白銀の死神姫

Alice

文字の大きさ
28 / 31
二章 忍び寄る影

episode26 吸血鬼事件④

しおりを挟む
ー6時限目の体育ー

『彼の者の自由を奪え。フローズン』

   パキパキと、練習用に置かれた人形の足元に氷の膜が張り、みるみるうちに人形の足元を覆っていく。それでも、彼女、白雪から見たら致命的な遅さだった。

(ここは実力主義の学園ではないから、クラス分けはいたって普通、なんですけど…。彼らたちでは確実にあの男に対しては足止め要員にもなり得ませんね)

   クラスメイト達が汗を浮かばせながら体術や魔術を教師に習って頑張っている様子を、いつものように日傘兼武器である祝福の白ゼーゲン・ホワイトさして校庭に設置されたベンチに腰掛けて見ていた。

「あの女、またサボってっし!」

「病気とかでもないっぽいのに見学とかふざけてるわ~。うわっ、こっちジロジロ見てくんだけど!キモッ!」

「ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!あれくらいならそこらにいっぱい居るしー」

「「「ね~~!」」」

   この学園は、白雪が前にいた王立カタストル学園とは違って、一般庶民の生徒が多く通う。そのため、今は一応伯爵令嬢である白雪にあまり畏怖や敬意を払っている様子がなかった。勿論、貴族の生徒はそんな馬鹿なことはしないが、自分が絡まれても嫌なので止める様子もなかった。
   濃く化粧をして、スカートを太股のギリギリ辺りまで短くしたギャル風の女子3人がゲラゲラと下品に笑っていた。

(はぁ。またですか。最近あの3人によく標的にされますね)

   何度目かに繰り返されるギャル3人の嫌味を軽く聞き流しながら小さく嘆息する。3人はまだ白雪の悪口に花を咲かせていた。その内容は彼女の耳に嫌でも聞こえてくる。

「あのぉ、アリスさんってぇ、ご病気なんですかぁ?そうじゃないなら、あんまり授業を休むの良くないと思いまぁす!」

   はーい!と元気に手を挙げながら、柔らかそうな桃色の長髪を揺らして近づいてくる少女。

(…誰でしたっけ?あの事件現場にいた子だということは分かるんですけど)

「えぇっ!もしかして、私の名前分からないんですかぁ?!酷いですぅ~」

   可愛らしい顔を少し歪めて、うるっと瞳を濡らす姿は、庇護欲をそそる。周りにいた男子は揃って白雪に厳しい目を向ける。

「すみません。まだ引っ越してきたばかりなので。顔と名前が一致しないだけです」

   わざわざクラスで孤立無援になりたいわけじゃないので、素っ気ないながらも謝ってみる。

「そうだったんですねぇ~!私の名前はマリー・エスタレアですよぉ。今度はすぐに忘れないようにしっかり覚えていて下さいねぇ?」

   その言葉に、周りにいた生徒達がクスクスと笑った。

「あの子、あの年で人の名前も覚えられないの?頭悪いのね~」

「ホントそれ~!なんか、ざまーみろって感じだったよね~」

(…このマリーとか言う子には空気を読んで言葉を発してほしいところですね。それに、彼女は私に1度も名乗っていないのだから、私が知っているわけないんですけどね)

「そうですね。エスタレアさん。先程の質問に対しての答えですが、私は身体が弱いので、体術や魔術の授業訓練は受けることが出来ません」

「ふぅん…。それってぇ、魔法も使えないし、体術も使えない──。つまり、戦えないってことぉ?」

「えぇー!スノウホワイトさんって戦えないのー?!やっばー!学園来る意味なくなーい?」

「まじそれー!あははははっ!」

「ダッサー!あはっ!!」

(…変わった話し方をする人達ですね)

   またもやマリーの言葉により、周りは白雪を嘲笑し出した。しかし、その空気を作った当の本人は、「笑っちゃダメだよぉ~」と言って、周りを宥めている。

「…」

   関わるだけ無駄と判断した白雪は、スッとベンチから降り立つと、そのまま校舎へ向かって歩き出した。
   しかし、そんな彼女をマリーが追ってくる。

「怒らせちゃったぁ?ごめんねぇ…。悪気はなかったんだよぉ」

   目尻に涙を溜めて白雪の前に出た彼女は、急にわっと目元を隠す。クラスメイト達からは離れた所で、聞こえておらず、訝しげに遠巻きで見ていた。

「わぁ~ん!」

   目元を覆ったまま、パタパタと先程のギャル3人組に近づくと、ポロポロと涙をこぼした。

「酷いよぉ。アリスさん…。私は怒らせちゃったみたいだから謝っただけなのにぃ…。キモイから近づくな!なんてぇ…」

   女子に背中をさすられ、嗚咽に背中を震わせながら、訴える。不意に、こちらを覗いた目は白雪だけに見えるように笑っていた。立ち止まって生徒達の方を振り向いていた白雪はその目を見て思う。

(へぇ。大した演技力ですねぇ。とはいえ、これは少し面倒臭いことになりましたね)

「私はそのようなことは一切言ってませんが?」

   はぁと、嘆息してから一応弁解した彼女だったが、それをマリーと言う少女を信じるクラスメイト達に届くことは無く、皆一様に白雪を睨んでヒソヒソと白雪の悪口を語っている。その内、やはりギャル3人組が、前に出てきて白雪の前に立った。

「ちょっと!あんた!!伯爵令嬢だかなんだか知らないけど、お貴族様って皆あんたみたいに性格悪いの?」

「マリーちゃんに謝りなよ!聞いてんの?!」

「このっ!澄ました顔して!」

   3人の中の1人が、白雪の胸ぐらを掴んで殴ろうとした。が、振り上げた手は空中で止まる。

「女が暴力はダメだろ。やめろ」

   ルセが、ギャルの手首を掴んで止めていた。黒髪に銀色の目の変装姿。つまり、アルトの状態だ。認識阻害のピアスで、顔のランクを落としているとは言え、元が良すぎて、白雪同様普通にイケメンになっている。

「あ、アルト様!こ、これは、そのっ」

「その女がマリーちゃんを泣かしたんです!暴言を吐いて!!」

「そうです!その女が悪いのですよ!!」

   サッと手を引っ込めた女子は、そそくさと残りの2人の元へ戻っていき、3人で揃って(敬語で)白雪を貶める。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

【完結】前世聖女のかけだし悪女

たちばな立花
ファンタジー
 魔王を退治し世界を救った聖女が早世した。  しかし、彼女は聖女の能力と記憶を残したまま、実兄の末娘リリアナとして生まれ変わる。  妹や妻を失い優しい性格が冷酷に変わってしまった父、母を失い心を閉ざした兄。  前世、世界のために家族を守れなかったリリアナは、世間から悪と言われようとも、今世の力は家族のために使うと決意する。  まずは父と兄の心を開いて、普通の貴族令嬢ライフを送ろうと思ったけど、倒したはずの魔王が執事として現れて――!?  無表情な父とツンがすぎる兄と変人執事に囲まれたニューライフが始まる!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

豚公子の逆襲蘇生

ヤネコ
ファンタジー
肥満体の公爵令息ポルコは婚約者の裏切りを目撃し、憤死で生涯を終えるはずだった。だが、憤怒の中に燃え尽きたはずのポルコの魂は、社内政争に敗れ命を落とした男武藤の魂と混じり合う。 アニメ化も決定した超人気ロマンスファンタジー『婚約者の豚公子に虐げられていましたが隣国皇子様から溺愛されています』を舞台に、『舞台装置』と『負け犬』落伍者達の魂は、徹底した自己管理と泥塗れの知略で再点火する。 ※主人公の『原作知識』は断片的(広告バナーで見た一部分のみ)なものとなります。 己の努力と知略を武器に戦う、ハーレム・チート・聖人化無しの復讐ファンタジーです。 準備を重ねて牙を剥く、じっくり型主人公をお楽しみください。 【お知らせ】 第7話「結実の前夜」は2026/02/09 08:00公開予定です。

処理中です...