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二章 忍び寄る影
episode25 吸血鬼事件③
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シュッ
アルトの手から短剣が振り下ろした男の手を狙って繰り出される。
「おっと」
だが、男は危なげもなくそれを避けた。その間に白雪とアルトは距離を詰めると、少女の前に庇うようにして立ち塞がる。
「また貴方ですか」
男の格好や声からして前の人物と同一人物だと確信した白雪は、男を睨みつける。
「知り合いか?」
「そう、なりますかね。名前とかは知りませんけど。つい最近も、私が前に通っていた学園を襲撃して、1クラス全員を重軽傷追わせたんですよ」
「うわっ、こわー」
白雪の話を聞いてアルトが顔をしかめる。このやり取りのあいだも、男から意識は離さない。
「酷いなぁ。誰も殺さなかったんだし、優しい方だと思うけど」
フードで隠れた顔が笑っているのも分かるぐらい、楽しそうな声で話す男に白雪は痛む手に、眉を寄せながら握り拳をつくる。隣で、アルトも先程の短剣とは違って、普通の長さの剣を2本持って、戦闘態勢に入っている。
無言で白雪が男の顔に向かって殴りかかる。
「あはは。手、怪我してるじゃん。そのせいでスピードも落ちてる。それに」
男が、繰り出した白雪の腕を掴むと、怪我をした手を拳ごと握りこんだ。
すぐさま手を引っこ抜こうとした白雪だが、男が力を入れた瞬間、白雪の手がメキメキと骨が軋む音がする。
「弱い」
「ぐぅっ!!」
痛みに呻いた白雪。すると、白雪に引かれているうちに、男の背後にまわっていたアルトが、2本の剣で男を切りつけようとしたが、白雪の腕を掴んだ男が、白雪をアルトに投げつけ、不意に、高速で飛んできた白雪を受け止められなかったアルト諸共、二人揃って壁に激突する。
「うっ」「あぅっ」
「さてと」
手をパキパキとならせながら少女に向かって行く男に、壁に背中を打ち付けた痛みから立ち上がってないアルトを放って、白雪が、折れた右手の痛みを無視しながら一直線に跳んだ。
(呪いで痛いけど、折れてはないから、左手で…!)
スピードが落ちていることは、白雪自身も自覚していたので、身体全体を使って男に左ストレートを繰り出す。
「!」
珍しく油断していたのか、白雪の拳が男に当たりそうになるが、左拳とのあいだに男が黒い和傘を滑り込ませたことによって防がれる。和傘は特殊な素材で出来ているのか、吸血鬼である白雪が身体強化の魔法を使っているパンチが当たったにも関わらず、傷1つ付いていない。
「くっ」
悔しそうに眉を寄せた白雪を、男が持っている和傘で殴ろうとした。
すると、男に透明な水が降りかかった。
「聖水だ。お前、吸血鬼だろ?」
その言葉を肯定するかのように、男が小さく呻いたあと、壁を蹴って屋根に登り、そのまま去っていく。
「待ちなさい!!」
それをすかさず追おうとした白雪の腕をアルトが掴む。
「俺たちだけじゃ無理だ。今教会本部に念話を通した。直に応援が来るし、あいつも追われることになる」
それに渋々と追うのを止める白雪。そこで、ふとあの少女は無事かと視線を走らせると、どこにもその姿はなかった。
「なぁ、お前、聖水の「あれー?あの女の子どこに行ったんですかね?」
問いかけに明らかに意図的に言葉を被せる白雪に、アルトが思いっきり眉を顰める。
「あ、怪我してたかも知れませんし、探しに行ってきま───」
「その必要は無い。それも教会の奴らに頼んでる。それより…」
トンッと、白雪の顔の隣の壁に手をつく。所謂壁ドンと言うやつだ。反対側から逃げようとした白雪を閉じ込めるように、もう片方の手も、先程より強くドンッとおく。
「なぁ、お前、聖水かかったよな?左手に」
「え、な、なんのこと?ですか?」
いつもなら余裕で返して誤魔化せた筈だったが、戦闘後で興奮し、まともな判断が出来なかった白雪は、テンパってどもってしまう。
「これ」
そう言って、白雪のローブをめくると、その下の白い腕が、火傷をしたように赤くただれていた。その腕には、まだ微量の聖水が付着している。
「っ!さ、触んないで…」
「…」
「っ!!痛いっ、痛いって言ってますよね?!」
痛みにビクリと肩を揺らす白雪を見て、Sっ気があるのか、アルトがつんつんと何度も白雪の怪我を触る。
「あれぇ~?お前、状況分かってるんですかぁ~?」
途端に強気になったアルトが、ニヤニヤしながらおちょくるように敬語を話す。
「…えっと、路地裏に連れ込まれて、刺されて、上着を捲られて、私ピンチ」
「それだけ聞いたら俺犯罪者じゃん?!誤解招く言い方やめろよ!!」
「え?違うんですか?」
「違うわ!」
(どうしましょう…。正体は言っても分かんないでしょうし。第一私の目的は、学園でバレないように潜入捜査ですし…。多分、今回あの人たちが起こしたのは吸血鬼だけだと思いますから…。せめてこれが解決するまでここで捜査しなきゃ)
「吸血鬼だよな?何で目が赤く変わんないのかは分かんねぇけど」
「…確かに、私は吸血鬼です。目が赤くないのは、このチョーカーの魔道具のおかげです」
そう言いながら、そっと首にあるチョーカーに触れる白雪。アルトもおもむろに手を耳についたピアスに持っていく。
「へぇ。俺と同じことしてるやつがいるなんてな。じゃあ、俺もとるからお前も取れよ」
(何でこの人が素顔を晒すのかは謎ですけど…。弱みを握られている以上致し方ないですね)
「「せーのっ」」
妙に息があった2人が、一斉に魔道具を外す。白雪は、眼鏡だけをはずしていたが。
現れた白雪の素顔は、黒目黒髪の美少女(胸は縮んだまま)だ。彼女の素顔を見て驚いたのか、アルトが固まる。そんなアルトも、紺色の髪に銀色の目の、レオンと同い年くらいの美青年で、黒い髪の毛はカツラで、顔が認識阻害の魔道具によって素顔より普通な顔になっていたようだった。
「エセ神父?!」「赤目?!」
そして、また二人揃って相手を指さして叫んだ。実は、アルトの正体は、4人目の英雄、ルセ・フィアットだった。狼人族と、人間のハーフで、動揺したりすると耳や尻尾が出ることがある。勿論、動揺しまくっている今はぴょこんと耳と尻尾が飛び出ていた。
それと、2人は昔から犬猿の仲で、何かとぶつかり合っては武器を持っての戦闘に発展する。
「な、なななんでこんな所にいるんですか?!暇なんですね!そーなんですね?」
「ああ?!暇じゃねーよ!超忙しいっつーの!あのお前の知り合いが吸血鬼事件だかなんだかを起こしたせいで、こっちは折角の休暇が無くなってはた迷惑だっつーの!!」
「はぁ?!知りませんよ!あの時は知り合いとか言いましたけど、一方的に知られてるだけで、こっちは全然知りませんよ!何で赤の他人のせいなのに私に八つ当たりしてくるんですか?!だからエセ神父なんですよ!どっからどう見ても聞いても、聖職者には見えませんし!!」
怒涛の勢いで言い合う2人。そのうち、またもや二人揃って、戦闘態勢に入りだした。
「言ってくれるじゃねぇか。なら、今、白黒つけてやろうじゃねえの!」
「へぇ。舐めてると痛い目見ます…よ…あ、れ…?」
フンっと鼻を鳴らした白雪が、1歩前に踏み出した時、ついに、血を流しすぎたり、先程の戦闘の怪我から、体力の限界でフラリと身体が傾く。
「うわっ、おいっ!」
「思った、より…。血が、たりないで、す。今日、誰かさんの、せいで…、のみ損ねた、から…」
荒い息を吐き出しながら、苦し紛れに話す白雪の言葉に混じっている悪態に額に青筋を浮かべながら、抱きとめる。
「ちっ。これで貸し借りなしだ」
「…教会本部になんか連れていったら殺しますよ」
「ちっ。このチャンスに浄化してやろうと思ってたのにな」
白雪をおぶると、明らかに、教会本部の方へ向かって歩き出したルセに、ジトッとした目で言う白雪。
「それと、変なとこ触っても殺します」
「はぁ?誰がお前みたいなまな板触って喜ぶかよ」
結局、白雪の家まで送ってもらい、そのままベッドに寝かせてもらうことになった。ローブを脱いで、下に着ていた簡素だが可愛いワンピースで、ベッドに寝転ぶ。
「お礼は言いませんからね。元々はエセ神父のせいです。それに、血を提供するとこまでしないと、割にあいません。」
「いちいちうっせぇな。それと、血の提供なんて嫌に決まってんだろ。吸血鬼の吸血行為時にどうなるかなんて、教会やってるやつらは皆知ってんだよ。…つーか、そのチョーカーも取れよ。魔道具って言うことは、魔力を消費するだろ」
言いながら、白雪の首についたチョーカーを取った。
「あ。それ取ると、重くなるから、嫌だったんですけど…。まぁ良いか」
外した途端、髪色は銀色に、目の色は赤色、そして、胸が元の大きさに戻った。
「…………………………………は?」
瞬きの一瞬で変わりすぎた胸のサイズに、たっぷり間を開けた後、呟いて何度も目を擦りながらそこを凝視するルセ。
「ああ、なんだ。偽乳か。驚かせんなよ」
へらっと笑いながら、白雪の胸を軽く掴むようにして揉んだ。
「……」
柔らかい胸の感触に、頭にハテナマークを浮かべながら、2回3回と揉むルセ。白雪は驚きすぎて固まっている。
4回目、となろうとした時、復活した白雪が魔力の衝撃波でルセを壁までぶっ飛ばした。
「っ?!な、なに、何すんの?!あ、有り得ない…!動けないからって!最低!!」
涙目になりながら、遅い動作で起き上がり腕を胸の前で交差して守るようにする白雪。テンパりすぎて、いつもの敬語が抜けている。
「…?……?………ホンモノ?」
壁に背中を預けたルセが、手を見つめながらグーパーと握ったり開いたりしている。今だ現実だと理解出来ず、固まっていたが、やっと理解したのか、白雪を見ながら呟いた。
「本物に決まってるじゃない!!この変態神父!!」
顔を真っ赤にさせながら叫んだ白雪を呆けて見ていたルセだが、途端にかぁっと顔が真っ赤に染まる。
「いやっ、ごめっ…そんなつもりは無かった…!」
「う…」
(なんか、いつも絶対謝ったりしないくせに、こんなに謝ってくるから調子狂います…。あ、そうだ)
「なら、お詫びしてくれますか?」
「…ああ。俺に出来ることなら」
少々不本意そうだが、了承したルセに、白雪は内心ニヤリと黒く笑う。
「なら、血の提供を望みます」
「ッ?!……マジで?」
「はい。マジです。今血を飲めば、体力はすぐに回復しますし、手の怪我も治りが早まります。とても効率的だと思います!動けないんで誰かの血を吸いに行く事も出来ませんし…。お願い、聞いてくれますよね?」
その言葉を聞いて、迂闊に了承したのを本気で後悔するルセだった。
だが、1度言ってしまったものは仕方ないので、大人しくベッドに向かうと、白雪の近くに胡座をかいて座る。
「……」
(ふふっこれで少しは気が晴れるというものです!乙女の胸を触った罪は大きいですよ…!でも、吸血したら、体力も回復しますし、ついでに吸血された側は辛いみたいなのでルセへの嫌がらせにも丁度良いですね!)
内心、してやったりとほくそ笑む白雪に気づかず、襟元をはだけさせたルセは、黙って座り込んでいる。白雪の方を体は向いているが、顔は横を向いている。ルセの胡座をかいた足の上によじ登ると、肩に手を添えて、首筋に顔を近づけた。
「では……。あ~むっ」
「っ!」
ルセの白い肌に牙をたて、ゴクリと血を飲む。首筋の痛みに呻いたルセ。
「うっ……ぐっ…!」
レオンの時同様、無意識に快感を引き出す魔法を流されているルセは、無理やり白雪を自分から剥がそうとする。しかし、レオンの時とは違って、万全では無い白雪の腕力はほとんど無く、押し返されそうになるが、その度に吸血している首筋を舐めたり、痛く牙をたてたりすると、力が弱まり、血を堪能することができた。
「お、いっ…!赤目っ!も、い、だろ…」
「ふぁらふぁら~(まだまだ~)」
「ふ、ざけん、なっぁっ!……っ」
顔を真っ赤にして、汗を流しながら苦しそうに呻くルセを見て、流石にやりすぎたかなと思った白雪は、大人しく牙を抜いて、首筋に残った血を舐め取り、ルセの足から降りた。舐めとる際に、ルセの肩がビクリと大きく震えていた。
白雪が離れた瞬間、バサリと掛け布団を持ち上げて、そのまま被ってベッドに寝転がってしまったルセ。
「えっちょっ!泊まっていくんですか?何で??」
「うっせぇ!こんなんで外歩けるか!」
耳まで真っ赤になったルセが怒鳴りながら今度は頭まで深く布団を被る。
「…もっと寄ってください。シングルベッドなんですよ」
仕方なくモゾモゾと同じ布団に入ると、ルセの広い背中を見る。
(初めてあった時は、レオン同様子供だったのに、人間の成長は早いんですね…。まぁ、ルセは半獣ですけど)
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
久しぶりの投稿失礼します!
待ってくれていた方はお待たせしました!!
アルトの手から短剣が振り下ろした男の手を狙って繰り出される。
「おっと」
だが、男は危なげもなくそれを避けた。その間に白雪とアルトは距離を詰めると、少女の前に庇うようにして立ち塞がる。
「また貴方ですか」
男の格好や声からして前の人物と同一人物だと確信した白雪は、男を睨みつける。
「知り合いか?」
「そう、なりますかね。名前とかは知りませんけど。つい最近も、私が前に通っていた学園を襲撃して、1クラス全員を重軽傷追わせたんですよ」
「うわっ、こわー」
白雪の話を聞いてアルトが顔をしかめる。このやり取りのあいだも、男から意識は離さない。
「酷いなぁ。誰も殺さなかったんだし、優しい方だと思うけど」
フードで隠れた顔が笑っているのも分かるぐらい、楽しそうな声で話す男に白雪は痛む手に、眉を寄せながら握り拳をつくる。隣で、アルトも先程の短剣とは違って、普通の長さの剣を2本持って、戦闘態勢に入っている。
無言で白雪が男の顔に向かって殴りかかる。
「あはは。手、怪我してるじゃん。そのせいでスピードも落ちてる。それに」
男が、繰り出した白雪の腕を掴むと、怪我をした手を拳ごと握りこんだ。
すぐさま手を引っこ抜こうとした白雪だが、男が力を入れた瞬間、白雪の手がメキメキと骨が軋む音がする。
「弱い」
「ぐぅっ!!」
痛みに呻いた白雪。すると、白雪に引かれているうちに、男の背後にまわっていたアルトが、2本の剣で男を切りつけようとしたが、白雪の腕を掴んだ男が、白雪をアルトに投げつけ、不意に、高速で飛んできた白雪を受け止められなかったアルト諸共、二人揃って壁に激突する。
「うっ」「あぅっ」
「さてと」
手をパキパキとならせながら少女に向かって行く男に、壁に背中を打ち付けた痛みから立ち上がってないアルトを放って、白雪が、折れた右手の痛みを無視しながら一直線に跳んだ。
(呪いで痛いけど、折れてはないから、左手で…!)
スピードが落ちていることは、白雪自身も自覚していたので、身体全体を使って男に左ストレートを繰り出す。
「!」
珍しく油断していたのか、白雪の拳が男に当たりそうになるが、左拳とのあいだに男が黒い和傘を滑り込ませたことによって防がれる。和傘は特殊な素材で出来ているのか、吸血鬼である白雪が身体強化の魔法を使っているパンチが当たったにも関わらず、傷1つ付いていない。
「くっ」
悔しそうに眉を寄せた白雪を、男が持っている和傘で殴ろうとした。
すると、男に透明な水が降りかかった。
「聖水だ。お前、吸血鬼だろ?」
その言葉を肯定するかのように、男が小さく呻いたあと、壁を蹴って屋根に登り、そのまま去っていく。
「待ちなさい!!」
それをすかさず追おうとした白雪の腕をアルトが掴む。
「俺たちだけじゃ無理だ。今教会本部に念話を通した。直に応援が来るし、あいつも追われることになる」
それに渋々と追うのを止める白雪。そこで、ふとあの少女は無事かと視線を走らせると、どこにもその姿はなかった。
「なぁ、お前、聖水の「あれー?あの女の子どこに行ったんですかね?」
問いかけに明らかに意図的に言葉を被せる白雪に、アルトが思いっきり眉を顰める。
「あ、怪我してたかも知れませんし、探しに行ってきま───」
「その必要は無い。それも教会の奴らに頼んでる。それより…」
トンッと、白雪の顔の隣の壁に手をつく。所謂壁ドンと言うやつだ。反対側から逃げようとした白雪を閉じ込めるように、もう片方の手も、先程より強くドンッとおく。
「なぁ、お前、聖水かかったよな?左手に」
「え、な、なんのこと?ですか?」
いつもなら余裕で返して誤魔化せた筈だったが、戦闘後で興奮し、まともな判断が出来なかった白雪は、テンパってどもってしまう。
「これ」
そう言って、白雪のローブをめくると、その下の白い腕が、火傷をしたように赤くただれていた。その腕には、まだ微量の聖水が付着している。
「っ!さ、触んないで…」
「…」
「っ!!痛いっ、痛いって言ってますよね?!」
痛みにビクリと肩を揺らす白雪を見て、Sっ気があるのか、アルトがつんつんと何度も白雪の怪我を触る。
「あれぇ~?お前、状況分かってるんですかぁ~?」
途端に強気になったアルトが、ニヤニヤしながらおちょくるように敬語を話す。
「…えっと、路地裏に連れ込まれて、刺されて、上着を捲られて、私ピンチ」
「それだけ聞いたら俺犯罪者じゃん?!誤解招く言い方やめろよ!!」
「え?違うんですか?」
「違うわ!」
(どうしましょう…。正体は言っても分かんないでしょうし。第一私の目的は、学園でバレないように潜入捜査ですし…。多分、今回あの人たちが起こしたのは吸血鬼だけだと思いますから…。せめてこれが解決するまでここで捜査しなきゃ)
「吸血鬼だよな?何で目が赤く変わんないのかは分かんねぇけど」
「…確かに、私は吸血鬼です。目が赤くないのは、このチョーカーの魔道具のおかげです」
そう言いながら、そっと首にあるチョーカーに触れる白雪。アルトもおもむろに手を耳についたピアスに持っていく。
「へぇ。俺と同じことしてるやつがいるなんてな。じゃあ、俺もとるからお前も取れよ」
(何でこの人が素顔を晒すのかは謎ですけど…。弱みを握られている以上致し方ないですね)
「「せーのっ」」
妙に息があった2人が、一斉に魔道具を外す。白雪は、眼鏡だけをはずしていたが。
現れた白雪の素顔は、黒目黒髪の美少女(胸は縮んだまま)だ。彼女の素顔を見て驚いたのか、アルトが固まる。そんなアルトも、紺色の髪に銀色の目の、レオンと同い年くらいの美青年で、黒い髪の毛はカツラで、顔が認識阻害の魔道具によって素顔より普通な顔になっていたようだった。
「エセ神父?!」「赤目?!」
そして、また二人揃って相手を指さして叫んだ。実は、アルトの正体は、4人目の英雄、ルセ・フィアットだった。狼人族と、人間のハーフで、動揺したりすると耳や尻尾が出ることがある。勿論、動揺しまくっている今はぴょこんと耳と尻尾が飛び出ていた。
それと、2人は昔から犬猿の仲で、何かとぶつかり合っては武器を持っての戦闘に発展する。
「な、なななんでこんな所にいるんですか?!暇なんですね!そーなんですね?」
「ああ?!暇じゃねーよ!超忙しいっつーの!あのお前の知り合いが吸血鬼事件だかなんだかを起こしたせいで、こっちは折角の休暇が無くなってはた迷惑だっつーの!!」
「はぁ?!知りませんよ!あの時は知り合いとか言いましたけど、一方的に知られてるだけで、こっちは全然知りませんよ!何で赤の他人のせいなのに私に八つ当たりしてくるんですか?!だからエセ神父なんですよ!どっからどう見ても聞いても、聖職者には見えませんし!!」
怒涛の勢いで言い合う2人。そのうち、またもや二人揃って、戦闘態勢に入りだした。
「言ってくれるじゃねぇか。なら、今、白黒つけてやろうじゃねえの!」
「へぇ。舐めてると痛い目見ます…よ…あ、れ…?」
フンっと鼻を鳴らした白雪が、1歩前に踏み出した時、ついに、血を流しすぎたり、先程の戦闘の怪我から、体力の限界でフラリと身体が傾く。
「うわっ、おいっ!」
「思った、より…。血が、たりないで、す。今日、誰かさんの、せいで…、のみ損ねた、から…」
荒い息を吐き出しながら、苦し紛れに話す白雪の言葉に混じっている悪態に額に青筋を浮かべながら、抱きとめる。
「ちっ。これで貸し借りなしだ」
「…教会本部になんか連れていったら殺しますよ」
「ちっ。このチャンスに浄化してやろうと思ってたのにな」
白雪をおぶると、明らかに、教会本部の方へ向かって歩き出したルセに、ジトッとした目で言う白雪。
「それと、変なとこ触っても殺します」
「はぁ?誰がお前みたいなまな板触って喜ぶかよ」
結局、白雪の家まで送ってもらい、そのままベッドに寝かせてもらうことになった。ローブを脱いで、下に着ていた簡素だが可愛いワンピースで、ベッドに寝転ぶ。
「お礼は言いませんからね。元々はエセ神父のせいです。それに、血を提供するとこまでしないと、割にあいません。」
「いちいちうっせぇな。それと、血の提供なんて嫌に決まってんだろ。吸血鬼の吸血行為時にどうなるかなんて、教会やってるやつらは皆知ってんだよ。…つーか、そのチョーカーも取れよ。魔道具って言うことは、魔力を消費するだろ」
言いながら、白雪の首についたチョーカーを取った。
「あ。それ取ると、重くなるから、嫌だったんですけど…。まぁ良いか」
外した途端、髪色は銀色に、目の色は赤色、そして、胸が元の大きさに戻った。
「…………………………………は?」
瞬きの一瞬で変わりすぎた胸のサイズに、たっぷり間を開けた後、呟いて何度も目を擦りながらそこを凝視するルセ。
「ああ、なんだ。偽乳か。驚かせんなよ」
へらっと笑いながら、白雪の胸を軽く掴むようにして揉んだ。
「……」
柔らかい胸の感触に、頭にハテナマークを浮かべながら、2回3回と揉むルセ。白雪は驚きすぎて固まっている。
4回目、となろうとした時、復活した白雪が魔力の衝撃波でルセを壁までぶっ飛ばした。
「っ?!な、なに、何すんの?!あ、有り得ない…!動けないからって!最低!!」
涙目になりながら、遅い動作で起き上がり腕を胸の前で交差して守るようにする白雪。テンパりすぎて、いつもの敬語が抜けている。
「…?……?………ホンモノ?」
壁に背中を預けたルセが、手を見つめながらグーパーと握ったり開いたりしている。今だ現実だと理解出来ず、固まっていたが、やっと理解したのか、白雪を見ながら呟いた。
「本物に決まってるじゃない!!この変態神父!!」
顔を真っ赤にさせながら叫んだ白雪を呆けて見ていたルセだが、途端にかぁっと顔が真っ赤に染まる。
「いやっ、ごめっ…そんなつもりは無かった…!」
「う…」
(なんか、いつも絶対謝ったりしないくせに、こんなに謝ってくるから調子狂います…。あ、そうだ)
「なら、お詫びしてくれますか?」
「…ああ。俺に出来ることなら」
少々不本意そうだが、了承したルセに、白雪は内心ニヤリと黒く笑う。
「なら、血の提供を望みます」
「ッ?!……マジで?」
「はい。マジです。今血を飲めば、体力はすぐに回復しますし、手の怪我も治りが早まります。とても効率的だと思います!動けないんで誰かの血を吸いに行く事も出来ませんし…。お願い、聞いてくれますよね?」
その言葉を聞いて、迂闊に了承したのを本気で後悔するルセだった。
だが、1度言ってしまったものは仕方ないので、大人しくベッドに向かうと、白雪の近くに胡座をかいて座る。
「……」
(ふふっこれで少しは気が晴れるというものです!乙女の胸を触った罪は大きいですよ…!でも、吸血したら、体力も回復しますし、ついでに吸血された側は辛いみたいなのでルセへの嫌がらせにも丁度良いですね!)
内心、してやったりとほくそ笑む白雪に気づかず、襟元をはだけさせたルセは、黙って座り込んでいる。白雪の方を体は向いているが、顔は横を向いている。ルセの胡座をかいた足の上によじ登ると、肩に手を添えて、首筋に顔を近づけた。
「では……。あ~むっ」
「っ!」
ルセの白い肌に牙をたて、ゴクリと血を飲む。首筋の痛みに呻いたルセ。
「うっ……ぐっ…!」
レオンの時同様、無意識に快感を引き出す魔法を流されているルセは、無理やり白雪を自分から剥がそうとする。しかし、レオンの時とは違って、万全では無い白雪の腕力はほとんど無く、押し返されそうになるが、その度に吸血している首筋を舐めたり、痛く牙をたてたりすると、力が弱まり、血を堪能することができた。
「お、いっ…!赤目っ!も、い、だろ…」
「ふぁらふぁら~(まだまだ~)」
「ふ、ざけん、なっぁっ!……っ」
顔を真っ赤にして、汗を流しながら苦しそうに呻くルセを見て、流石にやりすぎたかなと思った白雪は、大人しく牙を抜いて、首筋に残った血を舐め取り、ルセの足から降りた。舐めとる際に、ルセの肩がビクリと大きく震えていた。
白雪が離れた瞬間、バサリと掛け布団を持ち上げて、そのまま被ってベッドに寝転がってしまったルセ。
「えっちょっ!泊まっていくんですか?何で??」
「うっせぇ!こんなんで外歩けるか!」
耳まで真っ赤になったルセが怒鳴りながら今度は頭まで深く布団を被る。
「…もっと寄ってください。シングルベッドなんですよ」
仕方なくモゾモゾと同じ布団に入ると、ルセの広い背中を見る。
(初めてあった時は、レオン同様子供だったのに、人間の成長は早いんですね…。まぁ、ルセは半獣ですけど)
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久しぶりの投稿失礼します!
待ってくれていた方はお待たせしました!!
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生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
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