いきなりマイシスターズ!~突然、訪ねてきた姉妹が父親の隠し子だと言いだしたんですが~

桐条京介

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第12話 あまり悪い気のしない新生活

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 翌朝になって出勤した透を、危険人物こと修治が待ち構えていた。多少むくれているように見えるのは気のせいではないだろう。

 同居を始めた姉妹ほどではないが、透の生活環境もこれまでとは少なからず違っていた。

 職場でのやりとりもその一つだ。

「透さん、酷いと思わないっスか」

 いきなり言われても、何のことかわからなければ頷きようもない。透はさあなとだけ言って持ち場へつこうとする。

 どうしても愚痴りたいのか、足早に歩く透に修治が追いすがる。

「聞いてくださいっス。昨日の夜、晩飯買いに来たついでに売り場へ寄ったんス。そしたら主任が遅番にレジ締めを任せて帰ろうとしてたんスよ」

 自分のせいだと知っている透はギクリとする。

 顔に出さないように気をつけつつ、話によっては奏のフォローをしようと決める。

「主任だって早く帰りたい時だってあるだろ。朝から出勤してるんだ。シフトで決められた終業時間は過ぎてるんだから、何も問題はないだろ」

「それが大ありなんス!」修治が声を荒げる。「三階のゲーセンでちょっと遊んで帰ったんスよ。そしたら主任が透さんの妹と銭湯に入っていくところを目撃したんス!」

 見られていた不運を呪う。恐らく修治は、透と奏が恋仲ではないかと疑っているのだ。

 さて、どうやって誤解を解こう。

 透が頭を悩ませていると、解決策を導き出す前に修治がよく喋る口から狂言をぶっ放した。

「お風呂のお世話ならどうして俺に頼まないんスか。幼女と混浴。はあはあ――ぐぼぉ!」

 口角から泡を飛ばした修治の上半身が見事なえびぞりを披露する。

「君はまた朝から不快な冗談を飛ばしているな。開店前とはいえ、お客様に聞かれたらどうする。そんなに私に蹴られたいのか」

「も、もう蹴ってるっス。うう、どうせなら幼女に……」

「考えを改めないのなら通報するが?」

 奏の目は本気だった。

 修治は慌てて冗談だと言い、逃げるように奏から離れる。

「ほ、本気にしないでほしいっス。それより主任こそ、どうして透さんの妹と一緒に銭湯へ行ったんスか? まさか二人はそういう仲?」

「な――!? あ、あれは頼まれたから、その……」

「上手く説明できないなんて怪しいっス。そういや透さんは主任の仲介で、ここで働くようになったんスよね」

 修治が入社したのは透の後だが、社内には色々と話好きな中年女性の従業員も多いため色々な噂が飛び交っている。

 誰の懐にもするすると入っていく修治は、そういう情報を集めるのが得意だった。

 だからこそ噂好きな人間は修治を見つけると話しかけ、互いに情報交換しては知識を深めていく。

 噂されている当人とすれば、ろくでもない交流にしか思えないが。

「そ、それがどうした。先ほども言ったが、頼まれたから手伝っただけだ。立花君は女性の知り合いが少ないらしくてな。ましてや戸松のような人間には任せられないだろうからな」

「うわ……なんか俺だけ君付けされなくなったっス」

 人格を疑われるような発言をしていたせいなのだが、自業自得とは思わずに修治は若干の落ち込みを見せる。

 だが透が憐れむより先に立ち直り、満面の笑みを浮かべて奏に歩み寄る。

「でも、それだけ俺を特別視してるってことっスよね。今日は俺と一緒に混浴パーリーするっス!」

「一回死んでこい!」

 気が済むまで修治を蹴りつけると、奏は昨日と同じ場所で迫る開店の時刻を待つ。

 一方で床に倒れていた修治は立ち上がり、ワイシャツについた靴跡を手で払いながら透に笑いかける。

「ボコボコにされたっス」

「当たり前だろ。あれじゃ、蹴ってくれと言ってるようなもんだ」

「最近ではそれが癖になりかけてるっス」

「マジか」

「嘘っス」

 ため息をつく透を見て、楽しそうに修治は腹を抱える。

「まあ混浴は冗談っスけど、何か俺に手伝えることがあったら言ってくださいっス。連絡貰えれば、シフトも変わったりできるっスから」

 サムズアップをすると、修治は奏から怒られないうちに配置へ着く。

 なんやかんやと騒がしいが、それでも思いやってくれてるのだと知り、透の口元が微かに緩んだ。





 午後七時を過ぎ、シフト通りに帰宅すると家では姉妹が掃除をしている真っ最中だった。

「おかえりなさい」

 何をしてるんだと問いかける前に、透の帰りに気づいた里奈が新妻よろしく恭しく出迎える。

 姉の動きに気づいた奈流も、ぴょこんと顔を覗かせる。

「えへへ。奈流たち、おかたづけしてたんだよー」

「そうか」

 家の壁はコンクリートだが、玄関や階段は木や板でできている。その辺りが光り輝くといえば大げさだが、しっかりと拭き掃除をされた跡があった。

 父親の死後は帰ると一人だったので、誰かが家にいるというのも変な感じがする。ただし、さほど悪い気はしない。

 改めてただいまと言ってから、透はスーパーの食品売り場で買ってきた食材をテーブルに広げた。惣菜の唐揚げやコロッケなどだ。

「あまり派手に金を使うわけにはいかないから、おかずの量は少なくなるな。ただ、米だけは減らさないようにしよう」

 昨夜のうちに奏が準備してくれていたので、今朝も美味しくお米を食べられた。その残りをそれぞれの茶碗によそっていく。

 電子レンジで温めて、いただきますをする。とりわけ声が大きかったのは奈流だ。

「おなか、ぺこぺこー。あむむっ。おいしいー」

「ちょっと奈流。もう少し静かに食べなさい」

 自由奔放な妹に、礼節を教えようとする姉。姉妹の関係性は、誰が見ても一目で丸わかりだ。

 とはいえ里奈の場合は、居候させてもらっているからと透に遠慮してるのは明らかだった。

 その必要はないと言っても、素直には従わないだろう。彼女はとにかく、家から追い出されるのを恐れていた。

 正確には奈流と離れ離れになるのを。

「構わないさ。昼も騒がしい社員食堂で食べたりしてるしな」

 言ってから透は、今後は姉妹の学費の他に給食費なども発生するので節約する必要があるなと考えた。

 頭が痛くなりそうだが、それでも透は恵まれている方だ。

 姉妹を通わせる小学校の校長が綾乃なのもあり、予備があるからと教科書やランドセルなどを無料で進呈してくれた。

 だが、そんな都合のいい話がそうそうあるはずもない。恩着せがましく言うことはないが、彼女が自腹で購入してくれたのだ。

 申し訳なさを心の奥底に押し込み、事情を半ば知りながら透は好意に甘えた。その代わり姉妹が巣立ったら、必ず恩返しをしようと心に決めて。

「ところで学校はどうだったんだ?」

「うん。たのしかったよー。みっちゃんがね、ともだちになってくれたんだー」

 みっちゃんと言われても誰のことやら透にはさっぱりだが、それでも奈流に虐められてるような様子はないので安心する。

 里奈の方はといえば真面目な顔つきで「問題はありません」と言う。まるで部下の業務報告である。

 食事を終えると銭湯に行き、帰ると明日の準備をする。

 透が米を研いでいると、そばに姉妹が寄ってきた。

「私たちもお手伝いします。それに簡単な料理なら作れます」

「そうか。なら手伝ってもらうか。ただ料理は俺がいる時にしてくれ。不在の時に火を使って、何か問題が起きれば困るからな」

 暇さえあれば透の手伝いをしたがる姉妹。

 慣れ親しんだ家とは違うので、居場所がないというか何かをしてないと落ち着かないのだろう。

 一応は二階に透が使っていたテレビを残してきているのだが、それを見ている感じもあまりなさそうだった。

 朝に炊けるように炊飯器を予約する。

 ついでに洗濯機も回しておこうと動けば、やはり里奈もついてくる。

 綾乃から貰ったと思われるメモ帳に、小さな指で持ったペンで米の研ぎ方やら洗濯機の使い方を書き込んでいる。

 手伝うなと言えば逆に拗ねるかもしれず、もしかしたら下着などは自分で洗いたいという気持ちもあるかもしれない。

 そのため、透は聞かれたことには素直に答えた。

 里奈は真剣に聞いているが、もう一人の奈流はどことなく暇そうだ。手伝いたい意思はあるものの、幼い少女らしくテレビなどに興味を惹かれている。

「無理して手伝わなくても、テレビを見ててもいいぞ」

「ほんとっ!?」

 奈流の顔が太陽のごとく輝く。だが途中でやっぱりいいやとなる。

 姉の里奈に鋭く睨まれてしまったせいだ。

 やれやれと透は肩をすくめるものの、積極的な干渉はしないと決めているので口うるさく何かを言ったりはしない。

 一通りの家事をこなすと、午後十時を過ぎていた。

 里奈も目をしょぼしょぼさせているが、より睡魔の猛攻を受けているのは奈流だ。今にも床へ倒れ込んで寝息を立てそうである。

「もういいから、二階へ行って寝ろ」

 はいと返事をした里奈は奈流を連れて、自分たちの部屋となる二階へ移動する。

 これで透もひと息つけそうだった。
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