウが刀を構えたのを見ると、すごくうれしそうな反応を示し、ぐるぐると回していた薙刀を止め一気に距離を詰めてきた。それと同時に繰り出される薙刀の一突き。それをかろうじて躱し、ユウは大きく後ろに飛び距離を取る。

「その詰めの速さ。縮地に似た移動スキルを持っているな」
「そうだよ。今のは飛足ヒソク。さぁもっと楽しもっ」

 先ほどと同じように、ユウへと距離を詰める。たださっきとは違い、距離を取らせる気はない。ユウもそれに対抗するように、受け流し、弾き、雛乃の薙刀をいなしていく。
 この動き方は薙刀のリーチを生かして、相手を追い詰めるような攻め方をしている。
 薙刀を大きく上には時期、足払いをする。だがそれは読まれていたようで、雛乃は体勢を立て直すように、距離を取った。

「不知火。お前は一体何がしたいんだ」
「私は、私はもう奪われたくないの。自分の周りから大切なものがなくなっていくのが嫌なの、耐えられないの。そんな私が今欲しいのは、ユウ君、貴方だよ。でも、あなたは周りに溺れて、私から離れて行く。せっかく会えたのに、また私から……。だからね、今まで奪われてきた私は今度は奪うの。貴方を、いえまずはあなたの周りから奪っていく。それが今の私のしたいことだよ」

 虚ろな目で雛乃はユウを見ていた。その目に嘘はなく、ただ悲しそうにでもうれしそうな、そん顔をしていた。
 魔物は周りで冒険者たちと争っている。球に流れてユウの元へ向かってくる。それをユウは一太刀で払う。対して雛乃の元には魔物が向かおうとしない。

《すいません。ますたー再起に遅れました》

 唐突にユウの頭の中に声が響いた。それはいつもユウの助けになる優しい声。黙示録であるエルの声だった。

《状況の整理完了。大型種はレジーナ及びラースによって討伐。中型の魔物にはCランク以上の冒険者たちと騎士で対応可能。それ以外の小型は個別で当たります》

 今のエルの意思疎通の相手はユウ以外にアイリス、レジーナ、ラースにも伝わっている。

(すまない。俺はちょっと相手しなきゃいけないやつがいるみたいだ)
(大丈夫です。ユウさんは充分に活躍しました。他はこっちで対応します)

 心配そうな、でも応援したいそんな気持ちの籠ったアイリスの声が聞こえた。こっちの状況はエルを通じて3人にも伝わっただろう。

「無視されるとへこむなぁ」

 こっちの状況整理の途中で雛乃は薙刀を構え突撃してくる。何の影響かはわからないが、直接的に雛乃はに向ける瞳の能力は使えないみたいだ。

「ほらほら、どうしたの? ユウ君はそんなものじゃないでしょ」

 雛乃は土魔法と薙刀の連携が得意らしく、隙がなかなか見当たらず、防戦一方だ。

《ますたー何をためらっているのですか? 敵意を向けられているんですよ?》

 そんなユウの心を見透かすように、的確にエルは突っ込みを入れる。そうただ踏み切れないだけ、敵だと思いきれないだけ、それが防戦一方になる理由。

「あぁ、詰まんない、詰まんない、詰まんない。ねぇ、何か失くせば、あなたは本気になるのかな?」
《ますたー!》

 エルの声も、雛乃がやろうとしていることも全てが、全てにユウが気付くのが遅かった。

魔閃マセン

 その黒い瘴気を纏った薙刀は的確にムラクモを狙い、不利な体勢からその薙刀とぶつかったムラクモの刀身は、その黒い刀身を二つに分かれた。何も音を立てず、周りの音すら聞こえない。そんな中、別れた刀身は地面に落ち、ユウは状況を整理出来ずにいた。

「あはは、奪っちゃった。奪っちゃった。私がユウ君の物を、私がユウ君を。大切なものを、うふふふふふ」

 薙刀を右手に自分の両腕で自分を抱きしめ、妖艶な笑みを浮かべていた。

「ムラクモ、ムラクモおい返事しろよ、いつもみたいに、なぁ」

 柄と少し残る刀身。それを抱えて、地面に座り込む。ユウの耳には耳障りな笑い声が聞こえていた。

「ははっ、何年ぶりだろうな。俺が涙を流したのは」

 ユウは左手の甲にある竜紋を発動させ、ノワールを呼ぶ。折れた刀身、残った柄、そして鞘それをノワールに預けて、王城へと向けて飛ばせる。それを逃がさないとばかりに土でできた槍を飛ばす。

「邪魔すんなよ」

 飛んでいった土の槍は空中で歪んだ空間に飲み込まれる。

「あはっ殺る気なんだね」
「あぁ、期待に応えてやるよ」

 ユウの周りには溢れんばかりの黒い魔力があった。

「力を貸せよ。ヨリヒメ」
“いいよ。実はボクも結構イラついてるんだ”

『我は万象に乞い求。魂鬼が纏いし災禍の鎧を!』
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...