いきなりマイシスターズ!~突然、訪ねてきた姉妹が父親の隠し子だと言いだしたんですが~

桐条京介

文字の大きさ
28 / 35

第28話 突然の電話

しおりを挟む
 ただならぬ雰囲気を察した透は、慌てて言い訳を開始する、

「知っていたといっても、親父の日記に二人の両親の話があったから、血は繋がってないなと思ってただけだ。奏さんから言われて、確信を得たくらいなんだよ。だから落ち着いてくれ」

「さすがね、奏。眼光一つで大人の男性をここまで怯えさせるなんて」

「私は鬼か悪魔か! そもそも! 事実を知ったなら、すぐに教えない母さんも悪い!」

 悪役に指名された綾乃は、悲しそうに目を伏せた。

「教えたあとのことを考えれば怖かったのよ。大人のエゴとはわかっていたけれど、可能なら自らの意思で今後の人生を選択した幼い姉妹を応援してあげたかった。もちろん透君が拒絶の意思を示していれば無理強いするつもりはなかったわ。でも、彼は大きな器と心で里奈ちゃんと奈流ちゃんを受け入れた。だから余計に悩んだ。事実を教えた結果、悪い未来に繋がったりしないかと」

 だけど、と綾乃は言葉を続ける。

「それも私の勝手な考えでしかなかった。すべてを決めるのは当事者でなければならない。判断が間違っていたのを認めるわ。ごめんなさい」

 素直に謝罪されたからか、毒気を抜かれたように息を吐いて奏は「もういい」と言った。

「確かに透と里奈たちの問題だからな。しかし、嘘をついたのはいただけない。最初から正直に話すべきだったのではないか?」

 奏が答えを求めたのは、ようやく泣き止むも、半乾きの髪を上下に揺らして呼吸を整えようとしている里奈だった。

 奈流がまだしゃくりあげているのもあって、彼女が透の前に座ってまずはおもいきり頭を下げた。

「ごめんなさい。全部、私が決めたんです」

 目を見るのが怖いのか、その体勢のままで里奈は嘘をついたいきさつを説明する。

「ママが亡くなったあと、奈流と離れたくなくて家を出たまでの説明は変わりません。それに最初は嘘をつくつもりもなかったんです」

 何かあった時は武春を頼れと、母親から言われていたのは本当だった。

 純粋に事情を話して力になってもらうつもりが、最後の砦ともいえる男はすでに死んでいた。

「絶望で目の前が真っ暗になる中、お兄ちゃんの――武春おじさんの子供の話を聞きました。私、どうしても神崎のおばさんのところには戻りたくなかった」

「奈流もー。あのおばさん、いじわるしかしないんだもん!」

 ぷんすかと怒る奈流の頭を優しく撫でながら、俯き加減の里奈が頭を軽く縦に揺する。前髪が額の上をさらりと流れた。

「ママのお墓のそばにいたかったけど、神崎のおばさんの世話にはなりたくなかった。大人になってから、ママの近くに住めばいいって考えました。でも、そのためには生活しないといけません。武春おじさんが死んだと知って、教えてもらったお兄ちゃんの家へ歩きながら考えました。どうすれば一緒に暮らしてくれるだろうって」

「必死に悩んで絞り出した答えが、妹と偽ることか。だが、それにしても危険は伴うぞ。透がその神崎のおばさんとやら以上の悪者の可能性もあっただろう」

「優しい武春おじさんの子供だから、大丈夫だと信じてました」

 言い切った里奈に、どこか疲れたように奏は声をこぼした。

「咄嗟についた嘘といい、そういった面ではやはりまだ子供だな」

 食卓を囲むではなく、居間の真ん中で円になって皆が座っている中、首を伸ばした奏が里奈の顔を間近から覗き込む。

「いいか? 今後はあまり人を信じるな。世の中には悪い人間もたくさんいるんだ。優秀な親の子供であろうともな」

 神妙な顔で、里奈は忠告を受け入れる。そして改めて、一同に謝罪する。

「本当にすみませんでした。全部、私の考えです。追い返されるのが怖くて、奈流に妹だと演技するようにも言いました。でも、信じてもらえないかもしれませんが、近いうちに全部話すつもりだったんです」

「そうなのか?」透は聞いた。

「はい。実は夜に部屋で二人になるたび、奈流からお兄ちゃんに嘘をつくのが辛いと言われてて……。毎晩慰めてましたけど、最近では正直に言いたいと泣く妹を抑えきれなくなっていたので、機会を見て私から話すと約束しました。それが数日前です。でも……」

 里奈が再び涙をこぼす。

「いざ事実を告白しようとしても勇気が出なくて……。お兄ちゃんなら知っても受け入れてくれると思っても、妹でないなら出ていけと言われたらどうしようとそればかりで。そうして話せないまま過ごすうちに、今日になりました。ごめんなさいっ」

 先ほどから里奈も奈流も謝りっぱなしである。本当に申し訳なく思っている証拠であり、声を荒げて責めるつもりは透にはなかった。

「話し辛かったろうしな。気にしなくていい……と言いたいところだが、奏さんも言っていた通り、きちんと事情を説明するべきだった。反省もしているみたいだから、これ以上は言うつもりはないけどな。でも、俺の妹ならしっかりしろ」

 顔を上げる里奈と奈流。妹と呼ばれたことで、二人の涙腺はさらに崩壊する。

「おぢいぢゃあん」

「俺に孫はいないぞ」

 笑い、透は号泣しながら抱きついてくる奈流を受け止める。里奈も一緒になってわんわん泣く。

「ウフフ。すっかり本当の家族になったわね」

「それはそうかもしれないが、問題はないのか?」

 体を寄せ合う三人を見守りながら、奏は自身の母親に小声で尋ねた。

「当人たちは家族だと言っても、実際は血の繋がりがない他人だ。他の者が知ったら、面倒な事態になるのではないか?」

「大丈夫でしょ。あの子たちの親戚は引き取りを拒否していたし、問題を起こしそうなのは例の神崎律子氏だけど、透君から預かったお金で借金を返済した際に二度と関わらないと誓約書を交わしたからね」

「だといいが……」

「心配しすぎよ。それより、せっかくだから皆でご飯を買いに行きましょう。今から作ると時間がかかるでしょうしね」

 綾乃の提案で、途端に泣いていたはずの奈流が笑顔になる。

「やれやれ、現金な奴だな。誰に似たんだか」

「お兄ちゃん!」

「俺かよ!」

 里奈も含めて全員で笑い合う。今日、初めて二人と家族になれた。透はそんな気がしていた。





 梅雨も半ばに差し掛かり、相変わらずじめじめしているが気分は晴れやかだったりする。

「いってきます!」

 朝に笑顔で家を飛び出す奈流。そのあとを姉の里奈が慌てて追いかける。

「ちょっと待ってってば! 私もいってきます」

「ああ。いってらっしゃい」

 すでに癖になっているらしく、だいぶ柔らかくはなったが、里奈はまだ時折丁寧な動作を見せる。

 しかしそれも彼女の個性と割り切り、特に矯正させるつもりもなかった。

 透も出勤準備をしようとしたところで、けたたましく携帯電話の呼び出し音が鳴った。見慣れない番号だ。

「もしもし」

 電話に出た透の耳に届いたのは、つんざくような金切声だった。

「ちょっと! 神崎だけど、貴方一体どういうつもり!?」

 電話をかけてきたのは神崎律子だった。

「里奈ちゃんたちと貴方、血が繋がってないというじゃない! これでは安心して二人を任せられないわ! 今すぐにでも返してもらいます!」

「返すって、彼女たちは物ではないでしょう。それにもう貴女は二人と関わらないはずでは?」

 要求された通りに高額の借金返済をしたのだから、神崎は透にとって何ら関係のない自分になったはずだった。

 しかし神崎はフンと鼻で笑い、小ばかにするように告げる。

「それは貴方が彼女たちの血縁者だと思っていたからよ。そうでなければ話は変わるわ。赤の他人が少女二人を引き取るなんて、犯罪のにおいがするわね」

「犯罪!? 見もしないで勝手に決めつけないでほしいですね」

 確かに傍から見ればおかしなことをしているかもしれないが、頼られたから助けただけである。

 さらに今では血が繋がっていなくとも、透は二人を本物の妹だと思っていた。

「それに交渉なら、他の人が貴女としていたでしょう」

 綾乃の性格上、然るべき代理人を立てて誓約書などをまとめたに違いない。その点を指摘するも、神崎に動揺はない。

「約束は守っているでしょう。私はあの二人に関わっていない。貴方と話をしているのだもの」

 クスクス笑う女の言葉一つ一つに、全身の血が沸騰しそうなくらいの怒りを覚えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...