白銀の死神姫

Alice

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二章 忍び寄る影

episode23 吸血鬼事件①

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   もう寒くなり始めた秋。早朝の光が差し込む教室に、白雪は来ていた。

「そう言えば、学校に途中で入るのは2度目ですね。あっちの学校は結局最後まで通えなかったし…。レオンには悪いことしちゃいましたかね」

   ブルルと震えた体を自分の手で抱きすくめながら、呟いた白雪の声は、元気な小鳥のさえずりにかき消された。

「それにしても寒いですね…。転校生は早くに来ないといけないなんて、聞いてないですよ…。どうせまたすぐに帰るんですから、適当で良いのに。まあ、その事を教師に知られるわけには行きませんけど」

   1人になって寂しいのか、いつもより独り言が多くなる白雪。がらんとした教室はシンと静まっていて、彼女以外誰もいない。

「もう秋なんですね…」

   寒さに耐えきれなかった白雪は、亜空間から黒いマフラーを取り出し、首に巻く。魔道具によって変わっている彼女の黒髪がマフラーからひと房外に零れ落ちる。
   あれからレオンによって地味な生徒になるよう改造された白雪は、彼女を知っている人が見ても分からないくらい別人になっている。顔は可愛いが、眼鏡であまり見えないし、前髪も長いので、完全に地味で目立たない一生徒に変身していた。
   任務の為、無駄に目立たないようと言っていたレオンだったが、内心は変な虫がついて欲しくない、が9割占めていた。勿論白雪はその事に気づいていないが、珍しくエルドとノヴァも積極的なことには驚いていた。

「早くゼロたちの所へ帰ってのんびりしてたいですね~。ゼロ、紫苑達も。今頃どうしてるんですかね…」

   空いた窓に両腕とその上に頭を乗せて目を瞑る白雪。少し冷たい風が吹いて寒いが、季節の変わり目の朝はとても気持ちがいい。

   そして、敵地かもしれないと言われたのに、完全に気を抜いていた彼女は、背後に立つ者に気づいていない。

「へぇ。俺より早い奴がいるなんて珍しいな。お前、転校生か?」

「っ!!」

   不意に、すぐ後ろから低い男の声が聞こえて、白雪は驚いて勢いよく後ろを振り向き、男の姿を確認する前に純血の死神鎌ヴィルジニテ・ラ・モルテを取り出そうとしてしまう。が、自分と同じこの学校の制服を来ているのを目に止め、鎌を取り出すのを間一髪でやめた。

「?なんだよ。びっくりするじゃねえの」

「急に私の後ろに立たないでください…。……手が滑る」

「おいおい、お前殺し屋かなんかか??面白いやつだな」

   この学園では、不自然だから敬語も抜くように言われている。白雪は、今まで素行が悪くて社交界に出ていなかった令嬢ということになっているのだ。

   楽しそうにくっくっと笑った男は、漆黒の髪と銀色の目の、人族だった。レオンに負けず劣らずの美青年だ。

「何が面白いんで…の?」

「変な喋り方だな。まあいいか。俺はレイディア帝国のセルディア聖教の神父、アルト・ルフィアだ」

(神父にしてはガラが悪そうですね…)

   レイディア帝国では、神父が警察の役割も果たしている為、アルトと言った青年の体は鍛えられたものだった。

「へぇ…。興味無いわ。…私は、リーリア王国伯爵家のアリス・スノウホワイト…です、じゃなくて、よ!」

(ううぅ…。敬語が染み付いてるから難しいですね。もう敬語でいいや!)

   興味無いと言いながらも、礼儀正しく自己紹介をしてしまう白雪。その際に敬語がつい出てしまうため、開き直っていつも通りに話すことにした。

「ふぅん。リーリア王国か」

   意味深げに顎に手を当て考え込むアルトを見て、白雪は訝しげに思うも、薮蛇になると自分が困るので、そこは追求しない。

「そういえば、吸血鬼って知ってるか?」

「…」

   唐突に〝吸血鬼〟という単語を発したアルトに、まさかバレたのか?!と焦って声を出しかけたが、まだ決まったわけじゃないので出しかけた声を押し込める。

「なぜ、急にそんなこと聞くんですか?存在自体は知っていますけど…見た事はないですね」

「まあ、そうだろうな。っていうか、お前知らないのか?最近ここら辺で有名な吸血鬼事件。…ああ、そうか。リーリア王国からの転校生だったな。そりゃ知らないか」

   〝吸血鬼事件〟という言葉にまたもやギクリと体が反応しそうになったが、我慢して、内心は前のめりに、実際は震えそうになる声を堪えて聞く。

「吸血鬼事件、ってなんですか?私、昨日着いたばかりなので…。もしかして、この国に吸血鬼が出てるんですか?」

「まあ、そうらしいな。俺も事件現場に行ったりするけど、最近の王都じゃ有名な事件だ。ここ1週間くらい毎日被害者が出てる。毎回、死んではいないが、死ぬギリギリってとこだ」

   死んではいない、という言葉にホッとしたが、同族がいるかもしれないと聞き、ドキドキと心臓が煩く鳴る。

(あの事件の後、あの人と姿を消した同族達が、ここにいるかもしれない…。それに、吸血鬼の王族として、人が死ぬかもしれない量の血を飲んでいるなんてこと、やめさせないと)

   ギュッと手を握りこんだ白雪は、ニコリと笑った。

「ありがとうございます。教えてくれて。夜は気をつけますね」

「ああ」

   そのまま白雪が教室から出たあと、その後ろ姿をじっと眺めていたアルトは、その瞳に剣呑な光を宿していた。

「あやしいな」

(本人は必死に隠してたんだろうが、吸血鬼や、吸血鬼事件と言った時のあの反応。あれは怪しすぎる)

   ほかの人間であったなら隠せたかもしれないが、神父として、人の生死に関わっているアルトは、洞察力は人一倍強い。
   そもそも、白雪にいきなりあんな事を言ったのは、危険を忠告する為でもあったが、1番は、人間に化けているだろう吸血鬼かの判断の為だった。色々な怪しい人物に声をかけては吸血鬼が反応しそうな単語を会話に混ぜ、吸血鬼を特定しようとしていた。
   転校なんて珍しい今の時期や、事件が流行り始めたというのも考慮して、白雪が来たのは怪しすぎた。

「今日つけてみるか…」

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